世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

67話「見殺し」



 「うわああああああ!!先生、助け―――えげぶぅ!!」

 お、ついに一人目が殺されたか。あいつはサッカー部の青木智貴か。ゴリラ鬼に殴り潰されて死んだ。

 「嫌だあああああ”あ”あ”あ”あ”―――」
 「助け、助けて!!ひ、ひぃ―――」
 「ちくしょう、こんなのってないだろおオオおぉ―――」

 石倉大輔に、小川奨貴、それにあれは…森川巧か?三人とも怪獣が放った火炎放射によって焼き滅ぼされる。後に残ったのは三人の燃えカスだけだ。

 「あ”あ”あ”あ”あ”あ”!?来るな、こっち来るなぁああぁあ!!誰か、あいつを倒して………」
 「馬鹿!?俺の方へ走ってくんな巻き込まれるだろうが―――」
 ドシュウウウウウウ……!!
 「「が………あ”あ”あ”…………っ」」

 阪本聡が迫り来るエーレっぽいモンストール(もうエーレでいいや)に武器の薙刀をヤケになりながら投げつける。当然止まらないエーレに絶望顔で叫びながら、あいつは…原田勇気のところへ逃げていく。そしてエーレが飛ばした巨大な角の形をした魔法攻撃によって二人仲良く串刺しにされて殺される。

 「はぁはぁ、おい山崎!お前の錬金術で少しでもいいから足止めしてこい!!」
 「はぁ!?冗談言うなよ片上!!
 っ!?おい押してんじゃ…………うわああああああ!?錬金術“鉄壁―――」
 グシャ……!!

 片上と同じ野球部で奴と山本の腰巾着的存在だった山崎勇希が、片上に押されたことでゴリラ鬼の標的にされる。錬金術で壁を構築するもその壁よりもデカい拳によってグシャリと潰されて、無惨に殺される。
 学校では片上どもと一緒にいる時だけ強気でいる反面一人では弱い弱い小物野郎だったが、それはこの世界でも変わらなかったな。
 今殺されていった奴らは、どれも学校では俺を馬鹿にして陰で罵ってやがった。
 俺だけ鼻ほじっただけで不潔呼ばわりしたり、俺の時だけ授業で当てられて答えたら失笑を漏らしたり、俺の走り姿をキモイキモイと言いふらしたり、裏掲示板で俺を貶めていたり等……小さいことからかなり陰湿なこと全てに俺は根に持っている。
 そんなことをしてきた奴らがモンストールに無惨に殺されても、悲しい感情なんて一ミリも湧かねー。
 お、さらに元クラスメイトどもが殺されていってるな。

 「いやああああ!!召喚獣たち私を守って…………何よ、使えない!!
 助けて、晴美助けてよおおお”お”お”―――ズバァン!――ぉお”、お”お”お”…………」

 柴田あいり。確か安藤や鈴木とつるんでるけど一番仲良い関係を築いているのはここにはいない中西だったな。あいつは中西と一緒になって俺を糾弾したことがある。もっとも、冤罪をふっかけてきたクソ女どもだったが。
 授業中に携帯電話を鳴らしたのはテメーだったくせに、近くにいた俺に罪を被せやがったもんな。中西や安藤、鈴木といったカースト上位グループの女子どもが結託して俺を貶めやがったこと、今思い出してもブチ切れそうだ。
 そんなクソ女・柴田は、自身が召喚した獣で抵抗しようとするもあっさり破られ、最期は親友に助けを求めながらエーレに斬り刻まれてバラバラ死体となった。

 「クソ、クソ!!俺はこんなところで死ぬべきじゃないはずだ!誰よりも頭が良い俺は将来、偉業を成し遂げる男になるんだぞ!!分かってるのか化け物…………ひ、い!?頼む、見逃してくれ、下さ―――」

 もう一人は………額縁眼鏡をかけている不細工野郎は、学校の成績が俺の次に良かったらしい、鈴木貞三郎だったか?
 二年生時からずっと学校の成績(主に筆記で)が勝てなかったことを根に持っていて、俺がクラスからハブられた頃からは大西どもに便乗して俺を貶めようとした、陰湿クソ眼鏡じゃねーか。
 俺に劣っているくせに、自分は頭が良いから有名大学へ進学するんだとかほざいていて、無駄にプライドを高く持っているだけの雑魚、それがあいつだ。そういやこの世界に来てからのあいつは、暴力は振るってこなかったものの弱いステータスの俺を見下すばかりで、俺を貶める内容の言葉を偉そうにぶつけてきたな。学校では陰口しか言えなかったのに力を持った途端アレだもんな。まさに陰湿クソ野郎だ。
 で、その陰湿クソ野郎は怪獣の魔法攻撃で灰になって消えた、か。無様な最期だ。
 
 それからも元クラスメイトどもは次々とモンストールどもに殺されていく。殴り潰され、魔法攻撃で消され、刺されたり斬り裂かれたり、噛み砕かれて千切られたり等と、一人また一人…残酷に殺されていく。そんな地獄とも呼べる光景を見ても、俺は全く動揺しなかった。モンストールって人間をあんなふうに殺すんだーって呑気に観察しているくらいだ。
 ふと振り返ると遠くからクィンが何か叫んでいるのが見える。たぶんだが早く助けに行けと、モンストールどもを殲滅しろ的なことを言ってるんだろ。
 気が付けば元クラスメイトどもは残り十人を切っていた。しかも残っているのはほぼ全員俺を特に不快にさせ、この世界でも散々虐げやがったクズどもじゃねーか。
 死にたくないとモンストールどもに背を向けて必死に逃げるが、その逃げ道をプテラノドン型のモンストールが奇声を上げながら降り立って塞いだ。もうあいつらの逃げ場はなくなった。
 全員が顔を恐怖と絶望にで歪ませて立ちすくんでいる。武器を構えるがその手は震えまくっている。
 そんな絶望ムードを醸し出している連中に、俺は呑気なトーンで話しかける。

