世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る
57話「クィンの依頼」
「……………」
しばらく無言でクィンを見つめる。彼女も真剣な目でこちらを見返す。エルザレスの屋敷の時と同じ、本気の言葉だ。
ただ、今回は少し違うところがある。あの時は俺に単なる“お願い”で力を貸すよう求めたが、今回は“依頼”と言って力の貸し出しを求めにきている。
「昨夜、サント王国の国王様と話をしました。主にこの大陸の現状と、ドラグニア王国がモンストールの侵攻に遭っているであろうことなど。私は国王様に言いました、ドラグニア王国に侵攻しているモンストールの群れを殲滅したいと。
しかし昨日エルザレスさんの屋敷で言った通り、サントの兵士団がドラグニア王国に着くには時間がかかります。足並みが揃うのを待っていれば手遅れになる可能性が高いでしょう。やはりこの大陸にいる私しか動くことが出来ない。しかしその戦力は……あまりにも不足している。昨日のクエストで嫌というほど思い知りました…」
「…………」
「私に出来ることはコウガさん……結局あなたを頼ることしかないのです」
チラとアレンや鬼族たちを見る。アレンはまだ全快できていない。センたちも昨日みたいな激戦は、無理そうだ。この中で動ける奴と言えば当然俺だわな。
「………モンストールどもを殺すだけなら、引き受ける」
「いえ、コウガさんには今回…王国の人々も助けて欲しいのです!」
またか…と俺は呆れる素振りをする。
「言ったよな?意図して他人を助けるなんて気は俺には微塵もないって――」
「ええ聞きました。だから依頼しにきたのです」
つい閉口してしまう。隣にいるアレンはキョトンとした顔をしている。
「ステータスプレートを見てみて下さい。サント王国冒険者ギルドから通知がきているはずです」
言われるままにプレートを起動すると何やら見たことないマークが映し出されていた。
「ギルド登録すると緊急の指名クエストが出た場合、こうしてプレートに通知がくるようになってるんです」
初めて聞いたわそんな機能。つーか通知がきたことすら気づいてなかった。プレートを起動する習慣が無いせいか。
で、マークをタップすると、依頼書がデカデカと映し出された。
『Sランク冒険者オウガ ドラグニア王国に侵攻したGランクモンストールの群れを殲滅し ドラグニア王国を守れ その際、ドラグニア王国の人々の命も救うこと 手が届く範囲にいる者たちは必ず助けること』
こんな指名クエストを会ってもいないサントの国王が依頼したわけがない。クィンに視線を向ける。
「お前の差し金か…」
「はい。昨日私が国王様に頼みました。その依頼内容をギルドに出して欲しいと。国王様は受諾して下さり、今朝ギルドに依頼を出されました。そして今、あなたにそのクエストが発注されたのです」
再びプレートに出ている依頼書を見る。そんな俺にクィンは頭を下げてきた。
「昨日ここで、コウガさんは私に言いました……私の思想をあなたに押し付けるな、と。
確かにその通りです。人それぞれに意思があってその通りに動くもの。私はコウガさんに力があるのだから民や弱った冒険者を助けるのは当然だと押し付けてしまっていました。あなたは過去に苦しいことがあったのに、それを考慮しないで勝手なことをしてしまいました。
そのことを謝らせて下さい、申し訳ありませんでした!」
丁寧に謝罪するクィンに、俺は気まずくなって目を逸らす。あれは俺の八つ当たりだってのに。それでも自分に非があったと解釈してこうして謝ってくるなんて…。
「昨日のことは、俺も悪かった。お前に当たったようなものだ。勝手なことばかり言っていたガキだって思っていいのに、そうやって謝られると、なんかね……」
溜息ついて俺も謝罪する。クィンは俺の言葉を聞いてもふるふると首を振り、
「いえ……コウガさんのお気持ちを考慮しなかった私に悪いところがありました。生前のコウガさんがとても辛くて理不尽な目に遭って死んでしまったというのに」
「ああ、昨日のことはもう止めにしよーぜ。不毛だしな。
んで、お前は俺にドラグニア王国に行ってほしいと、侵攻中のモンストールどもを殲滅してほしいと、その際国民と窮地に陥った戦士たちを助けてほしいと。依頼内容はそんなところか」
クィンは俺が確認で言った依頼内容を無言で肯定する。
「プレートの左下にある青いマークをタップすれば依頼を受諾したことになり、コウガさんは今からドラグニア王国へ行っていただくことになります」
言われてプレートを見ると確かに青いマークがあるな。これに触れればクィン経由でサント王国が指名してきた依頼クエストをこなさなければならなくなる。
「コウガさん……」
クィンは穢れも悪意も打算もない澄んだ目をまっすぐ俺に向けてくる。このクエストを受注してほしいと真剣に頼んできている。
「ここには国王様やサントの上層部の方々がおらず、私という一兵士しかいないので、クエストの成功報酬については私が勝手に決めるのは憚られますが……可能な限り私がコウガさんの望むことを叶えてみせます!か、必ず……!」
