異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

チョロイン

「遅くなって悪かったな。主役は遅れてくると決まっているんでね」

 
 黒髪の青年はそう言って微笑むと、その夜闇のような黒い瞳でエルゼを一瞥する。

「これは酷い状態だな……しかも爆裂の魔刻印が発動している」

 なっ!? 一目見ただけで分かったというのか? 一体何者だこの男。


「ごめんなエルゼさん、緊急時だから許してくれ」

 な、なななななな何をしているんだいきなり!?

 黒髪の青年が口に何かを含むとエルゼにキスをし始めた。し、しかも結構ディープなやつだ。

 え、エルゼ? 何でそんなに目をトロンとさせているんだ!? もう良いんじゃないかな? うぇっ、何で自分から腕をまわしているんだい? き、気持ち良さそうだね……


『あ、あの……ありがとうございました』

 顔を真っ赤にしながら黒髪の青年を見つめるエルゼ。

「魔刻印はもう消えているから大丈夫だ。俺はちょっとアイツを倒してくるから待ってて」


 無理だ……あの魔王化したフォースを倒すなど。天災に人が挑んでも勝ち目がないのと同じようなものだぞ!?

 だが、青年はちょっと用事を済ませてくるみたいな軽い調子で行ってしまった。


『エルゼ、身体はもう大丈夫なのか?』

 信じ難いけれど、生命核からは魔刻印が消えていた。でも理由など正直どうでも良い。エルゼが助かったという事実だけで十分だ。

『はい、ゼロ様。身体はむしろ以前よりも良くなっています。ですが…………』

 エルゼが深刻な顔で俯く。やはりこれだけの奇跡には何か代償が必要だったのだろう。

 大丈夫だエルゼ、生きてさえいれば。私に出来ることがあれば何でもするから。


『ですが…………恋の病にかかってしまいました。重症です、私』

 頬を染めてうっとりとした表情になるエルゼ。

 おいおいチョロすぎないかエルゼ?

 だが、わからんでもない。間一髪現れて、命を救われればそれも仕方が無いかもしれないな……しかも、あ、あんなキスまでされたら……

 おかしい……何で私までドキドキしているんだ? ま、まさか私も? いや、そんな訳あるか!! た、確かに助けられたし、格好良いと思ったが、そ、それではエルゼ以上にチョロすぎではないか。有り得ん!! 私は断じてそんなにチョロくない。


「終わったぞ」

『ふぇっ!?』

 しまった!? 変な声が出てしまった。

 終わっただと? この世界が終わったというのか? だから無理だと言ったではないか。早く逃げなければ。もはや逃げ場所など無いかもしれないが…………

「フォースは倒した」

 そうかフォースを倒したのか――――いや待て、何だって? フォースを倒した…………だと?



「あらためて、俺はカケル。異世界人で冒険者をやっている」

 黒髪の青年が状況を説明してくれた。

 なるほど、ソニアも彼に助けられたのか。

 しかもテンスとイレブンもすでに倒され、セントレアも奪還されていたとは……
 
 まあ、目の前で彼の強さを見てしまえば信じる他ないが。


「それで、近い内に魔人帝国に行ってアリーセ殿下に協力しようと思っている。手伝ってくれないか、カイ、エルゼ」

『はい、喜んで協力させていただきます』 

「ありがとう、エルゼ。カイはどうだ?」

 ……カイとは誰のことだ? 知らない名前を呼ばれて反応出来ない。

『カイとは誰のことだ? 私はゼロだ』

「誰ってゼロの……お前の名前だぞ? もしかして……自分の名前を覚えていないのか?」

『私の? 私はカイという名前なのか? 名前は1番最初に失った記憶だ。私は自分の顔すら覚えていないのだ。魔力を持たぬ私が、スキルを行使する為にはそれしか方法が無かったからな……』

 そうだった。私の今のこの気持ちも、この想いも、いずれ消えてしまうのだ。

 それは……なんか嫌だな。

『ゼロ様…………』


「2人とも勘違いしているみたいだけど、カイは魔力を持っていない訳じゃないぞ」

『なっ、そんなことはない。私の魔力はゼロだ』

「ああ、確かにゼロだ。でもそれは残量がゼロなのであって、持っていないのとは根本的に違う。カイの場合は、2つのスキルに常時魔力を奪われているから常にゼロなんだろうな」

『そ、そうか……だが、私にとっては同じことだ』

 とはいえ魔力を持っていたとは嬉しい事実ではあるが。


「うーん、ちょっと待っててくれよ――――よし出来た。カイ、この指輪をつけてメタモルフォーゼを使ってみてくれないか?」

『……メタモルフォーゼも知られているのか……もう今更だが……分かった。それでこの指輪は?』

「俺の魔力が込めてある。スキルを使う時に指輪が魔力を補ってくれるはずだ」

『そ、そんなことが……よし、メタモルフォーゼ!!』

 ゼロの身体が淡く輝き金髪金眼の絶世の美女に変身する。

『メタモルフォーゼを記憶しました』

「カイ……その姿は?」

『……アリーセ殿下だ。本物の殿下はもっと素晴らしいがな』

 彼にはせめて1番綺麗な姿を見てもらいたかった。私の知る最も美しい女性はアリーセ殿下だからな。

「そうか……綺麗な女性だな。でもな、お前もすごく綺麗だったぞ、カイ」

『は? それは……どういう意味だ?』

「メタモルフォーゼを使った場合、必ず一度元の姿に戻ってから変身するんだ。本当に一瞬だけどな」

『わ、私の元の姿……』

「ああ、その時に見たカイの本当の姿を見せてやるから、今度は忘れるなよ――――メタモルフォーゼ!!」

 え? どうしてメタモルフォーゼが使えるのだ? 訳が分からない。

 彼の身体が、淡く輝き、見た事の無い美少女がそこに立っていた。

 これが…………私?

 だが、記憶には無くとも私の魂が憶えている。これが私だとはっきり告げている。

 そう…………私ってこんな身体をしていたのね…………残念ながらあまり胸は大きく無い――――って、ななななななな何で全裸なのだ!? や、止めて! もう覚えたから〜!!


『…………』

「ごめんなカイ、悪気は無かったんだ。周りに男も居なかったから……つい」

『…………責任とって……』

「へ?」

『魔人が裸を見られて指輪まで貰ったら、もうお嫁さんになるしかない』

「そ、そうなのかエルゼ? って何でお前まで脱いでるの!?」

『ふふっ、キスをされて裸を見られたらお嫁さんになるしかないですね』


「……俺、お嫁さんたくさんいるんだけど?」

『構わない。アリーセ殿下共々よろしく頼む黒影殿』
『もちろんです。一生尽くします。黒影さま』
 

 いや…………黒影って何? まあ格好良いから別にいいけど。

 それにしても、アリーセ殿下と結婚するのは既定路線なんだな。本人の意思は何処へやら。

 



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