異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

少子化対策特命担当大臣


「みんな、ただいま!」

 カフェに戻ると、婚約者たちが、信じられないといった様子で、目を丸くしている。え? なんで!?


「そんな……先輩が新しい婚約者を連れていない……」

 落としたティーカップがパリンと割れて、へなへなと崩れ落ちる美琴。

「お、お兄ちゃん!? 大丈夫? どこか具合が悪いの?」

 アリサは目尻に涙を溜めて今にも泣き出しそうな雰囲気だ。

「ほ、ほら、尻尾触って良いから! 辛い時は甘えて良いんだからね」

 ありがとうミレイヌ……ってそうじゃない!

 くっ、まさかここまで俺のイメージが酷いことになっていたとは……事実だけに何も言えないのが罠だが。

 ここは、きちんとクレハとシグレのことを伝えて、みんなを安心させるべきだろうか?

 いやしかし、果たして刃物は婚約者と呼べるのか? ルシア先生、刃物は婚約者に含まれますか? グレーゾーン極まりないし、なんかかえって心配させてしまいそうな気がしないでもない。


『――――ということですので、いつものカケルさまでした。皆さまご心配なく』

 俺の有能な専用メイド長が、実況中継で複雑な心境を赤裸々に説明してくれたよ。死にたい。


「さすが先輩! もうっ、心配させないでよ!」
「お兄ちゃん……刃物がありなら、妹もあり? ……ゴクリ」
「くっ、ライバルが幅広過ぎるんですけど!?」

 でも、みんな安心? してくれたから、これで良かったのだろう。多分。


***


「おおおおおお!? リリス! 我が娘よ! さあ、おいで。抱き締めさせておくれ!」

 リリスの父であり、アトランティア国王のサタン陛下が、両手を広げてリリスを待ち構えている。

 百年以上振りの感動的な親子の対面なのだが……

 サタン陛下は、名前の通り、いや、名前以上に恐ろし……いや強そうな見た目をしていらっしゃる。

『先輩……あれはどう見ても魔王……』
『…………それな』

 2メートル超のサタン陛下が、小柄な中学生のようなリリスを抱きしめる絵面は、控えめに言っても通報案件だ。しかも、陛下ってばヒモアーマー装備してらっしゃるし…… 

「きゃああああああ!? なんて芳醇な魔力の香り……さあ、カケル殿、いらしてください。魔力を吸わせて下さいな」

 一方で、会うなり魔力酔いを発症し、両手を広げて誘惑してくるリリスの母で王妃のリリムさま。当然ヒモアーマーを身につけていらっしゃる。アトランティア最高。悔しいが、これはゲスマルクも良い仕事をしたと認めざるを得ない。


 でも、結局このパターンなんですね。わかります。え? 全然嫌じゃないですよ? 

「義母さま、どうぞ、お好きなだけ魔力を吸って下さい」
「……リリム」
「リリムさま、どうぞ、お好きなだけ魔力を吸って下さい」
「……リリム」
「好きなだけ魔力を吸ってくれ、リリム」
「はい! ちゅうううううう……」

 可愛さに負けた……

 なんでこの世界の母親は、娘より見た目幼いんだ? リリムさまの見た目はどう見てもリリスとリリアの中間なんですけど!? オールラウンダー適性をもつ俺じゃなかったら、絶望するところだったよ?

「はあああああ!? 凄いわ!? こんなの知らない……駄目になっちゃううぅぅ!?」

 あの、リリムさま、嬉しいんですけど、人目もありますから、もうちょっと声を抑えていただけると……

「ハハハッ!! リリムをここまで狂わせるとは、さすがは稀代の英雄といったところだな。後で我にも吸わせてくれよ?」

 げっ!? そうか……サキュバスだから、男も魔力吸うんだよな。正直想定外だ。

「わ、分かりました。でも、どうやって吸うんです?」

 これは聞いておかねばならない。場合によっては、陛下にメタモルフォーゼしてもらう必要があるからな。

「ふふふ、そんなこと、決まっているだろう?」

 そう言って、俺の下半身を見る陛下。

 うわああああ!? メタモルフォーゼ待ったナシ!! ってそうじゃない。これは無理無理無理。

「ワハハハッ、冗談だよ、冗談! サキュバスジョーク!」

 焦る俺を見て大笑いする陛下。その見た目で冗談言われても怖いだけですからね?

 どうやら男のサキュバスは、基本的に女性からしか魔力を吸わないそうだ。稀にそうじゃないサキュバスもいるらしいけどね。


***


「それにしても、まさか宰相と騎士団長がな……国を救ってくれて感謝するぞ、婿殿」

「ですが、ゲスマルクに代わる人材はいるのでしょうか?」

 実質、国を動かしていた宰相がいなくなる影響は大きい。騎士団長のゲスティニーはともかく、ゲスマルクの宰相としての手腕は確かだったのだから。

「心配ない。最近は、ほとんどの実務は副宰相のユーノウがやっていたからな」

「はっ、全く問題ありません。全て把握しておりますゆえ」

 陛下の後ろに控えていた強面のサキュバスが、恭しく頭を下げる。

 おおっ! いかにも有能そうな人材だな。これなら安心。条約の件も滞り無く進められそうだ。


「それで本題なのだが、婿殿に折り入って頼みたいことがあるのだ」

 安心したのも束の間、陛下が、何やら深刻な雰囲気で口を開く。

「俺に出来ることでしたら、喜んで協力させてもらいますよ」 

 アトランティアの問題が解決すれば、リリスやリリアの為にもなるしな。


「それは助かるよ。実はサキュバスは深刻な少子化でな。ここ数年、新たに生まれたサキュバスの子はゼロだ」

「そ、そんなに深刻なんですか!?」 

「ああ、このままだと、近い将来サキュバスという種族は消えてしまうだろうな……」

 悲しそうに長いため息を吐く陛下。

 たしかにエルフ以上に危険な状況だ。サキュバスという、素敵種族が消えるなんて、絶対にあってはならない。

「うふふ、それでね、カケル殿には、少子化対策特命担当大臣になってもらいたいのよ」

 すがるようなリリムさまのお願いを断ることなど出来るだろうか?


「分かりました。その役目引き受けましょう」

「おおっ! ありがとう婿殿、さすがは英雄、頼もしい限りだ」
「ありがとうございます! これでアトランティアも、サキュバスの未来も安心だわ」

 大喜びの国王夫妻。

 うんうん、喜んでもらえて嬉しいよ。


「……義兄さま、頑張ってくださいね」

 リリアがなぜか顔を赤くしている。

「カケル……仕事とプライベートはちゃんと分けてよね!」

 リリスはちょっと呆れたように釘を刺す。

 はて? どういう意味なんだろう?


 この時の俺は知らなかったんだ。少子化対策特命担当大臣が、どういう仕事をするのかってことを。

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