異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

助けを求める声

 
 エメロードラグーンは、アルカリーゼの西方1000キロの海に浮かぶ大きな7つの島と無数の小島からなる小国だ。

 住民の大半は半魚人族で構成され、豊富な海の幸と一年中採れる多種多様のフルーツによる自給自足の生活を送っていた。

 半魚人族のルーツは、稀に流れ着く人族と魚人族との間に産まれたハーフだと云われているが、詳しいことはもはや誰も知らない。

 そんな平和な国に変化の時が訪れた。

 ある時、立派な船がエメロードラグーンにやってきたのだ。

 住民たちは、国をあげて彼らを歓迎して持て成した。客人たちはいたく宝石サンゴが気に入り、友好の証としてプレゼントすると大いに喜び、また来ると告げて帰って行った。

 数年後、彼らは再びやってきた。

 今度は、沢山の軍船を率いて。

 エメロードラグーンは、あっという間に蹂躙され、国王を含め多くの半魚人族が捕らえられ、奴隷や慰み者にされた。

 何とか逃げることが出来たのは、王女と一部の側近、少数の国民だけ。

 行くあてもなく、あまり友好的でない魚人の国を頼る他なかったが、保護する代わりに魚人の王が出した条件は、魚人の王子と王女の結婚。

 戦う力を持たない王女は、国民たちのため、国を取り戻すため、魚人の王子との婚約を受け入れた。


「王女さま、なんとしても、私たちが助けを呼んで参ります」

 悲壮な決意で王女に別れを告げるのは、側近の中でも、泳ぎの得意な侍女でメイドの3人。

「本当に行くのですか? 私ひとりが我慢すれば済むことなのですから……」

 泣きながら3人を抱きしめる王女。

「王女さま、魚人国の連中に私たちの国を取り戻すつもりはありません。だから行くしかないのです」

 実際、海中に住んでいる魚人族にとって、エメロードラグーンなど興味は薄い。

 自分たちが襲われない限り、犠牲を払ってまで取り戻す気概も動機もそもそも無いのだ。

 取り戻すとは言うものの、王女を説得するための方便の域は出ないだろう。



 彼女たちがこれから向かうは遥か東にあると伝わる大陸。

 その昔、国を訪れた異世界人が、別れ際に、困ったことがあれば東の国においでと言ったとされる伝説が残っていたからだ。

 真偽も定かではない、遥か昔の伝説だが、今の彼女たちには他に選択肢がなかった。


 結界に護られた浅瀬のエメロードラグーン周辺と違い、外海は危険な魔物も生息している。

 王家に飼い慣らされたイカルという魔獣に乗って、3人は出発した。

 結婚の儀は、王女が成人する1年後。

 無事辿り着いたとしても、援軍を得て戻って来るのに、一体どれぐらい時間がかかるのか?

 そもそも、わざわざ遠くの島国を助けてくれるだろうか? 考えれば考えるほど不安が募るが、やるしかないのだ。


 王女から貰った魔物除けネックレスのおかげで、大抵の魔物は近寄って来ない。

 旅は順調に進んでいたのだが――――


「フローネ、ナディア、逃げなさい、早く!!!」

 運悪く、シードラゴンに襲われ、キトラは自らを囮に2人を逃がした。

「ぐすっ……キトラさまが……」

 泣き崩れるフローネをナディアが慰める。

「しっかりしなさい。私たちが目的を達成しなければ、それこそキトラさまに申し訳がたちません」

 だが――――

「フローネ、後は頼みました! お願い、逃げて……」

 海賊団に襲われた2人だったが、咄嗟のナディアの機転で、フローネだけは逃げることが出来たのだ。


(キトラさま……ナディア……)

 フローネは泳いだ。昼夜を問わず、死力を尽くして泳ぎ続けた。

 故郷を取り戻すため、王女を助けるため、犠牲となって自分を逃してくれたキトラとナディアのため。

 お願い……神様……誰か……助けて……!!!



「…………!?」

「ど、どうしたのクロエ?」 

 突然、立ち止まったクロエにぶつかるクラウディア。

「……助けを求める匂いがします……みんなは?」

「「「「もちろん、行きますよ!!」」」」

「それで? 場所は?」

「港の方ですね……かなり弱っています。急ぎましょう!」

 クロエの言葉に全員が頷く。

『皆様、私につかまってください。水源転移!!!』

 ミヅハの転移で、全員港へ瞬時に到着した。

  
 そこで目にしたのは、波打ち際に倒れている、ひとりの女性。

 背中に特徴的な鱗と背ビレがあるが、誰も正体が分からなかった。ひとりを除いて。

「……半魚人族……珍しい」

「知ってるの? 刹那?」
 
 美琴が驚いてたずねる。

「うん、知り合いの奥さんが半魚人族だった」

「とりあえず治療しないと! ミヅハさん」

 全身ボロボロで呼吸も弱い。放置すれば死んでしまうかも知れない。アリサが慌てて有能な妹を呼ぶ。

『お任せ下さい、アリサお姉さま』 

 治療系統の魔法は、大きく水と光の2つの属性に集中している。

 サクラの植物魔法のような例外もあるが、あくまで例外であり、メジャー属性では、水と光ということだ。

 当然、聖女アリエスやソフィアも治療出来るが、大精霊であるミヅハには敵わない。

 ましてや、水と関係の深い半魚人族ならば、なおのこと、ミヅハが適任であった。



「う……あ、あれ……ここ……は?」

 ゆっくりと目を開くと、慌てたように起き上がる半魚人族の女性。

「ここはアルカリーゼの王都、アルカディアだ。ゆっくりで良い。何があったか話してくれ」 

 セレスティーナが、優しく問いかける。

「安心しなさい。私たちが貴女の安全を保証します。何も怖いことは無いですよ」

 ユスティティアの言葉に安心したのだろう。

 半魚人族の女性は、ポロポロ涙が止まらなくなる。

「ほ、ほら、せっかくの美人が台無しよ? これ食べて元気出して」

 ミレイヌが棒に刺さった甘いフルーツを差し出す。

 フルーツを食べて、少し落ち着いたのだろう。ぽつりぽつりと話し始めた。



「私はフローネといいます。お願いします。私たちを助けて下さい!!」
 

 

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