異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~
救出と帰還
「……う、うう。こ、ここは?」
気がつくと、ごつごつした岩の天井が視界に入る。薄暗いジメジメした空間で、ひどい悪臭で鼻が曲がりそうだ。どうやら洞窟の中のようだが?
「ッ!ぐっ」
意識が戻るのと同時に、全身に激痛が走り、思わずうめき声をあげてしまう。
(そうか……俺はゴブリンどもに……フリオは無事逃げられたかな)
隣町まで荷を運ぶ途中、突然ゴブリンの集団に襲われたのだ。少数のゴブリンなら遅れを取ることは無いが、あまりに数が多く、おまけに上位種の姿もあった。多勢に無勢と判断し、とにかく逃げるしかなかったのだ。
父ロナウドが時間を稼ぎ、俺が他のゴブリンを引きつけている間に、戦えない母さんとフリアを逃がした。守りながら戦うのは難易度が高いということもある。無事逃げ切れていれば良いのだが……。
後は、3人でこいつらを倒すしか生き残る道はない。
フリオに襲い掛かっていたゴブリンを後ろから剣で突き殺し、弟に声をかける。
「フリオ! こいつ等を倒して母さんたちと合流するぞ!」
フリオはまだ14歳だが、ゴブリン相手なら十分戦える。囲まれないように背合わせで立ち回り、3人でゴブリンの数を減らしてゆく。
これならいける! そう思った瞬間、右太腿に激痛が走る。見れば矢が刺さり血が噴き出していた。
(くそっ、これじゃあ走るのは無理だな。ここまでか……)
「フリオ! お前だけでも逃げろ! 今なら行ける。助けを呼んで来てくれ」
フリオは小さく頷くと、躊躇なく走り出す。本当に賢くて頼りになる弟だ。母さんとフリアを頼むぞ。さて……
逃げたフリオを背に、ゴブリンどもを睨みつける。
「かかってこい! 1匹でも多く道連れにしてやる」
そこから先の記憶ははっきりしない。10匹程ゴブリンを倒したところで、意識が無くなった。
突然、声が聞こえて我に返る。
「トマシュ! 目が覚めたのね、良かった……」
「……母さん? ここは? 俺たち助かったのか?」
母さんは残念そうに首を横に振る。
「ここはゴブリンの洞窟の中よ、ロナウドも捕まって、ここへ連れて来られたの」
「父さんも? フリオとフリアは?」
「あの子たちは、いないみたい。逃げ切れたのかもしれないわ」
「そうか……それで父さんは何処に?」
よく見れば、母さんは青ざめて震えている。
「ロナウドは少し前に連れて行かれたわ……きっと今頃――」
突然、絶叫が洞窟内に響き渡る。何度も……何度も。
全身から汗が噴き出て震えが止まらない。嫌でも理解出来た。今、父さんが喰われているのだと。
父さんの絶叫が聞こえなくなり、今度はゴブリンたちの叫び声が聞こえてくる。次は自分の番かもしれない……恐怖と絶望で心が折れそうになるが、歯を食いしばって言葉を絞り出す。
「母さん、きっとフリオが助けを呼んでくれるはずだ。信じて待とう」
母さんは青ざめながらもしっかりと頷いてくれた。
仮にフリオが助けを呼んでくれたとしても、おそらく間に合わないだろう。しかし、そんな一筋の希望が二人の心をぎりぎりのところで繋ぎ止めていた。
実際、状況は詰んでいた。母は戦えず、トマシュは両手両足の骨折に矢傷があり、このまま手当をしなければ、放っておいても出血多量で死ぬほどの重症だ。信じて待つ以外の選択肢は無かった。
しかしフリオを逃がしたことで生まれた微かな希望が、二人に自死という選択肢を取らせなかったのは、結果的に実に幸運であった。
複数の足音が近づいてくる。見張りの交代だろうか? それとも……次の生贄が選ばれるのだろうか。二人に緊張が走り、マリアナはトマシュを背中に隠すように前に出る。
マリアナは、すでに決めていた。次に連れて行かれるのは自分だと。わずかでも時間を稼げば、我が子が助かる可能性が上がる。ロナウドがすでにいない今、子どもたちを守れるのは自分しかいないのだ。
足音が檻の前で止まる。マリアナは零れ落ちる涙を止めることが出来なかった。なぜなら彼女の目の前には、死んだはずの愛する夫の姿があったから。
