世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る
65話「そんな人たちはちゃんといた」
未だにショックから立ち直っていない様子のミーシャをそのままにして、再び彼女たちがまだ知らないでいることを教え始める。
「あの時あの地底で…俺は確かに死んだ。けどその後、気が付くと何故かゾンビっていう動死体として復活していた。今の俺は言わばアンデットモンスターってやつだ。こうして自分の意思をしっかり保っていられるのも、動くことができるのも、魔力があるのも固有技能が使えるのも何でかは全っっく分からないけどな」
「ゾン、ビ………動死体」
「ああそういえば、クィン以外の人間には俺が生前の状態で映ってるように細工してたんだっけ。ゾンビってバラした以上取り繕う必要はないな………ハイ」
ぱんと手を叩くと同時に周りにかけていた「認識阻害」を解除してやる。これでミーシャたちには今の自分の本当の姿を認識できるようになった。
「その、姿は……」
「これで分かったろ?俺はあの頃の俺なんかじゃない。肌の色も目も普通じゃない。さらには特殊な固有技能が発現したお陰でチート級に強い力を発揮できるようにもなった。ゾンビの力ってスゲーんだぜ?敵を捕食することでレベルを上げたりその敵の固有技能を略奪して自分のものにすることも出来るんだ。この能力で俺は成り上がってやったんだ。異世界召喚の恩恵をもらって浮かれているだけの勘違い野郎どもとは違う。こんなところでぬくぬくと鍛えていた連中と違って、俺は常に災害レベルの敵と戦い続けることで今の力を手にした」
ミーシャはたいそう驚いた表情をしていた。ゾンビってのはこの世界では全く確認されてなかった種類らしい。意思を持ち戦うことも出来る死体……まあ怖いよな。
「俺が怖くなったか?未知の化け物だと、俺をここに招いたこと後悔したか?」
挑発するように尋ねてみる。
「いいえ。カイダさんを敵だとは思ってません。非常に驚きはしましたが……あなたは私にとって命の恩人であり、味方だと思ってます」
「味方、ねぇ?」
ここで懐にあるアイテム「真実の口」を起動して、今の言葉の真偽を判定してみる。反応は…ナシ。嘘はついてない、本当に俺を味方として見ているらしい。俺は全くそう思ってねーけどな。
「だから……今回のことで、ちゃんとお礼がしたいのです。先程の謁見ではあんなことになってしまいましたが、私としてはカイダさんに恩返しがしたいと考えているんです」
ミーシャは俺をまっすぐ見つめてそんなことを言い出す。
「いやいや、恩なんか返さなくていいから。そもそもあれはここにいるクィン経由でのサント王国に依頼されたから仕方なく討伐しただけだし。テメーらに好かれたくてやったわけじゃねーから」
心底どうでもいいって感じに返事する。しかしミーシャは首を小さく振って言い募ってくる。
「それでも……何かさせて下さい!私はカイダさんに何もお礼をせずにこのまま帰したくはないんです。私が提案した異世界召喚のせいでこの世界で死なせてしまった償いもしたいとも、思っているんです!こんな私のことを助けて下さったことを、すごく感謝しているんです……!」
「知らねーよそんなこと……。はぁ、なんかめんどいことになってきたなぁ」
何かさせて欲しいと粘ってくるミーシャに溜息を漏らしてぼやく。つーか、彼女は何なんだ?生前の頃もそうだったんだが、俺に構い過ぎじゃねーか?
「なあ……ずっと気になってたんだけど。お姫さんはどうしてそこまで俺に関わろうとするんだ?どうしてそんなに俺にお礼をしたがってるんだ?他の異世界召喚組の連中と比べると俺に対してだけやたら構ってきた気がするんだけど。何か理由があるのか?」
「それは………っ」
思い切って訊いてみることにした。クィンや王妃もいるが関係無い。ここで答えを言わせよう。
ミーシャは急に赤面しだして王妃の方を見る。王妃は優しく微笑んでミーシャに何かを促す仕草をする。それを見たミーシャは決心がついたのか、再び俺の目を見つめながら近づいてきた。
「私は、体が弱い子として産まれてきました。武力に関しても才能・センスが全く無いものでした。そのせいでお父様から早々に見切りをつけられました。あの人は魔術に秀でたお兄様にしか目を向けていませんでした。他の王族の方々も、お兄様にしか期待しておらず、私はほぼいない者のような扱いを受けてきました。中には、陰で私をこう呼ぶ者さえいました。お飾りの王女。そして“ハズレ者”とも」
「…………」
最後の一言を聞いた王妃は悲しそうな顔をする。というか何の話をしようとしてるんだ?俺が口を開こうとした時、隣に移動してきたクィンに口を塞がれる。
(今は……ミーシャ王女様のお話を聞きましょう)
お願いするように囁かれたので仕方なく黙ってやる。それにしてもハズレ者……まさかこのお姫さんにもあんな蔑称をつけられていたとは。
「お父様に目を向けてもらいたくて、軍略を学び、同時に政治の道へ進み、数年後には軍略家としての才が認められました。けれど…お父様たちの対応は変わらずでした。私の案を聞き入れてはくれましたが、相変わらず私に興味が無い様子でした」
クズ国王どもは即戦力にしか興味無さそうだしな。圧倒的武力こそが強いと思い込んでいるクチだろう。その理屈は間違ってはいねーけど、それは俺くらいのレベルにならないといけない。それにしてもあんなゴミクズどもに目を向けて欲しかったなんて。子どもはやっぱ自分の親に構って欲しいものなのかねぇ?
