世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

73話「ドラグニア王国の最期」



 俺がモンストールどもと同類。現在の魔人族と似た存在。屍族…。

 「カイダさんが、モンストールと同じような存在…!?そんなことって……っ」
 「コウガさんが死んでなお…こうしていられるのも、魔石から生じた瘴気を取り込んだ、から…」

 ミーシャがショックを受け、クィンは全てが繋がった!的なリアクションをする。
 俺も少なからず衝撃を受けている。死んだ自分がまさかの人間たちの敵として生まれ変わっていたのだから。
 だが、ザイートが魔石のことを言った時、俺は薄々予感していた。自分がどうしてゾンビとして復活したのかを。そして魔物のなれの果てがモンストールだと知らされた時、自分もあいつらと同じ過程で今に至ったのだと。

 「あとはお前たちも知っている通り、今から五年程前…まあ俺たちからにとってはごく最近のことだが……俺たちはついに動いた」
 「地下一帯に、大量の魔石を気化させて瘴気地帯をつくって、昔繁栄していた魔人族たちと同じくらいの数の同胞を誕生させた。そいつらで新たなる魔人族の軍を編成して、満を持して再びこの世界に現れて人族・魔族、無差別に襲った」
 「戦士と民を殺し、領地を侵略して、数百年前のあの時代を再現させた!

 ……俺の授業は以上だ。これでこの世界の真実を知ることができただろ?」

 最後にそう締めくくってザイートはこの世界の真実とモンストール発生の真実を全て話した。だが、まだ謎が解けていないものがある。

 「俺がモンストールどもと限りなく近い存在であることは分かった。俺とあいつらの違いと言えば、元の種族が異なる、というのが一般的だろう。
 だが、まだある。それも大きな違いが」

 俺はザイートを睨んでそう述べる。そんな視線を受けても、ザイートは余裕の笑みを浮かべたままだ。ミーシャはどういうことかと俺を見て、すぐにハッとした様子を見せる。彼女も気付いたようだ。

 「屍族だろうと、心臓や脳を破壊したり、体を真っ二つにしたり、炎で跡形もなく消したりすれば、モンストールでも生前通り絶命して動かなくなってる。それは俺も、人族も魔族も、知っての通りだ。

 だが、俺は見ての通り、バラバラにされても、心臓や脳を破壊されても、致死に至る傷を負っても毒に冒されても、しばらくすれば再生して元通りに復活、生命活動が停止することがない。不死身の化け物、“ゾンビ”だ!
 この体質はどういうことなんだ?結局、俺は何なんだ?」

 未だに最大の謎である俺のこのゾンビ体質。殺しても死なない。もう死んでいるのだから。
 消し炭にしても消えたりしない。塵が集まって元通りに再生される。
 そんなチート能力を備えているのは俺ただ一人。これまでに遭遇したモンストールで俺と同じ奴など、誰一人としていなかった。
 質問をして数秒たち、ザイートがようやく口を開いた。


 「俺にも分からん」

 それが、奴の答えだった。

 「分からん、だと……?話からするに研究熱心だったテメーでも、俺がどういう存在なのか、分からないってか?」
 
 噛みつくようにザイートに詰問するが、彼は憮然として答える。
 
 「瘴気を吸ったことで不死にはならない。規格外の力が得られるだけだ。
 さっき俺は、初めてお前と遭った時、軽く小突いたと言ったな?あれは本当は生け捕りもしくは殺してお前を研究しようとしての攻撃だった。あの二撃でお前は死んだと思ったのだが……その直後、お前は予想外の行動をした。
 分裂体とは言え、俺の攻撃を受けて死なない生物はいなかった。
 だがお前は死ぬことなく、それどころかその後再び現れたお前の身体は元に戻っていたな?俺にとって、全くの未知で不可解な現象だった。完全の不死身生物など、初めて見た生物だ。
 お前は、俺にとっても“イレギュラー”だ」

 俺を得体の知れない生物を見る目でそう言うザイートに、俺はしばし呆然とする。隣にいるミーシャやクィンも同様の反応をしていた。
 つまり、俺だけ例外で、イレギュラー反応が起きて、このクソチートでさえも把握していない事態を起こしているということになるのか、俺は。この世界のバグ事象に当てられてゾンビになった、って言われても納得できる自信があるわこんなの。
 ともかく、分かったことは……

 俺は死んだが、ザイートをはじめとした魔人族どもが発生させた魔石産の瘴気によって死体状態のまま生前通りに活動できるようになり、その際に規格外の力を手にした。
 だがその力には、ザイートが従えてる魔物どもと違ったところがあった。殺しても終わらない不死身の身体となり、無限に強くなれる特殊技能がついていたのだ。そのことについてはザイートでさえも予想外であり、俺はイレギュラーであるということ。

