異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

トラシルヴァニア王国へ


 吸血鬼が治める国、トラシルヴァニア王国は、王都アルカディア、バドルそしてプリメーラの丁度中間地点に飛び地のように存在する小国だ。

 かつて吸血鬼が魔物のように恐れられ忌み嫌われた時代には、激しい戦いがあったとも伝えられているが、現在、吸血鬼にそのような感情を持つものはほぼ皆無と言って良い。

 勇者と結ばれた初代エヴァンジェリンが
女神より与えられた祝福『吸血の儀』によって、吸血鬼は公式に女神教から祝福された種族と認定されたこと、例外なく容姿端麗、見目麗しいこと。そして他種族との婚姻によって子を成すという種族特性も相まって、地域によっては崇拝の対象になっていることもあるほど好感度は高い。

 成人した吸血鬼がパートナーを探しに旅に出るという話も、おとぎ話や絵本の題材として人気があり、我こそは吸血鬼のパートナーになるといった一種のステータス、憧れの対象にもなっている。

 実際に、トラシルヴァニア王国周辺の街の多くには、吸血鬼との出会いを求める人が集まる出会い系のカフェが必ずあって、パートナーが見つからない吸血鬼たちも多く利用しているらしい。



「……ってところが俺の知っている知識だけど、合っているかな? エヴァ?」

 今日、俺たちはトラシルヴァニア王国へ向かう。一番近かったというのもあるが、昨晩からの流れという部分が大きかった。

「そうね。概ね間違っていないわ。でも……出会い系カフェには寄りませんからね、あ、な、た!」 

 う……吸血鬼には読心能力もあったのか!? なぜ心の声がわかったんだエヴァンジェリン!?


「ちなみに……なんで駄目なんだ?」
「……自覚が無いようなので言わせてもらいますけど、そんなお店行ったら、女性吸血鬼がみんなあなたに惚れちゃうでしょ? それであなたは、くっ、仕方ない全員まとめて面倒みてやるぜ! ってなるから絶対駄目です!!」

 ……なにも言えねえ……

 いつもなら、転移で移動するのだが、今回は距離も近いし、二人とも飛翔で飛んで行けることもあって、それなら向かうついでに空中デートをと思っていたのだが……

「御主兄様、専用妹メイドが同行しないのは儀礼上宜しくないかと……」
『カケルさま、当然、私も同行いたします。専用メイド長ですので』

 たしかにこの二人がいれば、匂い鑑定と透視スキルで怖いもの無しだ。

「だが、屋敷が手薄になるのは心配だな……」

「ダーリン……手薄とか本気で言っておるのか?」
「もはやラビだけでも国相手に勝てるレベルなんですが……」

 ……なにも言えねえ……

『私は心配性で優しいカケルさまをお慕い申し上げておりますが……あぁ! いきなりそんな……』

 思わずヒルデガルドを抱きしめてしまう。

「くっ、ヒルデガルド汚い真似を……」
「クロエ、我らは身も心も結ばれたのじゃから、そのくらいで目くじらを立てるでない」

「ハッ!? そうでしたね……ふふふ、ごめんなさいヒルデガルド。お可哀想に」

『くっ、たまたまジャンケンに勝っただけのくせに……仕方ありませんね……夜が駄目なら昼間でも……ブツブツ……』

 ヒルデガルドの俺を見る眼差しが、獲物を狙う肉食獣のようでエロい。いつでも受けて立つぞ。んふふドキワク。


『それで主よ、結局どちらに乗って行くのだ?』 
『ふふふ、残念だったなフリューゲル。我が主は竜騎士だからな! 当然我を選ぶだろうな』

『クロドラ、馬鹿を言うな! 姫君を乗せるのだぞ? モフモフが無いと話にならんだろうが』

 口論を始める2人の美女。俺はどちらにも乗りたいけど。うーん、どうしたものか。

「2人とも早くジャンケンで決めてくれ。行きと帰りで交代制だからな?」


『ふふふ、やった……勝ったぞ!』 

 結局、行きはフリューゲルで帰りがクロドラに決まった。

 片道20分くらいだから、そんなに喜ばれるとなんか申し訳ない気分になる。緊急時以外はなるべく乗るようにしてあげないとな。

「ところでエヴァ、今日行くことは知らせてあるんだよな?」

 あまりにも今更だけどな。

「もちろんじゃ、ユキカゼが手紙を届けてくれているはず」
「う……ユキカゼか……大丈夫……だよな?」

 とても有能だが、俺以外には氷よりも冷たいからな……まあでも、俺の悪口とか言われない限り切れたりはしないから。

 一抹の不安を感じつつも、フリューゲルは、王国の都エマへ向けて飛び立った。


*** 
 

『エヴァ、貴女の国はずいぶん寒いのですね? 教えてくれればコートを着てきたのに……』 

 暖かい帝国出身のヒルデガルドが、フリューゲルのモフモフに身体をもぐらせながらジト目で文句を言う。

「ふふっ、ヒルデガルド。私はこの程度なんてこと……やっぱり寒いです……」

 クロエもモフモフに身を沈めてブルブル震えている。
 
「おかしいのう……たしかに冷涼な土地ではあるが、気候そのものはそれほど変わらないはずなんじゃが?」

 エヴァもモフモフの中から返事を返す。ってどんだけモフモフ深いの!?

「おお! あれは樹氷かな?」

 進むにつれ、辺り一面が白銀の世界へと姿を変える。

「うわあ……綺麗ですね……」
『たしかに美しいですね……』

「これはダイヤモンドダストっていう現象だな。ということは、氷点下ー10℃以下ってことか……道理で寒い訳だ」

 俺の作ったメイド服は、快適に過ごせるように、ある程度の温度調節機能が付いている。それでも寒く感じるのだから相当気温が低いのだろう。

「おおっ!! みんな見てみろ! トラシルヴァニアの王城が見えてきたぞ」 

「うわあ……おとぎ話に出てくるお城みたい……」
『これは見事な……』

 クロエとヒルデガルドも絶句するほど美しく幻想的な王城の威容。

 それは……日光を浴びて輝く、まさに氷の城だった。

「…………」
「ん? どうしたエヴァ? 久しぶりの帰郷で感慨深いのか?」  

「…………のよ」
「ん? 何か言ったかエヴァ?」


「何してくれてんのよ、ユキカゼええええ!?」

 すべてが凍りついた世界で、エヴァの絶叫が虚しく鳴り響くのだった。
 

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