異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

神界からいざ異世界へ

 神界生活が始まって早一週間が過ぎた。


 神界というのは便利なところで、リソースがほぼ無限に存在する為、しっかりイメージ出来るものならば、大抵自由に創り出すことができる。


 ミコトさんは、自身が管理している空間に、二人で暮らすための豪華な新居を創ってくれた。2階建てのいかにも新婚夫婦が住んでいそうな可愛い庭付き1戸建ての家だ。おかげで俺は今、地上にいた時以上に充実した生活を送ることが出来ている。


 最初はやり方が分からず、戸惑ったりもしたが、見よう見まねで、今では必要なものは自分で創ることができるようになっている。もちろん、絵を描くための画材も一通り揃えたのは言うまでもない。


 ミコトさんは、毎朝決まった時間に死神の仕事に出かける。


 俺はいってらっしゃいとキスをして見送るのが日課となっている。神様だから、交通事故とかはないとは思うが、見送る側はどうしても心配になってしまう。毎日見送りしてくれた母さんもこんな気持ちだったのだろうか。母さんたちを悲しませてしまったことを思うと、心がぎゅっと締め付けられるように痛い……。せめて、俺はいま幸せだって伝えられたら良かったのに……。


 彼女が出かけている間、俺は大抵絵を描いて過ごす。掃除や洗濯などは必要が無いので、思う存分、絵を描くことができるのが有り難い。


 外が暗くなる前には、夕食の準備を始める。日が沈む前後の黄昏時に、ミコトさんは帰ってくるからだ。


 神界では食事を摂らなくても大丈夫らしいけれど、やっぱり気分的に食事を摂らないというのは落ち着かない。


 神様も食べるのは嫌いじゃないらしく、むしろ精神的な娯楽として3食しっかり食べる神様も多いそうだ。ミコトさんも俺の創った料理をいつも美味しそうに食べてくれる。もちろん知らない料理は創れないが。


 特に、俺の好物であるナスの肉詰めは特に気に入ってくれたようで、日に一度は食べているほどだ。


 食事の後は、二人一緒にお風呂に入る。風呂といっても、高級温泉旅館にあるような露天風呂だ。檜の香りまで再現した自慢の風呂に仕上がったと思う。


 食事同様、風呂に入る必要はないのだが、これも気分の問題だ。ミコトさんもリラックスできると気に入ってくれている。死神の仕事はハードだから神様もストレスがたまっているのだろう。


 そして、夜は当たり前のように一緒に寝ている。初日は驚いたが、ミコトさんに当然だといわれれば、拒む理由など1ミリもない。


 ……と、ここで一言云いたい。誰にというわけでもないが、言わずにはいられない。幸せだ。どうしようもなく幸せなんだが、いいのだろうか? 期限付きとはわかっているが、願わくば一日でも長くこの生活が続きますように。




 最近はミコトさんの感情の変化も分かるようになってきた。本当に微かにだが、確かに喜んだり怒ったりしているのがわかるのだ。距離が縮まったような気がして、とても嬉しい。


 話によると、ミコトさんの同期の死神の多くは、伴侶を得て死神を卒業していったらしい。神界の奴等は揃いも揃って見る目が無いと本気で呆れて見せたら、嬉しそうにほんの少しだけ笑ってくれた。


 ミコトさんの部屋には、俺が描いた絵が飾ってある。ほとんどが彼女の姿絵だが、いつも嬉しそうに眺めている。別にナルシストというわけでもなく、俺の気持ちが伝わってくるのが彼女的には嬉しいようだ。


 そして、半年が過ぎた頃、ついにその日がやってきてしまった。


「……カケル。器が見つかった。適合率も申し分ない、良かった」


 相変わらず無感情に告げるミコトさんだけど、残念そうな声色なのがちょっと嬉しい。


「そうか。ミコトさん、お世話になりました。出来るだけ早く戻ってくる。今度こそずっと一緒にいれるように」


「うん。時間は気にせず行ってくるといい。神にとっての100年は、人間にとっての一週間だから」


「なら安心だ。そういえば、これから行く異世界ってどれぐらい危険なんだ?」


「地球が1とすれば、100ぐらい。運が悪ければ、初日にあっさり殺される位危険。でも大丈夫。死神の加護を信じて」


 ……死神の加護って、かえって死にそうですけどね。


「俺、武器とか何も持ってないし、闘ったことも無いけど大丈夫かな? 今更だけど」


「本当に今更。大丈夫。私がカケルの為に異世界旅行セットを用意した」


 おお!これってアレだよな。チートスキルにアイテムボックス、自動翻訳とか?


「寝袋と解体用ナイフ、それから保存食に水筒」


 ……全然違った。いや、有り難いんだけどね。実用的だし。でもなんかほら、地味だよね。


「お金とかその他諸々は現地調達して」


「結構スパルタなんだな……了解だ。俺なりに頑張ってみるよ」


「ん。カケルならきっと大丈夫。神界から転移すると、勇者ほどじゃないけど、大抵強力なスキルが発現する。多分」


 多分かぁ。やっぱり勇者とかいるのね。こうなったらスキルを含めて全部自分次第。まぁ、何とかするしかない。正直スゲェ怖いけど、ミコトさんの前で情けない姿を見せたくない。


 突然、体が柔らかい感触に包まれた。ミコトさんが俺を抱きしめて、頭を撫でてくれる。無意識だった体の震えも治まり、心の中が暖かいもので満たされてゆく。


「カケル……人生を楽しんで。精一杯生きて幸せになって。私とは死ねばいつでも逢えるから。遠慮しては駄目」


「ああ、わかった。絶対に幸せになって、それからミコトさんを幸せにする。約束する」


「いってらっしゃい」


 どちらからともなくキスをする。半年間毎日繰り返してきた、いってらっしゃいのキスだ。昨日までと違うのは、出かけるのが俺のほうだということぐらい。夜になっても逢えないことぐらい。


 最後に見たミコトさんの顔は、俺の涙でひどく滲んでしまった。せっかく我慢してたのにな。


 ミコトさんの柔らかな感触が消える。そして少しの浮遊感の後の凄まじい急落下に俺の意識は暗転した。


***


 ……カケルが行ってしまった。


 私に関わったせいで死んで、こんな私と一緒になりたいからと言って、過酷な修行の人生に出発してしまった。本当におかしな子。私のどこが良いのかちっともわからないけど。


 死神になって数百年、いつしか私の世界は灰色一色になっていた。


 けれどカケルの描いた私を見て思い出した。私の髪は銀色で、瞳の色は紅だった。


 カケルと過ごした半年間は、私の灰色の世界に淡く優しい彩りをもたらしてくれた。誰かが見送ってくれて、誰かが待っていてくれることが嬉しかった。その温もりが愛おしかった。


 本当は何度も器は見つかっていた。その度に私は適合率がいまいちだからと言い訳をして先延ばしをしていた。なぜだろう。いつの間にか私もカケルと一緒にいたくなっていた。離れるのが嫌になっていた。


 神にとって100年があっという間なんて嘘。ただちょっとだけ人間より辛抱強いだけ。


 カケルに沢山絵を描いておいてもらって良かった。毎日眺めていればきっと100年なんてあっという間だ。それに途中で死んで戻ってくるかもしれない。


 頑張ってねカケル。ミコトはそう言って、商売道具の鎌を取り出し、手入れを始める。いつカケルに呼ばれても良いように、しっかり研いでおかないと。







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