異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

精霊の羽衣

 刹那の悪質な冗談で心に深い傷を負った俺は、当てもなく街を彷徨い歩いていた。

「痛ってーな!? どこ見て歩いてんだ!」 
「あーあ、兄貴の肩が外れちまったじゃねぇか!! どう落とし前つけてくれるんだ?」

 たちの悪い当たり屋のチンピラだと思うかもしれないが、ぶつかって肩が外れたのはガチだ。恐らく骨までいっている。

 神水で治してあげたら、持病が治ったと大変喜んでくれて、おすすめのお店を教えてくれた。なんて良い人なんだろう。

 少しだけ元気が出た。


『お兄様、元気を出して下さい……』

 包み込むようにふわりと後ろから抱きしめてくれたのは、俺の有能な妹で水の大精霊ミヅハ。彼女は俺の最大の理解者だ。隠し事など必要ない。

「ミヅハ……透視メガネ……」

 途中からは言葉にならなかった。

 ただ恥も外聞もなくミヅハの胸で泣いた。

 ミヅハは何も言わずただ優しく抱きしめ頭を撫でてくれたんだ。


『お兄様……ミヅハに提案がございます』

「何か策があるのか……ミヅハ?」

 一瞬期待しそうになったが、同じ轍は踏まない。真剣な目で続きを待つ。

『水の羽衣はごろも作戦です。私が創り出す水布を使って皆様の衣服を作れば……』

「ど、どうなるんだ? 教えてくれ、ミヅハ!!」

『ふふっ、お兄様が目に魔力を込めた分だけ……あら不思議、服が透けて見えるのです』

「す、素晴らしい…………」

 完璧じゃないか! 透視メガネではやはりどうしても怪しい。普段メガネをかけていない俺がメガネとか無理があるのが欠点だったが……

 しかも魔力量で透け具合が調整出来るとか、もはや神の領域。ミヅハを崇め奉った方が良いだろうか?

『ふふっ……お兄様に喜んでもらえてミヅハは嬉しいです。では買い物の途中でしたので戻ります』

「ま、待ってくれミヅハ!」

 感謝を込めてミヅハを抱きしめる。

「ありがとう……愛してるぞミヅハ」

『ミヅハも……そんな現金なお兄様を愛しています』

 最後にキスをして、ミヅハは戻って行った。

 
 有能な妹を持って俺は幸せものだな。妹の定義が少し……いやかなりおかしい、この異世界に感謝を。


 すっかり元気になった俺は、先ほどぶつかった人に教わった店へやってきた。

「こ、これは……」

 なんとそこは、海鮮料理を出す店だった。

 全身に衝撃が走る。

 そういえば、この世界に来てから、新鮮な海鮮料理食べてなかったよ……

 内陸の国ばかりだったから忘れていたが、見てしまえば俄然食べたくなるのが人間というもの。

「よし、港へ行こう!」

 せっかく港町に来ているのだから、新鮮な魚介類を手に入れようと決意する。


 懐かしい潮の香りが鼻を刺激して、港が近いことを教えてくれる。

 不意に街の景色が途切れると、眼下には巨大な港と海が広がっている。

 港まで続く緩やかな下り坂を鼻歌交じりに駆け下りる。自転車で下ったら最高だろうなと思いながら。

 港は積み荷を降ろす人々や漁から戻った漁船で賑わって――――いなかった。

 いや、人は沢山いるのだが、みんな右往左往して、怒号や悲痛の叫びがここまで聞こえてくる。

 何かあったのだろうか?

 近くにいた綺麗なお姉さんに声をかける。小麦色に日焼けした肌に太陽みたいな髪色の美女。

「あの、何かあったんですか?」

「あ? 部外者は引っ込んでな。って黒目黒髪!? あんた、もしかして巷で噂の異世界人か?」

「異世界人のカケルです。もしお困りなら力を貸しますよ?」

「俺はイサナだ。この港で漁師をやっている。失礼な言い方して悪かったな。ちょっと気が立っていたんだ」

「いいえ、気にしてませんよ。それより何があったんです? クラーケンが船を襲っているとか? それともクラーケンが居座っていて船が出せないとか?」

「……なんでそんなに目をキラキラさせてるんだよ……違うよ!? しかもなんでクラーケン1択? そんなの現れたら港は壊滅するから!?」

 だってテンプレだし……そうか……クラーケンじゃないのか……仕方がない、うちのクララで我慢するか……


「ハックシュン!?」

「どうしたのクララ? 風邪?」

「……御主人様が私のことを考えてくださっているみたい……」
「ふえっ!? 良いなあ……やっぱり御主人様は色白の方がお好きなのかな……」
「そ、そんなことないよ! クルルの方が可愛いって! 御主人様が戻られたら2人で触手マッサージしてあげたらきっと喜ぶよ!」
「うん……そうだね!」



「クラーケンじゃなくて、海賊だ。最近現れるようになってな。俺のオヤジも含めた代表団が交渉に向かったんだが……」

「……戻って来ないと?」

 悔しそうに黙って頷くイサナ。

「騎士団は助けてくれないんですか?」

「もちろん、代表団にも騎士たちが護衛について行ったんだよ。今、騎士団も慌てて対応を検討している最中さ」

 なるほど……ただの海賊ってわけじゃなさそうだな。

「分かりました。俺がなんとかしましょう。案内役お願い出来ますか? イサナさん」

「……イサナで良いよ。ふふっ、あんた本当に噂通り……いや……噂以上に良い男だ。報酬は俺で良いな? じゃあよろしく!」

「ああ、よろしく、イサナ」

 がっちり手を握る。ところでイサナさん? 報酬が俺ってどういう?

「ふふふ、あんたが思っているとおりさ」

 
 快活に笑うイサナの姿にしばし見惚れるカケルであった。  

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