爺さんと婆さん

鹿 みのん

爺さんと婆さん

あるところに、多くの木が生い茂っている山があった。その山の深い森の奥に、小さな家が一つ、ポツンと立っていた。そこには、爺さんと婆さんがひっそりと生活していた。

「婆さん、今日はいい獲物がとれたよ。」

狩りから帰ってきた爺さんは、そう言いながら、獲物を持って婆さんがいる居間に上がった。

「いい獲物ですか。何がとれたんですか?」

婆さんは、縫い物をしながら聞いた。

「兎じゃよ。」

持っている兎を差し出して言った。

「何だってェェェェェッ!」

「兎じゃよ、兎。」

「聞き返したんじゃないわァ!怒っているだよォ!かわいい、かわいい、兎ちゃんを殺された事でなァ!」

「そ、それは悪い事をした。」

爺さんは凄まれ、一歩引いて言った。

「貴様ァ!!!一つの尊い命、謝って済むと思うかァーーーー!」

凄まじい気迫の婆さん。雷のように咆えている。爺さんは怖気付いて言う。

「大切に土葬しておくから!ゆるしてくれ!」

婆さんは、態度を変えずに返す。

「黙れェ!貴様の所業は、万死に値する。食らえェい!究極奥義、ジェットストリームアタァァック!」

そう言って婆さんは両手を前に出し、両の手のひらを互いに向き合わせる。すると、両手の間の空間に、浮き出るようにして水の玉が現れた。

「や、止めてくれ婆さん!それだけは!」

爺さんは恐怖のあまり、尻もちをついて言った。

「この期に及んで命乞いとは、貴様は自分の事しか考えぬクズだ!死ぬがいい!」

「グァァァァァアァァ…」

尻もちをついている爺さんに向かって、水の玉から激流が噴射され、それにより爺さんは地面に打ちつけられた。地面には窪みができていた。

「ああ、兎ちゃん…」

婆さんは、早足で兎の死体に駆け寄った。兎は胸を矢に射抜かれていて、そこからは血が流れた跡が残っていた。目は虚ろで、どこか遠い所を見ているようだった。

「可哀想に…。奴にやられたんだね。安心しな、仇はとったからね。」

婆さんは静かに土葬を始めた。兎の死体を土に埋めている婆さんの姿は、悲しげだった。

その頃、爺さんの姿は、元の場所には既になかった。その事を、婆さんはまだ知らない。

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