悪魔座
私立探偵
携帯のディスプレイには【品川半一】と表示されている。
らっぱの本名である。
一応周りに人がいない事を確認してから通話ボタンを押す。
「どうした?半一」
『・・・あれ?珍しい事もあるもんだ。快刀のだんなが飲んだ翌朝にこんな時間に出るなんて』
仕事の時以外は基本的に裏の名前は使わず本名で呼び会っている。
「電話して来ておいて何言ってんだ。何かトラブルか?」
『いや、昨日の仕事はちゃんと依頼人に届けて無事完了しました。お金も今日中には手に入りますよ』
「それは何よりだな。そしたら早くこっちに帰ってこい。仕事納めにパーっと行こうぜ」
『ええー!まだ飲み足りないんですかい!?』
「当たり前だ。昨夜は三軒しか回れてない」
『勘弁してくださいよ。快刀さんと飲みに行ったら早くても次の日の昼まで帰れないんだから』
「お互いに深く飲みあってこそ、仕事の信頼関係が出来上がるんだぞ」
『あっしとしてはもう十分信頼関係が築けてると思うんですがね」
「そんなに簡単に行くとは思うなよ。まずは24時間飲みコースをだな・・」
『快刀さん。それよりも仕事の話をしても良いですかい?』
お酒の話を始めたらきりがない。
すでに心得ている半一は遠慮なく話を切った。
「仕事?」
『新しい仕事の話ですよ』
「ほう。終わったばかりで、もう新しい仕事の話とは。ずいぶん景気が良いじゃないか」
裏の仕事は単価が高い。
一人数百万単位で、ターゲットや人数によっては一桁増えることもある。
快刀はまたはしご酒が出来ると思うと自然と声が弾んだ。
「いくらの仕事だ?」
『内容を聞く前に金の話とは快刀さんらしいや。・・今回は裏の仕事じゃありませんよ。表でやってる探偵の仕事の話です』
「何だと?お前いつから探偵の斡旋までする様になったんだ?」
『いや、別に斡旋した訳じゃ無いんですよ。たまたま探偵を雇いたいって知り合いの女の子がいまして』
「知り合いのおんなぁ?」
『そう。若い女でしてね』
「・・・パスだ」
快刀は話を聞く前に一蹴する。
今までの付き合いの中で半一の女関係の話はろくな事がない。
『な、何です?急に』
「どうせ親の借金で風俗で無理やり働かせられてるとか。裏カジノで働いていて抜け出せなくなったとか。そういう類いの話だろ。毎回毎回騙されてるとも知らないで。このバカたれが」
『いや、ちょっと聞いてくださいよ。・・確かに過去にそんな事があった事は認めますがね』
「全く懲りない野郎だな」
『今回はそんなんじゃないんですって。あっしも表側の仕事で知り合った娘なんですよ』
「表側って、ブンヤのか?」
『ルポライターって行ってくだせえ』
らっぱこと品川半一はルポライターである。
その範囲は大物政治家や財界のトップ、裏社会や芸能など多岐に渡り、徹底した聞き込み調査と粘り強い取材で、ここ数年の間に汚職やスキャンダルを数多くスクープしてきた。
今ではマスコミ関係以外にも名前が広く知れ渡っていて、その強力なパイプが裏の仕事に役立つ事も多い。
「で?そのルポライターが知り合ったのはどんな女なんだ?」
『快刀さん。春日って知ってますか?』
「春日麗奈?・・・いや、知らんな」
『フリーの女子アナウンサーで以前は結構テレビにも出ていましてね。これがまた、たまんねえくらいに滅法美人なんですよ』
美人という単語で半一の声が弾んだ。
生来の女好きなのだろう。
「その美人がなぜ探偵なんぞ雇うんだ?」
『その娘の話によるとですよ。最近首都テレビが特番で放送する予定だった、大きな仕事が入ったそうでしてね』
首都テレビとは日本のエンタメ界をリードし続けているテレビ局である。
ニュース、バラエティ、ドラマと全てのジャンルでここ数年常に視聴率トップを独占している。
『ところが気合い入れて意気込んでいたにも関わらず、テレビ局側から突然その企画自体が無くなったと言われて。全部パーになったとか』
「別にテレビの企画が無くなることなんて珍しい事ではないだろ」
『それはそうなんですがね。・・ただ不可解なのが、その番組を企画した人間が行方不明になってるってんですよ』
「・・・ほう」
『突然取り消された企画と行方不明者。彼女はその真相を探りたいそうなんです』
「真相を探って、その娘に何のメリットがあるんだ?」
『さあ?あっしもそこまでは。それは本人に聞いてくだせえ』
「・・・・・」
『どうです?とりあえず話だけでも聞いてみませんか?』
「・・良いだろう。じゃあその娘と会う段取りをつけてくれ」
快刀の言葉に半一の返答がすぐに帰ってこない。
「・・どうした?」
『へへ、それが・・・もう段取りつけてまして』
「え?」
『すでに今日会う約束を取り付けてあるんですよ』
半一が少し悪びれた様子で言う。
「このバカたれが!」
公園に快刀の声が響き渡った。
らっぱの本名である。