「……マリアナ、トマシュ……怖かったろう。もう大丈夫だ。助けが来たぞ」
***
カケルが出て行ってから半日。外は日が落ちかけていて、じきに夜がやってくる。
フリアとフリオの兄弟は、不安に押しつぶされそうになりながら、カケルの帰りを待っていた。
非常用の灯りはあるものの、魔物に気づかれるリスクを考えると使うことができない。次第に暗くなっていく室内で、二人は体を寄せ合い、毛布にくるまっていた。
「お兄ちゃん……カケルさん戻ってこないね……」
「大丈夫だって。カケルさん強いんだろ? すげえ薬も持ってるぐらいだし。それに絶対無理しないっていってたじゃないか」
「うん……そうだね……。きっとお母さんたちはもう……これでカケルさんまでいなくなったらって思うと不安なの」
「今は考えてもしょうがないだろ。しっかり身体を休めておこう。どのみち朝には町へ出発しないといけないんだから」
フリオは妹の頭を優しく撫でる。本当はフリオも不安で一杯だったが、これからは自分が妹を守っていかなければならないのだ。奥歯を噛みしめ弱気を何とかねじ伏せる。
だが、状況は厳しい。きっとカケルさんは一生懸命探してくれているとは思うけれど、現実的に生きているとはとても思えない。荷物も失い、これからのことを考える余裕は今のフリオには無かった。
***
日は完全に落ち、フリオの隣ではフリアが静かに寝息を立てている。念のため、交代で寝ることにしたのだ。
(フリアにはああ言ったけど、カケルさん大丈夫かな? いくら何でも遅すぎる)
独りになったことで、急に不安がこみ上げてくる。カケルが戻らなかった場合、二人で森を抜け、町へ向かわなくてはならない。
町までは、かなり安全な道程ではあるが、その安全な筈の街道で襲われたばかりの二人にとっては恐怖でしかない。
今も戸を破ってゴブリンが入って来るのではないかと気が気ではないのだ。
(早く帰って来てくれ、カケルさん……)
フリオが妹の寝顔を不安げに見つめていると、避難所の戸を3回叩く音が聞こえた。
聞き間違いではない! フリオは飛び起きると、すぐにフリアを起こし、念のため武器を手に戸に向かう。
「カケルさんが帰ってきたのかな?」
フリアが、期待と不安が入り混じった様子で袖を引く。
戸を開けていいのかどうか、しばし躊躇する――しかし、
「おーい。フリア、フリオ! カケルだ、開けて大丈夫だぞ」
「「カケルさんっ!」」
戸を開き、二人でカケルに抱きつく。
「二人とも待たせて悪かった。怖い思いさせてゴメンな」
カケルは二人の頭を優しく撫でる。
「遅くなっちまったお詫びに、沢山お土産があるんだ。早く見せたいから、二人とも外へ出ておいで」
お土産? 中に入らない程、大きなものなんだろうか。二人は顔を見合わせ頷くと、揃って外へ出る。
カケルが微笑み、後ろを指差すと、暗闇の中から3つの人影が近づいてくる。
その3人は、二人が一番逢いたい人たちだった。二人が一番見たかった笑顔だった。
「……フリオ、フリア……よくぞ無事で……」
ロナウドが二人を抱きしめる。
「あ……あ……父さん……母さん……兄貴」
「お、お母さん……うわーん」
フリアとフリオはただただ泣くことしかできない。
(俺はただ町へ行きたかっただけなんだけど、結果的に助けられて良かったな)
決して離すまいと固く抱き合い、泣いている家族を見て思う。
ミコトさんと一緒になるためにやってきた異世界だけど、ちゃんと人が暮らしていて、一生懸命生きている。
最初はどこかゲーム感覚でいたけれど、もうそんな感覚は消えてしまったな。死が身近にある世界だからこそ、家族がしっかり支えあっているのだろう。
(……そろそろ中に入りませんかって言いたいけど、ここで言ったら野暮だよな)
カケルは、みんなが泣き止むまで、気の済むまで、静かに見守り続けるしかなかった。
気がつくと、ごつごつした岩の天井が視界に入る。薄暗いジメジメした空間で、ひどい悪臭で鼻が曲がりそうだ。どうやら洞窟の中のようだが?
