異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~
異世界カフェにて
『じゃあね、またすぐ呼んでよね、駆』
キリハさんとクレハは、時間が来たので神界へ帰って行った。おみやげに大量のプリンを持たせたので、イリゼ様にも食べてもらえるといいな。
(ありがとうございました、キリハさん)
すでに誰もいない空間に向かって頭を下げる。
彼女のおかげで、両親に手紙を読んでもらえたし、久しぶりに実家に帰ったような気持ちになれた。あと、地味にナスの肉詰めを食べた記憶が有り難かったな。ちゃんと味の記憶も伝わるからね。
なんか無性にナスの肉詰めが食べたくなってきたぞ。
でも、作りたくても、この世界ナスが無いんだよな……よし、サクラの植物創造で作ってもらおう。ふふっ、楽しみだな。
「じゃあ戻ろうかシグレ」
『では拙者も戻るでござる』
そういって消えてしまうシグレ。なんでも、人化状態を維持するのは大変なので、必要ない時はなるべく解除しておくんだとか。分かるけど、急に消えたら淋しいじゃないか。
あ、そういえばゲスマルクと共謀していた騎士団長ゲスティニーを完全に忘れていた。
奴はマインドコントロールではなく、素で協力していたからな。情状酌量の余地は無い。
まあ、さほど危険もないし、後で犯罪の証拠を突きつけてやれば済む話だ。
***
一方、カケルが王宮に乗り込んでいる間、カフェでくつろぐ婚約者たち。
「そういえば、よく休み取れたわね、リノ」
たずねたのは、ミレイヌ。今でこそ、ギルドマスターとなったが、同じサブギルドマスターとして苦労を知るもの同士、すぐに仲良くなったのだ。
「ふふっ、代行に押し付けて来ちゃいました。それに……カザネもいるから安心です」
たしかにハーピィクイーンのカザネがいれば、仮にスタンピードが再び起きたとしても何とかするだろうな、と苦笑いするミレイヌ。
「余計なお世話かもしれないけど、ちゃんとお土産買っていきなさいよ。喜ばせておけば、また押し付けやすくなるし、安い投資よ」
「なるほど……たしかに! さすがミレイヌです」
「ふふふ、それほどでもあるわよ。でも、このカフェっていうスタイルの店、すごく素敵よね?」
少なくとも、アルカリーゼには、カフェは無い。
ミレイヌは、そういえばカケルがカフェをやりたいって言っていたな、と思い出す。
「ねぇ美琴、アリサ、カフェって異世界の店よね?」
「そうですよ、ミレイヌさん」
「うん、私もびっくりしちゃった。カフェなのにコーヒーが無いのは残念過ぎるけどね」
「カフェを導入したのは、宰相のゲスマルクですよ。まだ無名だった頃に、カフェをやって大成功したらしくて、それでアトランティア中に広がったらしいです」
リリアが丁寧に教えてくれる。
もちろん生まれる前の出来事なので、知識としての話だが。
「なるほど、セントレアにもカフェはあるが、ずいぶん趣が違うからな……これが本物のカフェなんだな……」
セレスティーナが感心したようにつぶやくと、
「私もカフェをやってみようかしら?」
とカミラも気に入った様子で同意する。
「まあ、カフェの是非はともかくとして、宰相のゲスマルクが異世界人であることは、ほぼ間違いなさそうですね」
クロエの言葉に頷く一同。
「でも、異世界人か……どんな奴なんだろう? 深海の関係者だとしたら危険だよね……」
『美琴さま、その通りです。だからこそ、カケルさまは、キリハさまと二人で乗り込む決断をされたのでしょう。大丈夫、透視で見た感じでは、カケルさまの圧勝でしたから』
「へ? ヒルデガルドの透視って、鑑定みたいに、ステータスとかスキルまで分かるんだ?」
透視スキルは、記憶や感情を映像化して見ることが出来るが、鑑定のように数値化したり、文字化はされないはず。何故カケルの圧勝と判断したのか疑問に思う美琴。
『は? 格好良さの話ですが?』
「……そっちかい!」
ずっこける美琴だが、まあそうだろうなと納得する。
カケルに匹敵するような男は、向こうの世界にも、この世界にも存在しないのではないか? 少なくとも美琴はそう思っていた。
「義兄さまと宰相を比べるなんて酷いです!」
傍で聞いていたリリアも本気で怒り出す。
(あらら、これは手遅れね……)
リリスは年の離れた妹を微笑ましく見守るのだった。
***
(くそっ、何かがおかしい……)
婚約者を連れて帰国したリリスを出迎える為、王宮内を歩いていたゲスティニーだったが、どうも様子がおかしいことに気付く。
周囲のゲスティニーを見る目がいつもと違うのだ。
(ちっ、昔を思い出してしまう視線だ)
ゲスティニーが、ゲスマルクの護衛兼従者として、このアトランティアへやって来たのは、50年前。
とある小国で農民の子として生まれたゲスティニーは、優れた容姿と、戦いの才能に恵まれたある種の天才だった。しかし、生まれつき猜疑心が強く、自分以外は信じない冷酷な性格の持ち主でもあったのだ。
ある時、領主を殺し、町や村に火を放って国外へ逃亡。その後、ゲスマルクと出会ったのだが、人間性や価値観が似ていることもあって、すぐに意気投合し、行動を共にするようになった。
最終的に、宰相として力を持ったゲスマルクの指名で、騎士団長まで上り詰めたが、ハーフエルフである彼の騎士団長就任には異論も多く、そもそも、その性格ゆえ、人望が絶望的になかった。
ゲスマルクが、国中にマインドコントロールを使ったのは、主にゲスティニーの為だったという側面が強い。ゲスマルクは、ゲスティニーのクズさというか、欲望に忠実な部分を信頼していたのだ。
おかげで、長年彼は騎士団長として、欲望の限りを尽くすことができたのだ。
国内の結界内部であれば、どんなことをしても非難されることはないのだからと、彼は数え切れないほどの犯罪を重ねてきた。
だが、そんな彼を支えてきた結界と、ゲスマルクのマインドコントロールはすでに失われている。
騎士団員はもちろん、操られ、虐げられてきた王宮の人々の怨嗟の念が、ゲスティニーに集まってゆく。
彼はここで逃げるべきだったのだ。逃げきれるかどうかは別にして、チャンスはここしかなかった。
だが、ゲスティニーは逃げなかった。おかしいと思いつつも、失うものの大きさ故に、ゆでガエルが如き結末を選んでしまったのだ。
結局、彼がリリスに会うことはなかった。その前に身柄を拘束され、そのまま牢獄送りとなってしまったから。
もちろん、後日ヒルデガルドとカケルの徹底的な事情聴取が行われたのは言うまでもない。
本人にしてみれば、いっそのこと、殺された方が幾分かマシだったことだろう。
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