 といったところだ。

 で?だから何だよ、って話だよ。首と胴体バラバラにされたこの状況で一体どうしろというのやら。

 「さて、色々話し込んだが、このままさようならするわけにもいくまい。
 長い長い時を経て、今ようやっと俺たち魔人族が再び表舞台に出て世界を支配する時がきた。手始めに、この国を消して、そのあと竜の国も消して、この大陸を支配するとしよう」

 その時、王宮から大爆発が起こる。同時にそこから人影がいくつか飛び出して……俺たちの近くに降り立った。
 そしてそれらを目にしたミーシャと王妃が血相を変える。

 「お父様、お兄様……!!」
 「マルス、あなた……!」

 二人は体のあちこちから血を流した状態のまま倒れ伏している。俺が謁見部屋でやった時以上に痛めつけられているな。

 「ザイート様、こいつがドラグニア王国の国王で、その若い男が王子です。命令通り、この二人以外の人族は皆殺しにしてきました」
 「おうご苦労さん」

 そしてその二人を連れて来た奴は………ザイートと同じ人の形をしたモンストール……つまり魔人族だ。

 「もう一人、いたのか」

 赤い髪で切れ長の目をしているその男を「鑑定」してみると……コイツも詳細不明って出てきて、数値も文字化けしてやがる。魔人族に対してだけ、ステータス表示がバグるようになる仕様なのか?
 赤髪魔人の体には誰かの返り血らしきものがたくさん付着している。それを見た王妃が震えを抑えながら問いかける。

 「王宮にいた方々を、本当に全員殺したのですか……!?」
 「はっ、そうだってザイート様に報告したのを聞いただろ?逃げていく人族どもを後ろからぶっ殺すのは中々楽しかったぞ!抵抗した奴もいたが非力過ぎる、瞬殺してやったぜ。何ならこの二人にも確認してみたらどうだ?こいつらは少々戦えてたな。まあ俺の敵じゃなかったが」

 嘲笑いながら国王の頭を軽く蹴って仰向けにさせる。国王は痛みと屈辱で顔を歪ませている。

 「く……そ……!使えない、者たちだった…!全員あっさり殺されおって。我の召喚神獣すら、この魔人には敵わず……!」
 「そ、んな………っ」

 国王の言葉を聞いたミーシャは絶望の表情をする。それを見た魔人たちは嗤い出す。

 「ククク。そこの国王を殺せば、まずは人族の大国を一つ滅ぼすことになるな。魔人族による世界支配の第一歩だ!」

 国王の頭を掴み上げて掲げながらザイートは邪悪に笑う。

 「ふ、ざけるな……!そんなことが……許されるわけが、なかろう……っ」

 王としてのプライドか、国王は未だに折れた様子を見せることなく、痛みで顔を歪めながらもザイートを睨みつける。
 一方の王子は、あれはダメだな、完全に折れてやがる。恐怖してビクついてやがる。

 「殺される……!ち、父上、誰か……助けてくれぇ……!」
 「マル、ス…!貴様はそれでもこの国の王子か!?世界の敵であるこやつらにそんな弱い姿を、見せるな……!」
 「くくっ、そう言ってやるなよ国王さんよぉ。このガキは俺やザイート様のような、本物の化け物レベルの強さを持った奴を初めて見たってんだから。魔人族についても今日まで知らなかったそうじゃねーか。酷いよなぁ、自分の子供にそんな重要なことを教えてなかったなんて」
 「黙れ……!この、国賊が……(ドギャ!)……がへぁ!?」

 ザイートが国王の顔面を地面に打ち付けて黙らせる。国王の顔からは血がボタボタ流れ出ている。

 「ガキや女房の前で威厳を保つのは大変だよなぁ?本当はお前も恐怖で震えているくせに」

 痛みでうずくまっている国王を面白そうに見下してザイートは再び嗤う。
 今のこいつらには悪意しかない。国王と王子に痛みと屈辱を与えることが楽しくて仕方がないといった感じだ。悪い趣味してやがる。大西どもをさらに悪くしたような奴らだ。

 「く、そ……!誰か、この魔人族どもを討伐しろ……!誰か、いないのか…!?」

 血まみれの顔を上げてザイートたちを討ってくれそうな奴を捜し出す国王。ミーシャと王妃を視界に入れると失望した目をしたが、俺とクィンを目にした瞬間わずかに顔を醜く歪める。

 「カイダ、コウガか……!貴様に頼むのは、不本意の極みだがやむを得まい……今すぐこの二人を討つのだ!報酬は貴様が望むだけ全てくれてやる!だから我らの為に、動くのだ……!」