「時々戦闘訓練にも参加してみたのですが、体が弱い私にはついて行くことができず、挫折しました。本当は、私にも戦える力が欲しかったのです。
そんな中、ひと月程前に実施した異世界召喚で現れた方々の中で唯一、まともな召喚の恩恵が与えられていない人と出会いました。
――カイダさん、あなたのことです」
今の発言には不思議と、嫌味が感じられなかった。お姫さんの一言一言に、悪意は一切感じられない。
「召喚後の謁見の時、退屈そうにしていたあなたを見た時、最初は何となく気になる人という感じでした。他の人たちと違った仕草をしていて、それがたまたま目に映って、可笑しくてつい笑ってしまって...」
初日の謁見の時か。俺だけ退屈そうにしてたのが目立ってたからあの時目が合ったのか。
「あの謁見で、あなたが強気な発言した時はビックリしました。いきなり召喚された身であったにも関わらず、立場や報酬を確立させようとするなんて、この人はとても賢いなぁって思いました。それからカイダさんのことがさらに気になったのです。晩餐会の時のこと憶えてますか?カイダさんとお話をしたいと思ってつい話しかけてしまいました。そして私が異世界召喚を提案したことも教えたのも、あなたが他の人たちとは違うってことを直感で悟ったからです」
「はは、それは間違ってねーな」
つい笑って反応してしまった。ミーシャも最初に会った時と同じように可笑しそうに微笑んだ。
「そしてその後、私は知ってしまいました。さんのステータスのことを。他の人たちと違って恵まれない能力値と職業であったこと。“ハズレ者”と呼ばれていたことを…。その翌日の訓練で、クラスメイトから乱暴されたことも」
少し暗い表情になる。クィンもどこか神妙な面持ちをして聞いている。
「ある時…休憩時間を使って、訓練場の様子を見に行った時、カイダさんが一人で訓練しているところを見かけて、その様子をこっそり見ていました。
才能に恵まれず、体が弱い私と、不十分な恩恵しかもらえなかったあなたに…私はあ親近感を抱いていました。同じ恵まれない者、ハズレ者と言われた者同士。私たちはどこか似ている……そう思いました」
「…………」
「けど、違ってました」
突然の否定形が入ったことに、俺は訝しげにミーシャを見る。
「カイダさんは、とても一生懸命だった。
弱いからという理由で諦めて折れた私と違って、あなたは諦めてなどいなかった。歯を食いしばって、這い上がろうといった姿勢で、一人で自身を鍛えていた。
あの必死に努力しているカイダさんの姿に惹かれました...!
あの頑張っている顔は、私に希望を、元気を与えてくれました!
私にできることを精一杯やろうって、強く思わされました!
カイダさんは、私にとって憧れの存在なんです!」
そこまで言い切って、ミーシャは一息つく。自分の胸の内を俺に全て明かしたことでスッキリしてさえいるように見える。
あの時の俺はただ悔しさと元クラスメイトどもへの怒りを動力源にして鍛錬していたに過ぎない。それを希望だの元気だのって言われてもなぁ。なんにしろ俺は彼女に何かしら影響を与えていたそうだ。
「まあまあ、やっと彼に自分の想いを伝えられたわね。良かったわねミーシャ」
「は、はい……。もう二度と会えないと思ってましたが、こうして伝えることが出来て良かったです……」
王妃は嬉しそうにミーシャに話しかける。ミーシャも嬉しそうにしている。
「言いたいこと言えて良かったな」
俺は無表情でそう言ってから、そういえばと思い出したかのように続きを話す。
「あいつら…元クラスメイトどもって、今はこの国には俺を除いても全員はいないよな?それに…あいつらの担任(副)もあの時いなかった。六人だったか?あいつらは他の国にでも行ってるのか?」
俺はもうあいつらのクラスメイトではないからあえて「俺たちの担任」とは言わなかった。そこには決別の意も込めている。まあどうでもいいが。
俺の意を読んだのかミーシャは一瞬悲しそうな顔を見せたが、すぐに引っ込めて答えてくれる。
「カイダさんが予想している通りです。フジワラミワさんはハーベスタン王国へ、タカゾノさんをはじめとする残りの五人はラインハルツ王国へ短期滞在しています。全員それぞれの地で他国とともにモンストールと戦ってもらっています」
あの先生だけ一人で行ったのか。最初の頃からチートじみたステータスだったから、今はもっと強くなってるだろう。一人で派遣されたのも納得だな。クラス生徒だって、他の四人は知らんが高園も元クラスメイトの中なら彼女が戦力が一番上だろう。実戦訓練の前は俺の次に訓練に励んでたようだったしな。
「………タカゾノさんとフジワラさんは、あの実戦訓練の後から必死に訓練や任務に励んで、強くなってからカイダさんを捜索しに行こうとしてました。カイダさんがまだ生存していると信じ、助ける為に」
ミーシャはいきなりそんなことを話し始める。あの二人が俺を捜しに行こうとしてた?助ける為に?
