異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

建国の女王 初代エヴァンジェリン


 伝承によれば、エヴァンジェリンとともにトラシルヴァニアを建国した勇者は、国に留まることなく姿を消したと云われている。
  
 なぜ姿を消したのか、何処へ行ったのか。

 そもそもの話、勇者の名前すら記録に残っていない。エヴァンジェリンがそのことについて何も語らなかったからだ。

 
「それで……初代エヴァンジェリン様はどちらに?」

 エヴァは瞳をキラキラさせている。自分と同じ名を持つ伝説の存在が生きていると聞いたのだから興奮するのは無理もない。

 しかし、ブラッドは表情を曇らせたまま、エヴァの問いかけに答える。

「…………この城の地下にいらっしゃる」
「ち、地下? 一体なぜそんなところに……」
「……行ってみれば分かる」

 くそっ……正直嫌な予感しかしない。

 杞憂であってくれれば良いのだが。


***


 ブラッド陛下の案内で、王族と宰相しか知らない秘密の通路を抜けて王城の1番古い場所にたどり着く。

 厳重に封印された扉は、王家の吸血鬼の血によってしか開かない。

 トラシルヴァニアの王位継承が吸血鬼に限定されているのは、これも理由のひとつなのかもしれないな。

 扉の向こうには、地下へ続く階段があり、俺が光魔法で明かりを灯しながら降りてゆく。

 中に入れるのは、ブラッド陛下、エヴァ、俺の3人だけだ。おそらくは王家の血、もしくはそのパートナー以外を拒む結界のようなものだろう。

 階段を降りきった先に広がるのは、夜闇より暗い暗黒の世界。

 本当にこんなところに初代エヴァンジェリンがいると言うのなら、もはや楽観的な見通しなど完全に消えたと思った方が良いだろう。

 エヴァも先程までの興奮の色はすっかり消えて、今は無言で通路を歩いている。


「着いたぞ。この扉の向こうに初代様がいらっしゃる。エヴァ、婿殿、見てもらう他ないが、もはや初代様にの面影は残っていない。心の準備をしてくれ」

 俺たちに今更戻る選択肢など無い。エヴァと頷き合うと、ブラッド陛下に扉を開けるよう促す。


 部屋の中に入ると、何かがうごめく気配と壁や床をズルズルと引きずるような音が聞こえてくる。

「エヴァ、覚悟は良いか?」 

 黙って頷く彼女を確認してから部屋全体に明かりを灯す。


「こんな……ひどい……」

 初代エヴァンジェリンの変わり果てた姿に絶句するエヴァ。

 そこに居たのは、おぞましい無数の触手を生やした、かつてはエヴァンジェリンだったはずのどす黒い肉塊だった。

「……かつて初代様は、自身がいずれ人でなくなることを悟り、王家の子孫たちに封印の管理を託したのだ。以来我ら王家の人間は、定期的に封印が弛んでいないか確認をすると同時に、新たな血を持って封印を強化してきた」

 ブラッドの表情は苦渋に満ちており、長年この秘密に苦しんできたであろう事が容易に察せられる。

 状況的に異世界勇者の仕業であることは間違いない。おそらく王家の子孫たちもそう考えたはずだ。

(なるほど……ヘンリー王子が異世界人を恨むのも道理だな) 


 蠢く肉塊を鑑定する。

【名 前】 エヴァンジェリン?=シンカイ?(女?)
【種 族】 ???
【年 齢】 1024
【状 態】   実験体(変異)  

 実験体の部分を詳しく見ていくと、様々な因子を埋め込まれていることが分かる。因子による変容を確認するために、再生する吸血鬼の身体は最適だったのだろう。あくまで研究の側面からはそう見える。そう……見えるだけだ。


 だが深海幻……エヴァンジェリンはお前の妻じゃないのか? 実験体なんかじゃないだろ?

 お前にとって、この世界や人間は利用するための存在でしかないのかよ。

 エヴァンジェリンは……こんなことになってもお前の悪口ひとつ残していないんだぞ? 

 すべてを背負って、自身を封印してまで、世界を、そしてお前までも守ろうとした女性なんだぞ?

 ふざけんなよ……お前……本当に何なんだよ……

 もし……百万歩譲って、仮にエヴァンジェリンが実験に同意したのだとしても、最後まで面倒見てやれよ! こんな暗い場所に置いていくんじゃねええええぇっ!! 


「っ!? 婿殿、近づいては危険だ!」 

 肉塊となったエヴァンジェリンに接近すると、捕食しようと無数の触手が襲いかかってくる。

 身体に巻き付いた触手は全身を粉々にしようとギリギリと締め上げ、触れた部分からは獲物を溶かす酸や毒液が分泌される。

「待ってろよエヴァンジェリン……いま助けてやるからな」

 神水をかけると、肉塊は白い煙になって消えてゆく。

(何でだ? 何で肉体が戻らないんだよ?) 

 もしかして、もうすでにエヴァンジェリンの自我は残っていないのだろうか。

「くそっ……頼むエヴァンジェリン! 戻って来い……頼むから」 

 残りわずかとなった肉塊を抱きしめる。

 このまま消えるなんて許さない。そんなの……あんまりじゃないか。

 一欠片……いや一粒でも良い。必ずお前を見つけてやる。絶対にお前を助けてやるって、幸せにしてやるって決めたんだからな。

 カケルの保護が発動し、吸血の儀の祝福が上書きされる。

 肉塊がドクンと脈打つと、少しずつ形を変えながら、でも確実に人型に近づいてゆく。

 しばらくすると、カケルの腕の中には、小さく呼吸をするひとりの女性に姿がある。

 輝くような白髪とその容姿は成長したエヴァを彷彿とさせる美しい吸血鬼。


 かつてトラシルヴァニアを建国した伝説の女王が、ゆっくりとその燃えるような赤い双眼を開いた。

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