悪魔座

不動 聖

悪魔座

いざという時の為に隠し持っていた三人の尊い命を奪った凶器のナイフ。

目の前にいるマスクの男にその刃を向ける。

「誰が捕まるか!ぶっ殺してやる!」

「やめとけ。弱い者にしか手を出せない奴が」

川合が声を荒げて威嚇しナイフを突き付けられた状態でも男に怯える様子はない。

(なんだこいつ。ビビらねえのか!?)

そこで川合はふと男のマスクに星座の様な模様が入っている事に気付く。

その星座の形はまるで悪魔を象っている様に見えた。

(・・悪魔?)

それを見た川合はさらに福本が特に警戒するようにと話していた事を思い出した。



賞金稼ぎの中でも特に恐れられている存在。

【悪魔座《あくまざ》】と呼ばれる男で、賞金稼ぎ達の間では頂点に君臨し、今まで悪魔座に狙われて逃げ切れた者はいない。

銃や刃物が相手であろうが人数で立ち向かおうが倒す事は出来ず、抵抗する者はことごとく返り討ちにあう。

その人間離れした強さと容赦のなさはまさしく悪魔の様だという。


今、目の前にいる男がそうなのだろうか?

そうすると自分は逃げられないのだろうか?

不安を感じながら川合は聞かずにはいられなかった。

「・・てめえ、まさか悪魔座か?」

「ほう。良く知ってるな」

人違いであれば良いと思ったわずかな期待は一瞬にして砕かれた。

(やはりこいつが!?)

「俺の事を知っているなら、抵抗するだけ無駄だと言うこともわかっているだろう」

「うるせえ!」

川合も今さら素直に捕まる事は出来ない。

ならば選択肢は一つ。

再び殺意を剥き出しにしてナイフを悪魔座に向けた。

「へへ!悪魔座だろうと何だろうと邪魔する奴は殺してやる!・・殺してやるぜ!」

そう言い放つとサバイバルナイフを悪魔座の心臓を狙って勢い良く突き出した。

悪魔座はその場から動かず、避ける様子は無い。

(殺った!)

川合が思った瞬間  ー

ナイフの刃先が悪魔座の体に触れる直前でピタリと止まる。

(なんだ!?なんで刺さらねえ!)

見ると、体に当たる寸前で悪魔座が親指と人差し指でナイフの刃を握って動きを止めた様だ。

川合が必死にナイフを引っ張るが動かない。

指二本で掴まれているだけなのに、まるでペンチで挟まれてる様にピクリともしない。

「無駄だと言ったろ」

力の差を見せつけられ、敵わないと悟り川合は初めて心の底から恐怖した。

(こ、殺される・・)

体が小刻みに震えだして止まらない。

「殺されるという恐怖を味わったか?お前が殺した女達の様に」

死神が死の宣告をするように悪魔座は低い声で呟いた。

「う、うわー!」

もはや考える余裕も無い。川合はナイフを離すと全速力で走り出した。


(し、死にたくねぇ!)


50メートルほど走り、コンテナの角を曲がった所で動きが止まった。

そこに悪魔座が立っていたのだ。

「う、うわ!うわー!!」

「逃げる所も無いと言ったぞ」

「た、助けてくれ!」

川合は両手を合わせ悪魔座に命乞いをした。

「た、頼む!俺はまだ死にたくねぇ!」

「人を殺しておいて、自分は殺されたくないか?」

「金だろ!?金さえあれば良いんだろ!?俺が賞金よりも多くの金を出せば・・」

そこまで言って言葉を遮られた。

「外道は悪魔の手で始末してやる」

もはや交渉の余地すらない。

「くそー!」

一か八か。

最後のあがきとして川合は悪魔座目掛けて体ごとぶつかっていった。


ドス!


次の瞬間、鈍い音はしたが相手にぶつかった感覚はない。

かわりに川合は腹部に強烈な衝撃を感じた。

胃の中の物が逆流して口から飛び出す。

「おえ!」

何をされたかもわからないまま激しい痛みと共に目の前の視界が一気にかすんでいく。

激痛に腹を抱え込みながら膝から崩れ落ちると、そのまま倒れこみ失神した。



悪魔座は川合に近付くと慣れた手つきで両手を後ろに回し手錠をかけ布で目隠しする。

そして鍼を一本取り出すと川合の首に刺した。

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