一応周りに人がいない事を確認してから通話ボタンを押す。
「どうした?半一」
『・・・あれ?珍しい事もあるもんだ。快刀のだんなが飲んだ翌朝にこんな時間に出るなんて』
仕事の時以外は基本的に裏の名前は使わず本名で呼び会っている。
「電話して来ておいて何言ってんだ。何かトラブルか?」
『いや、昨日の仕事はちゃんと依頼人に届けて無事完了しました。お金も今日中には手に入りますよ』
「それは何よりだな。そしたら早くこっちに帰ってこい。仕事納めにパーっと行こうぜ」
『ええー!まだ飲み足りないんですかい!?』
「当たり前だ。昨夜は三軒しか回れてない」
『勘弁してくださいよ。快刀さんと飲みに行ったら早くても次の日の昼まで帰れないんだから』
「お互いに深く飲みあってこそ、仕事の信頼関係が出来上がるんだぞ」
『あっしとしてはもう十分信頼関係が築けてると思うんですがね」
「そんなに簡単に行くとは思うなよ。まずは24時間飲みコースをだな・・」
『快刀さん。それよりも仕事の話をしても良いですかい?』
お酒の話を始めたらきりがない。
すでに心得ている半一は遠慮なく話を切った。
「仕事?」
『新しい仕事の話ですよ』
「ほう。終わったばかりで、もう新しい仕事の話とは。ずいぶん景気が良いじゃないか」
裏の仕事は単価が高い。
一人数百万単位で、ターゲットや人数によっては一桁増えることもある。
快刀はまたはしご酒が出来ると思うと自然と声が弾んだ。
「いくらの仕事だ?」
『内容を聞く前に金の話とは快刀さんらしいや。・・今回は裏の仕事じゃありませんよ。表でやってる探偵の仕事の話です』
「何だと?お前いつから探偵の斡旋までする様になったんだ?」
『いや、別に斡旋した訳じゃ無いんですよ。たまたま探偵を雇いたいって知り合いの女の子がいまして』
「知り合いのおんなぁ?」
『そう。若い女でしてね』
「・・・パスだ」
快刀は話を聞く前に一蹴する。
今までの付き合いの中で半一の女関係の話はろくな事がない。
『な、何です?急に』
「どうせ親の借金で風俗で無理やり働かせられてるとか。裏カジノで働いていて抜け出せなくなったとか。そういう類いの話だろ。毎回毎回騙されてるとも知らないで。このバカたれが」
『いや、ちょっと聞いてくださいよ。・・確かに過去にそんな事があった事は認めますがね』
「全く懲りない野郎だな」
『今回はそんなんじゃないんですって。あっしも表側の仕事で知り合った娘なんですよ』
「表側って、ブンヤのか?」
『ルポライターって行ってくだせえ』
らっぱこと品川半一はルポライターである。
その範囲は大物政治家や財界のトップ、裏社会や芸能など多岐に渡り、徹底した聞き込み調査と粘り強い取材で、ここ数年の間に汚職やスキャンダルを数多くスクープしてきた。
今ではマスコミ関係以外にも名前が広く知れ渡っていて、その強力なパイプが裏の仕事に役立つ事も多い。
「で?そのルポライターが知り合ったのはどんな女なんだ?」
『快刀さん。春日って知ってますか?』
「春日麗奈?・・・いや、知らんな」
『フリーの女子アナウンサーで以前は結構テレビにも出ていましてね。これがまた、たまんねえくらいに滅法美人なんですよ』
美人という単語で半一の声が弾んだ。
生来の女好きなのだろう。
「その美人がなぜ探偵なんぞ雇うんだ?」
『その娘の話によるとですよ。最近首都テレビが特番で放送する予定だった、大きな仕事が入ったそうでしてね』
首都テレビとは日本のエンタメ界をリードし続けているテレビ局である。
ニュース、バラエティ、ドラマと全てのジャンルでここ数年常に視聴率トップを独占している。
『ところが気合い入れて意気込んでいたにも関わらず、テレビ局側から突然その企画自体が無くなったと言われて。全部パーになったとか』
「別にテレビの企画が無くなることなんて珍しい事ではないだろ」
『それはそうなんですがね。・・ただ不可解なのが、その番組を企画した人間が行方不明になってるってんですよ』
「・・・ほう」
『突然取り消された企画と行方不明者。彼女はその真相を探りたいそうなんです』
「真相を探って、その娘に何のメリットがあるんだ?」
『さあ?あっしもそこまでは。それは本人に聞いてくだせえ』
「・・・・・」
『どうです?とりあえず話だけでも聞いてみませんか?』
「・・良いだろう。じゃあその娘と会う段取りをつけてくれ」
快刀の言葉に半一の返答がすぐに帰ってこない。
「・・どうした?」
『へへ、それが・・・もう段取りつけてまして』
「え?」
『すでに今日会う約束を取り付けてあるんですよ』
半一が少し悪びれた様子で言う。
「このバカたれが!」
公園に快刀の声が響き渡った。
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