「……………何だそりゃ?そんなことをして何の意味がある?何考えてたんだがか………」
「本当のことなんです!」
ぼやく俺にミーシャがそう強く言い切る。その意外なアクションに俺は思わず黙ってしまった。
「けれど………カイダさんが落ちたとされているあの地底は、今の彼女たちでさえ耐えられないレベルの瘴気が充満していることから、そして………あれから半月近く経過してしまった以上カイダさんが生存している可能性はゼロに等しいだろうという周りからの圧力から………お二人はここから発つ前には、カイダさんの捜索および救助を諦めてしまいました…」
それが妥当だろうな。実際俺は死んだわけだし。まあ謎の奇跡でゾンビとして復活してるわけだが。つーかあれから半月も経ってから俺を捜索しにって…どうなのそれ?普通すぐに諦めるでしょ、そこは。
「フジワラさんとタカゾノさんは、あの日……あの実戦訓練でカイダさんが地底へ落ちてしまったことに対して深く悲しみ、あの時あなたを助けられなかったことをひどく悔いてもいました」
ミーシャは痛ましそうにそんなことまで話しだす。あの時、俺が落ちていくのをどいつもこいつもが助かったことに安堵して、嘲笑ってた奴すらいた。誰もが俺がいなくなることに大して惜しまなかったんだと、思ってた。
「真実の口」を起動して、ミーシャの今の発言の真偽を判定する。結果は………反応無し。彼女の言ったことは本当なんだと、改めて思い知らされる。
「今もきっと…カイダさんが生きていること、あなたが自力で地底から生還してくることを祈っていると思います。あなたのことを想っている人は、ちゃんといます!もちろん私も…!」
「……………」
ミーシャの言葉に俺は黙ることしか出来ない。言葉が出てこないのだ。そんな俺に、クィンが嬉しそうな顔をしながら囁くように話しかける。
「イード王国での食事の時のこと憶えてますか?私が言った通り、コウガさんがいなくなってしまったことを悲しみ嘆いた人がいることを。あなたを大切な仲間だと思っている人は絶対にいることを」
クィンの言葉にも何も言えないでいる。反対にミーシャがクィンの囁きに反応して嬉しそうにしていた。
「よく分からねぇ」
やっと出た言葉は、それだけだった。そんな俺を、三人は微笑ましいものを見る目で見てくるので居心地が悪くなった。
「はぁ………というか、もうこの密会はお開きにしても良いよな?今日話したことは後でクズ国王どもに話しても良いぞ。好きにすればいい」
「あ……待って下さい!ですから、私はカイダさんに何かしてあげたいと思ってるんです。本当に…何か欲しいものやして欲しいことはありませんか?」
帰ろうとする俺を、ミーシャは何かお礼をさせて欲しいと言って引き止めてくる。その行為に強制してる感じはないものの、縋ってきている感じがする。して欲しいことって……王女がそんな言葉を使って良いと思ってんのか?そこの王妃、あんたはこの子にどんな情操教育をさせてきたんだ?そういうところはちゃんとしないとだろ。
クィンはどうしますかって顔で俺を見てくる。ので俺は……
「特に思いつくものが無いので、いいです」
「カイダさん!?」
「あら…まあまあ」
啞然としているミーシャと王妃をそのままにして帰る素振りを見せる。クィンが困った顔のまま俺について行こうとする。
部屋から出ようとした…………その時―――
(―――何っ!?)
刺すような殺気を察知した……!
「ちっ!?クィン、そこから左に向かって全力で跳ぶか走れ!!」
「っ!?はい!!」
「きゃ……!?」
「えっ!?」
ミーシャと王妃を抱えて右へ跳ぶ。その直後耳を劈くような爆音が響いた。見ると俺たちがさっきまでいた場所が消し飛んでいて、巨大なクレーターができていた。
(間一髪だったな。「未来予知」のお陰でクィンへの警告も間に合った。ついでにこの二人も助けてやった)
両腕で二人を抱えながら反対方向へ回避したクィンが無事なのを確認する。そして砂埃がなくなると同時に今の攻撃の主を目で捉える。
そいつは……一言で言うならば、「化け物」。太古の昔に存在していただろう大型の恐竜と同じあるいはそれ以上のサイズの化け物だ。そしてそいつは、強い。
Gランクよりも強い。そうかコイツは…………
「Sランク、モンストール……!!」
クィンが戦慄した様子で、奴をそう呼んだ。
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