「ッ!ぐっ」
意識が戻るのと同時に、全身に激痛が走り、思わずうめき声をあげてしまう。
(そうか……俺はゴブリンどもに……フリオは無事逃げられたかな)
隣町まで荷を運ぶ途中、突然ゴブリンの集団に襲われたのだ。少数のゴブリンなら遅れを取ることは無いが、あまりに数が多く、おまけに上位種の姿もあった。多勢に無勢と判断し、とにかく逃げるしかなかったのだ。
父ロナウドが時間を稼ぎ、俺が他のゴブリンを引きつけている間に、戦えない母さんとフリアを逃がした。守りながら戦うのは難易度が高いということもある。無事逃げ切れていれば良いのだが……。
後は、3人でこいつらを倒すしか生き残る道はない。
フリオに襲い掛かっていたゴブリンを後ろから剣で突き殺し、弟に声をかける。
「フリオ! こいつ等を倒して母さんたちと合流するぞ!」
フリオはまだ14歳だが、ゴブリン相手なら十分戦える。囲まれないように背合わせで立ち回り、3人でゴブリンの数を減らしてゆく。
これならいける! そう思った瞬間、右太腿に激痛が走る。見れば矢が刺さり血が噴き出していた。
(くそっ、これじゃあ走るのは無理だな。ここまでか……)
「フリオ! お前だけでも逃げろ! 今なら行ける。助けを呼んで来てくれ」
フリオは小さく頷くと、躊躇なく走り出す。本当に賢くて頼りになる弟だ。母さんとフリアを頼むぞ。さて……
逃げたフリオを背に、ゴブリンどもを睨みつける。
「かかってこい! 1匹でも多く道連れにしてやる」
そこから先の記憶ははっきりしない。10匹程ゴブリンを倒したところで、意識が無くなった。
突然、声が聞こえて我に返る。
「トマシュ! 目が覚めたのね、良かった……」
「……母さん? ここは? 俺たち助かったのか?」
母さんは残念そうに首を横に振る。
「ここはゴブリンの洞窟の中よ、ロナウドも捕まって、ここへ連れて来られたの」
「父さんも? フリオとフリアは?」
「あの子たちは、いないみたい。逃げ切れたのかもしれないわ」
「そうか……それで父さんは何処に?」
よく見れば、母さんは青ざめて震えている。
「ロナウドは少し前に連れて行かれたわ……きっと今頃――」
突然、絶叫が洞窟内に響き渡る。何度も……何度も。
全身から汗が噴き出て震えが止まらない。嫌でも理解出来た。今、父さんが喰われているのだと。
父さんの絶叫が聞こえなくなり、今度はゴブリンたちの叫び声が聞こえてくる。次は自分の番かもしれない……恐怖と絶望で心が折れそうになるが、歯を食いしばって言葉を絞り出す。
「母さん、きっとフリオが助けを呼んでくれるはずだ。信じて待とう」
母さんは青ざめながらもしっかりと頷いてくれた。
仮にフリオが助けを呼んでくれたとしても、おそらく間に合わないだろう。しかし、そんな一筋の希望が二人の心をぎりぎりのところで繋ぎ止めていた。
実際、状況は詰んでいた。母は戦えず、トマシュは両手両足の骨折に矢傷があり、このまま手当をしなければ、放っておいても出血多量で死ぬほどの重症だ。信じて待つ以外の選択肢は無かった。
しかしフリオを逃がしたことで生まれた微かな希望が、二人に自死という選択肢を取らせなかったのは、結果的に実に幸運であった。
複数の足音が近づいてくる。見張りの交代だろうか? それとも……次の生贄が選ばれるのだろうか。二人に緊張が走り、マリアナはトマシュを背中に隠すように前に出る。
マリアナは、すでに決めていた。次に連れて行かれるのは自分だと。わずかでも時間を稼げば、我が子が助かる可能性が上がる。ロナウドがすでにいない今、子どもたちを守れるのは自分しかいないのだ。
足音が檻の前で止まる。マリアナは零れ落ちる涙を止めることが出来なかった。なぜなら彼女の目の前には、死んだはずの愛する夫の姿があったから。
「……マリアナ、トマシュ……怖かったろう。もう大丈夫だ。助けが来たぞ」
