異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

七聖剣のエストレジャ

『へえ、なんでまだいるのお前? てっきり逃げたかと思ったよ』

 結界が解除されてすぐ、敵の指揮官テンスが王宮にやってきた。


「……貴様を倒し、このセントレアを守るために決まっているだろう。やはり魔人は馬鹿なのか?」

 七聖剣を拝命した際に与えられた魔剣スターダストを構え、テンスを挑発するエストレジャ。


『くっ……くくっ、クハハハハハッ、面白いなお前、俺にそんな口聞ける奴は帝国にもいないよ。時間稼ぎのつもりかもしれないけど、無駄だよ無駄!! 逃げるところなんて……どこにもない』

 テンスは酷薄な笑みを浮かべ金色の瞳を爛々とさせる。

「貴様こそ、のこのこひとりで現れるとはな。まあ、こちらとしては好都合だが」

 これは挑発ではなく本心だ。多勢で一気に攻め込まれていたら終わりだっただろう。

『ぎゃははははは!! もうだめ! お腹痛い。勝負になると思ってんの? もういいや、これ以上話すと腹筋が崩壊するから……死んで?」

 無防備に近づいてくるテンス。その圧倒的なパワーに耐えきれず、テンスが歩く度に石畳が砕け散ってゆく。

 エストレジャの額を冷や汗が伝う。

 確かにこいつは強い。圧倒的なほどに。

 パワー、スピード、魔力、全てが届かない格上だ。


 七聖剣にも、やはり強さの序列は存在する。

 私は序列7位。ぎりぎり七聖剣になれた末席だ。

 残念だが認めよう。私は貴様よりも弱い。


 だがな……お前は知らないだろうな。なぜ俺が七聖剣に選ばれたか、なぜただ一人王都の守護を任せられたかを。


 私の持つ 【鎮魂歌レクイエム】 


 散って行った同胞の無念の魂によりステータスが上昇するユニークスキル。

 そのスキルによって私は、子どもの頃発生し、町を壊滅させたスタンピードの中、ただ一人生き残ることが出来たのだ。

 喪った両親、兄弟、友人、知人そして名も知らぬ人々の報われぬ魂によって、私は生を繋ぎここまで生きてきたのだ。

 だから……私は負けない、負けるはずがない。

 数十万の同胞が無念のうちに命を落としたこの場所で、今なお人々が苦しむこの街で、

 
 負けるわけにはいかないんだよ!!!!  


鎮魂歌レクイエム】!!! 


 セントレアにいまだ残る無数の魂が、エストレジャに力を与えてゆく。

 それはまるで助けを求める奔流のようにエストレジャの心と身体に流れ込んでくる。

 限界を超えた力に身体が悲鳴を上げる。

 2度目はないな……テンスを倒すには限界まで己を高めなければならない。

 身体が、剣が、その力に耐えられない。


(ごめんな……スターダスト、お前の力が必要なんだ。一度だけで良い、耐えてくれ)


『……ちっ、何をするつもりか知らないけど遅いんだよ、死ね!!』 

 凄まじい踏み込みから大剣を振り下ろすテンス。

 あまりの剣圧に大気が歪むほどの一撃、避けることも受けることも不可能だ―――通常なら。


 ――――だが、今は違う。


「遅い……今の私には貴様では届かないよ……人間を、アストレアをなめるなぁぁぁぁ!!!」

 テンスの一撃を半身でかわし、魂の一撃を放つ。


流星斬撃メテオスラッシュ!!!!!!!!!!』


『ぐぎゃゃああああっ!!!!!!?』


 大気が燃え、まるで隕石が直撃したような斬撃がテンスの身体を真っ二つにし、さらに燃やし尽くしてゆく。



 決して届かなかった高みに押し上げてくれた幾多の魂たちが、役目を終え天に還ってゆく。


(ありがとう……貴方がたの犠牲がなければ奴には絶対に勝てなかった。これは私たちセントレア全員の勝利ですよ……) 


 そして……

「耐えてくれてありがとう……スターダスト、お前は最高のパートナーだったよ……」

 刀身に亀裂が入り、それでも最後まで折れずに耐えた自身のパートナーを優しく撫でる。

(いつか絶対お前を直してやるからな。世界中の鍛冶師を回ってでも……きっと)

 
 最大の敵は倒した。セントレアを取り戻すための大きな一歩だ。

(まずは武器を手に入れないと……)

 国宝級の武器はすでに宰相たちが持ちだしているが、王宮内には予備の武器がまだある。


 エストレジャは王宮に再び足を踏み入れ、結界をコントロールしていた場所へ向かう。

 そこには1本の剣が突き刺さっていた。


 【神剣 カケルシオン】

 アストレアを建国した英雄が愛用していたとされる護国の剣。

 千年の時を経た今なお変わらぬ輝きを放ち、その力を媒体としてセントレアの結界が維持されてきた。

 その力は一振りで千の敵を倒し、切れぬものは無かったと云われる。 

 長いアストレアの歴史の中で使用されたのは2回のみ。

 いずれもアストレアが危機に陥った時、神剣はその力を貸したと云われる。


 ならば――――


「私ごときが触れて良い剣ではありませんが、どうか力をお貸しください……」

 祈るような気持ちで神剣を両手で掴み一気に引き抜く。


 あらゆる人々がどんなに力を込めてもビクともしなかった神剣は、まるで最初からそこにあったかのようにエストレジャの手に納まり、まばゆい輝きは王宮内をあまねく照らす。


「ぬ、抜けた……これでセントレアも―――」
 
 セントレアを救える、そう言おうとした瞬間―――自身の腹部から刀身が突き出るのが見えた。


「っ!? ……が、がはっ……!?」


『まったく……許せないよね? この俺をこんな目にあわせるなんてさ』


 振り返ったエストレジャの目に映ったのは、傷一つない身体で背後に立つ、倒したはずのテンスの姿だった。



 
 

  

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