 「あーあ、絶体絶命だねー。お友達も沢山殺されちゃって参ってるみたいだねー。無様だねー」

 煽った調子の言葉に反応した大西とか山本とかが次々とモンストール越しに俺を見る。
 
 「甲斐田……?」

 一瞬あいつらの目が希望見つけたと言わんばかりに輝いたのを見逃さなかった。そして俺の気配を感じとったゴリラ鬼が振り返って俺を睨む。
 雄叫びを上げて拳を振り上げながら俺に向かってくる。さらにその腕に岩石を纏わせて(大地魔法の応用か)腕を巨大化させていく。
 迫りくる巨大な岩石拳に対し、俺も「硬化」させた右拳で対抗する。脳のリミッターを500%近くまで解除して思い切り拳を放つ。
 耳が劈く高音が鳴り響き衝撃波も発生した後、俺が競り勝ってゴリラ鬼を吹き飛ばした、ついでに奴の左腕も破壊した状態で。
 しかしモンストールどもが今度は俺にヘイトを向けてきたな。せっかく元クラスメイトどもが殺戮されていくところを観戦してたのに。よし、ここは再びあいつらを標的にしてもらおう。
 「迷彩」を限定的に発動して、モンストールどもだけに俺が認識されないようにした。怪獣とプテラノドンとエーレは俺に注意が向かなくなり、再び元クラスメイトどもに目を向けた。

 「ひっ、また……!か、甲斐田!助けろ!!それだけ強いならこんな化け物どもだって楽勝だろ!?」
 「そうだそうだ!!このままだと俺たち殺されちまう!さっきみたいに本気出してこいつらを殺してくれ!!」
 「………」
 
 俺はぽけーっと黙って突っ立つ。

 「ちょっと、何で動かないのよ!?早く倒してって言ってるでしょ!!一人で全部倒せるんでしょ!?だったら早くやれよ!!私たちの為に!!」

 安藤の耳障りな命令言葉に対しても耳の穴をほじってうるさそうにリアクションをする。その態度に連中は怒りよりも焦りと恐怖の感情を乗せてさらに喚きだす。

 「おい、マジで何とかしてくれ!!冗談やってる場合じゃねーんだって!」
 「お前のクラスメイトである俺たちが窮地なんだぞ!!助けてくれよ!?」
 「仲間だろ?早くこのモンストールどもを駆逐してくれ!!」

 命の危機に晒されているとはいえあまりにも身勝手な発言の数々に、ついに俺は口を開いた。

 「クラスメイト?仲間?いったいどの口が言ってんだ、テメーらは」

 その一言を聞いた連中は固まったように黙る。

 「去年からずっと……テメーらがクラスほぼ全体で俺をハブって。貶めて、陰口叩いて、ありもしない悪評をバラまいて、俺の器物にまで手を出して。
 さらにこの世界に来てからは、いちばん低いステータスだった俺を罵倒と暴力で虐げて。またハブって。そして俺を生贄にして嗤いながら見捨てやがった。
 そんなことをしてきたテメーらが、俺を仲間?何だ、ギャグかましてのんか?だとしたら随分スベッたギャグだな、は は は 」

 感情が全くこもっていない乾いた笑い声を発してやる。大西たちの顔色がみるみる青くなっていく。

 「そ、そんなこと言ってる場合か?それらのことなら誠心誠意込めて謝ってやるから。もう甲斐田を馬鹿にしたり酷いこと言って痛めつけたりなんてしねーから。つーかもう俺らじゃ甲斐田に勝てねーし」
 「謝ってやる?謝らせて下さいだろそこは。つーか今すべきだろそういうことは。テメーらの今の立場分かってる?」
 「あ、あああそうだな!今までのことマジで悪かったと思ってる!学校のこと、この世界でのこと全部!すみませんでした!!」
 「ああ学校でのこと。大西、テメーが決めた下らない定期的な集まりに参加しなかっただけで俺を虐めようとしたのが始まりだったっけ、なぁ?」

 すると他の元クラスメイトどもが大西を非難するように見やる。片上や山本ですらもだ。

 「な、何だよお前ら……いやそんなことより!ちょっと気に入らなかっただけでお前を虐めようって思ったのがきっかけだったんだ!わ、悪かった!!この世界じゃあ散々暴力振るっちまってゴメン!!強いステータスもらって浮かれてただけなんだって!もう赦してくれよ!!」
 「浮かれてただけ、ねぇ」
 「実戦訓練で見捨てたことも、あれはマジで仕方がなかったんだって!甲斐田を助けてたら俺たちが殺されてたかもだったし!」
 「でも嗤ってたよな?」
 「あ、あれは……そう、気が動転してたんだ!!悪かったよ、赦してくれ!!本当に反省してるから!!」

 大西に続いて他の連中もローテーションで俺に対して弁明して贖罪しようとしてくる。まぁ口が回ること。必死になるのも無理はないか、あの状況じゃあな。

 「なぁ俺たちは全員反省している!甲斐田には散々酷いことをしてしまったことを本当に悪かったと反省している!!これからは甲斐田も俺たちの仲間になろうぜ!みんなで楽しくこの世界で生きていこうぜ!!虐めの償いもちゃんとするから!だから、俺たちを助けてくれ!!」

 大西も山本も片上も安藤も須藤も里中も小林も、須藤とつるんでいる早川と柿本も、全員俺を縋るように懇願してくる。
 だから、俺は―――

 「え?嫌に決まってんじゃん。テメーらなんか助けねーよばあぁ~~~~か」

 冷酷にそう言って返事してやるのだった!




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