***
カケルが出て行ってから半日。外は日が落ちかけていて、じきに夜がやってくる。
フリアとフリオの兄弟は、不安に押しつぶされそうになりながら、カケルの帰りを待っていた。
非常用の灯りはあるものの、魔物に気づかれるリスクを考えると使うことができない。次第に暗くなっていく室内で、二人は体を寄せ合い、毛布にくるまっていた。
「お兄ちゃん……カケルさん戻ってこないね……」
「大丈夫だって。カケルさん強いんだろ? すげえ薬も持ってるぐらいだし。それに絶対無理しないっていってたじゃないか」
「うん……そうだね……。きっとお母さんたちはもう……これでカケルさんまでいなくなったらって思うと不安なの」
「今は考えてもしょうがないだろ。しっかり身体を休めておこう。どのみち朝には町へ出発しないといけないんだから」
フリオは妹の頭を優しく撫でる。本当はフリオも不安で一杯だったが、これからは自分が妹を守っていかなければならないのだ。奥歯を噛みしめ弱気を何とかねじ伏せる。
だが、状況は厳しい。きっとカケルさんは一生懸命探してくれているとは思うけれど、現実的に生きているとはとても思えない。荷物も失い、これからのことを考える余裕は今のフリオには無かった。
***
日は完全に落ち、フリオの隣ではフリアが静かに寝息を立てている。念のため、交代で寝ることにしたのだ。
(フリアにはああ言ったけど、カケルさん大丈夫かな? いくら何でも遅すぎる)
独りになったことで、急に不安がこみ上げてくる。カケルが戻らなかった場合、二人で森を抜け、町へ向かわなくてはならない。
町までは、かなり安全な道程ではあるが、その安全な筈の街道で襲われたばかりの二人にとっては恐怖でしかない。
今も戸を破ってゴブリンが入って来るのではないかと気が気ではないのだ。
(早く帰って来てくれ、カケルさん……)
フリオが妹の寝顔を不安げに見つめていると、避難所の戸を3回叩く音が聞こえた。
聞き間違いではない! フリオは飛び起きると、すぐにフリアを起こし、念のため武器を手に戸に向かう。
「カケルさんが帰ってきたのかな?」
フリアが、期待と不安が入り混じった様子で袖を引く。
戸を開けていいのかどうか、しばし躊躇する――しかし、
「おーい。フリア、フリオ! カケルだ、開けて大丈夫だぞ」
「「カケルさんっ!」」
戸を開き、二人でカケルに抱きつく。
「二人とも待たせて悪かった。怖い思いさせてゴメンな」
カケルは二人の頭を優しく撫でる。
「遅くなっちまったお詫びに、沢山お土産があるんだ。早く見せたいから、二人とも外へ出ておいで」
お土産? 中に入らない程、大きなものなんだろうか。二人は顔を見合わせ頷くと、揃って外へ出る。
カケルが微笑み、後ろを指差すと、暗闇の中から3つの人影が近づいてくる。
その3人は、二人が一番逢いたい人たちだった。二人が一番見たかった笑顔だった。
「……フリオ、フリア……よくぞ無事で……」
ロナウドが二人を抱きしめる。
「あ……あ……父さん……母さん……兄貴」
「お、お母さん……うわーん」
フリアとフリオはただただ泣くことしかできない。
(俺はただ町へ行きたかっただけなんだけど、結果的に助けられて良かったな)
決して離すまいと固く抱き合い、泣いている家族を見て思う。
ミコトさんと一緒になるためにやってきた異世界だけど、ちゃんと人が暮らしていて、一生懸命生きている。
最初はどこかゲーム感覚でいたけれど、もうそんな感覚は消えてしまったな。死が身近にある世界だからこそ、家族がしっかり支えあっているのだろう。
(……そろそろ中に入りませんかって言いたいけど、ここで言ったら野暮だよな)
カケルは、みんなが泣き止むまで、気の済むまで、静かに見守り続けるしかなかった。
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