異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

王都ユグドラシル


 王都ユグドラシルは、世界でも類を見ない樹上に築かれた都市であるが、世界樹が大きすぎるため、相当離れた上空から見ないとその実態はわからない。

 実際に都市を歩いていても、まさかそこが樹上だとは思わないだろう。もう少し正確な言い方をするならば、枝ではなく、根の上に街が広がっているイメージだ。

 都市は全3層からなり、地中の根に沿って広がる下層。多くの人々が暮らす地表の中層。そして、世界樹の幹にそって造られた上層で構成されている。

 カケルたちが訪れる王宮は上層にあり、中層に広がる街並みを一望することができる。町並みはエルフの国らしく、木造で壁にも屋根にも苔のような植物が生えており、都市全体に若草色の印象を与えていた。

 街の至る所で花が咲き乱れ、街路樹には様々な果実がたわわに実っている。街ゆく人は、好きに取って食して構わないのだそうだ。


「うひょー! すっごい眺めだね、先輩!」

 圧巻の絶景に大興奮の婚約者たち。特に美琴のテンションがヤバいほど高い。

「ね、東京天空樹の展望台とどっちが高いかな?」
「この場所が高さ約300メートルだから、若干天空樹の方が高いかな」

 今、俺たちが居るのは、王宮からせり出した世界樹の枝に作られた天然の展望台だ。

「私もガーランドに来るのは初めてなんです。マーガレットとは、学院で一緒だったから」 

 絶景に息をもらすベルファティーナさま。そんな貴女も負けないくらい絶景ですよ……って痛い痛いクロエ噛まないで!?

 それにしても学院か……ああ……あの例の勇者学院ですね? わかります。


「眺めはどうだい、カケルくん?」

 後ろから声をかけてきたのは、金髪碧眼の美青年。神聖ガーランド王国第二王子ノーラッド。外見は10代に見えるが、48歳独身である。

「ノーラッド義兄上。素晴らしい景色ですね! みんなを連れて来なかった事を、さっそく後悔していたところです」

 社交辞令でも何でもなく、本当にそう思う。今回はシルフィたちのご両親への挨拶に来ているので、さすがにゾロゾロと婚約者たちを連れてくるのは憚られたが、次は観光で、みんなを連れて来ようと思っている。

「ハハハ、そうだろう、いつでも歓迎するよ。カケルくんの妻なら、私の妹でもある訳だし」

 妹大好きな義兄さまが嬉しそうにしているが、シルフィとサラはとても嫌そうにしている。なぜだ? とっても素敵な義兄上なのに!?


***


「カケル様が到着なさいました」

 王宮の謁見の間には、国中の要人、貴族が集まり、英雄の到着を今か今かと待ちわびており、その報せにどよめきが起こる。

 今や疑う者もいなくなった稀代の英雄カケル。先日の魔人帝国の侵攻の際にも、実質被害ゼロで守り切ったことは、ガーランドの人々の記憶にも新しい。

 誰に会うことも無く、去っていったので、実際にカケルを知る人間はほとんどいない。そのため、噂が噂を呼び、どんどん英雄としての美化されたイメージが国中に拡散されていったのだ。

 そんな英雄が、ようやくガーランドを正式に訪問するのだ。しかも双子の王女の伴侶として。歓迎ムード一色となるのも当然であり、絶世の色男だというカケルをひと目みようと、国中の若い貴族令嬢たちが王宮に押し寄せたのも当然だったのかもしれない。


「そうか……ついに来たか。しかし婿殿もよりによってこのタイミングとは……」

 ガーランド国王オヴェロンが難しい顔をする。

「ふふっ、これも何かの巡り合わせなのでしょう。でも、まさかベルファティーナと再会出来るなんて……さすがは英雄殿ですね」

 王妃マーガレットは旧友に会えるという事実に、湧き上がる興奮を抑え切れずにいた。

 それぞれが王妃となった以上、気軽に会いに行くことも難しい。事実、学院を卒業してからは、アストレアでの即位式に出席したのが最後だった。

(私たちの娘が同じ殿方に嫁ぐなんて……何だか夢みたいですね……)

 遠い日の想い出にふけるマーガレットだったが、カケルの登場を告げる声に我に返る。


「……おおぉ……これは……」 

 両脇にシルフィとサラを連れて謁見の間に現れたカケルの姿に、悲鳴とも感嘆ともつかない声が溢れる。

 この日の為にカケルが用意した式典用装備一式。『格好良い鎧』『格好良いマント』『格好良い剣』『格好良いブーツ』

 名前はくそダサいが、デザインは本当に格好良い。トラシルヴァニアの悲劇を繰り返さないように、効果は弱めに調整してある。

 見目麗しいエルフの人々に認めてもらう為、外見全振りで格好つけたのだ。

(でも……変だな? 様子がおかしい)

 脇を固めるシルフィとサラの目が完全にハートマークだし、国王陛下の顔も赤い。

 居並ぶ貴族たちも顔を赤くして、ハァハァ息を荒くしている。


 カケルは知らなかったのだ。ベルファティーナが言っていた樹粉症の意味を。

 エルフという種族は、もともと淡白な性質で性欲も薄い。しかし、世界樹の樹粉が飛散し始める時期になると、樹粉症の症状を発症する。身も蓋も無く言ってしまえば、いわゆる発情期だ。

 この時ばかりは、普段潔癖で高潔なエルフも乱れに乱れるため、樹粉症のシーズンに婚姻することが禁じられているほどだ。

 ちなみに夜の生活がこの時期にしかないという夫婦も珍しくない、というより大多数がそうだと言われている。

 そんな樹粉症のシーズンに入ったこの国で、ただでさえ手が付けられない男が全振りで格好つけたのだからたまらない。


 もしかして……またやってしまったのか? カケルがその事実に気付くまで、それほど時間はかからなかった。

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