 この期に及んでまだ俺に対して上から物を言うクズ国王に、俺は怒りよりも呆れの感情が勝った。俺がこいつらの麾下から抜けたことを忘れているとか以前の問題に…

 「テメー俺の状況が見えてねーのか?俺もこの魔人族にやられてんだよ。しかも身動きも出来ない」

 俺の言葉にクズ国王は歯を軋らせて地面を殴りつける。

 「使えぬ、者め……!ならばクィン兵士団副団長!我とマルスだけでもここから助けだしてくれ!せめて逃走くらいは成し遂げられるだろう!?」
 
 今度はクィンに助けを求める。その要求内容も意味が分からないものだった。

 「あなた方二人だけを…!?ミーシャ王女とシャルネ王妃はどうされるつもりなんですか?」
 「二人は……置いて行け。仕方なかろう……!その二人よりも我とマルスの方が人族にとってまだ有力となる。使える者を生かすのは当然のことであろう……!」
 「そんな……自分の妻と子をそうやってあっさり切り捨てるなんて……!」
 「「……………」」
 
 クズ国王の言い分にクィンが唖然として、ミーシャと王妃は悲しげに俯いている。つーかそんなこと言ってる場合?
 
 「私には……それは出来ません。逃げることも、この者たちから逃げられる気が……しません」
 「おのれぇ!どいつもこいつも……!!」
 「あ………ああ…………っ」
 
 クィンの拒否にクズ国王は憤り、王子は情けなく狼狽する。

 「ははは!そこの女兵士の言う通りだ!逃がすわけねーだろ。俺から逃げ切れると思うな。
 それよりも、国王さんよぉ?お前みたいな奴がよく国王なんかやってんだな?」
 
 その意見には同意する。

 「王宮で戦った時もそうだ!こいつ、何食わぬ顔で自分の部下どもの命を贄にして神獣を召喚しやがったんだ!まるで消耗品を当たり前に使うかのようにな!敵ながらなんて奴だと思わされたぜ!」

 赤髪魔人の言葉を聞いたミーシャと王妃は衝撃を受けた表情をする。クィンも信じられないといった顔をしている。

 「だま、れ…!部下や民が…我の為に犠牲になるのは当然だ!我が死ぬことは、国の死と同義になるのだからな…!あ奴らの命は、使われるべくして使われたに過ぎぬっ」
 「そんな……!」
 「………………」

 ミーシャと王妃は完全にドン引きしてんじゃねーか。魔人族ですらどうかしてるって言うくらいだもんな。俺もうっわ……って思ってるし。 

 「はっ!その使われるべくして使われた命も結局無駄に終わったよな?俺に無様に負けてこうなってるんだから、はははははは!!」

 赤髪魔人はクズ国王を指差して嘲笑いまくる。ザイートも愉快そうにほくそ笑んでいる。

 「そんなことは、どうでもいい!!カイダコウガ、その拘束をどうにか解いて我らを窮地から救うのだ!!この状況をどうにか出来るのは貴様くらいしかおらぬだろう!?」

 クズ国王は再び俺に偉そうに助けを求める。当然俺の答えは……

 「嫌に決まってんだろ、このクズが」
 
 拒否だ!

 「な………んだ……と?」
 「仮にこの拘束が解けて万全状態だったとしても、誰がテメーなんか助けるかよ。テメーもそこのクソ王子も、全員見殺しにしてやるよ」

 体が自由ならここで中指を突き立ててやりたかったが今は不可能だ。

 「貴様……我を誰だと………人族にとって我はなくては―――」
 「要るわけねーだろテメーなんか。テメーなんかいなくてもこの世界はきっと普通に動くっての。俺はテメーやクソ王子を生かすよりもそこのお姫さんを生かした方が世界にとって有益だって思えるね」
 「な………っ」

 ミーシャに差した指を、クズ国王はここで初めて絶望した顔をして呆然と見つめる。

 「ははは!希望潰えたり、だなぁ?なんて無様な国王だ、人望無さすぎんだろ!?」
 「ふ………ではそろそろ国王の処刑をするとしようか」

 ザイートが手から黒い剣を形成してクズ国王の足元へ移動する。

 「おのれ、おのれおのれおのれ………!!」
 
 ザイートが剣を振り上げるのを目にしたクズ国王は、顔を醜く歪めて壊れた機械のように恨み言を漏らす。

 「そんな、お父様……!!」
 「っ……!!」

 ミーシャと王妃は顔を青ざめさせてその光景を見ている。本当は飛び出したいと思ってるんだろうが、相手が相手なだけあってそれが出来ずにいる。

 「滅べ、大国の王よ」
 「おのれぇぇえええええええええ―――」

 そして、クズ国王ことカドゥラ・ドラグニアは、ザイートの剣によって斬られて、絶命した。
 ドラグニア王国が滅んでいく様を、俺たちはただ見てることしか出来なかった。



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