これも真剣な顔つきで冗談を感じさせないトーンで、何故か頬を赤くさせながら言った。
そうは言ってもねぇ……。用意できるのは金とか女とか、物的なものばかりなら断るしかねーよな。金は他のクエスト報酬だったり素材を売ったりで入るし、女も……まあ金出せばついてくるだろう多分、きび団子的なノリで。
しかし俺はそんなものでは動く気にはならない。ましてやドラグニアへ行けと来ている。やる気は全然湧かない。
(……いや、コレを約束してくれるなら……)
ふと思いついた、協力して欲しいことが。この大陸から逃げてしまい安否も分からない情報屋のコゴル。奴とこの先もしやり取りが出来なくなってしまった場合、協力者がまたゼロになってしまう。少しでも協力者を募りたいと思っている俺は、クインにこんな条件をつき出してみた。
「サント王国が持つ知識……情報を全部俺に渡すこと。国の機密ってやつかな、そういうのを全て俺に明かすこと。国王に掛け合ってくれるってなら、この依頼を引き受ける」
クィンは、しばしポカンとした顔で俺を見つめていた。俺が言っている意味があまり分かっていないみたいだ。そういえばクィンは戦闘以外では意外と頭が良くないんだったっけ…。
「以前にも言ったよな、俺の旅の目的について。それは元の世界へ帰る手段の手がかりを見つけること。俺はアレンの協力しながらもそれ目当てでずっと旅をしてきている。けど未だに明確な手がかりはゼロ。正直手詰まっている状態だ。
そこでだ。元の世界へ帰る手段の手がかりを見つけられる可能性として、お前の国…人族の大国・サント王国そのものに協力して欲しいんだ」
「王国の協力、ですか…?」
「ああ。クィン、兵士であるお前にはサント王国についてまだ知らないことがたくさんあるんじゃねーか?兵士であるお前や国民とかには知らされていない王国の機密情報ってやつだ。それこそ国王や上層部にしか知らされていない裏のコト…をな」
「わ、私にも知らされていない王国が秘密裏に保有している何かの情報、ですか…?」
「そうだ。この条件を飲んでくれるなら、依頼クエストを遂行しよう。どうだ?」
ついニヤリと笑ってしまう。今の俺はかなり悪い顔をしているかもな。
「…………私なら、どうにか…。いえ、身内関係を利用するというのは悪い気が………。ですが、大国を一つ救う為ですから…………」
クィンは何やら一人で呟いて思案し始める。少し経ってからそれを止めて、決意した面立ちで俺に答えを出す。
「その条件、承知しました!国王様には私が何とか取り持ってみます。コウガさんが探している目的の手がかり、それを見つける協力をこういう形で出来るのなら!」
「そうかそうか、受け入れてくれるか」
とりあえずは手がかりを見つけられる可能性は得られたな。確信できることは何一つも無いが、かもしれないってことがあるだろうからな。
いつの間にかクィンは俺のすぐ近くに移動していた。真剣さを帯びた目をこちらに向ける。
「その代わりコウガさん。ドラグニア王国へ共に行き、モンストールの群れから王国の人々を守って下さい!もちろん私も共に戦います、力はあまり及ばないと思いますが……」
俺の手をガシッと握ってそう言う。逃がさないと言わんばかりに強く握ってくるクィンに、俺はああと答える。
「条件を飲んでくれると言った以上、依頼任務を引き受けるさ。人を守りつつモンストールを討伐する……良いぜ。やってやろうじゃねーか、残りの群れ殲滅を」
「ありがとうございます……!!」
クィンは希望に満ちた顔で礼を言った。よほど嬉しいのか握った手を上下にブンブン振ってくる。
(依頼は受けるさ、とりあえずな。元の世界へ帰る手がかりがどこにあるか分からない以上、大国が保有している機密情報を暴くこともやってやるさ。
まあ別に…………)
早速出発するとのことで出発の支度をすると言って使っている部屋へと向かうクィンの背を見ながら、俺は…………
(今回の依頼クエストを《《必ず遂行しようとは》》、《《考えてないしな》》…!ここはとりあえずOKとだけ言っておけばいいや)
またニヤリと笑うのだった。
十五分後、しっかり装備して万全状態のクィンが再び俺のところへ来た。俺の装備は昨日と同じ軽装だ。
「昨日の傷はもう癒えたのか?」
「はい。完全に治ったわけではありませんが、体力と魔力は十分に回復してますので」
「そうか。まあ危なくなったら俺のところに来い。やられないように守るから」
「は、はい…よろしくお願いします」
少し赤くなったクィンに待ったを言って、アレンのところへ行く。彼女はまだ脚に包帯を巻いていてベッドで安静中だ。
「今回はここでお留守番してくれ。だいぶ回復してるみたいだが昨日みたいな戦いはまだ無理そうだしな」
「むぅ………分かった。ここでコウガたちの帰りを待ってる」
同行できないことを不満がっているアレンに苦笑して、行ってきますと告げて病院施設を出る。鬼族たちもこの村に滞在させる。アレンの看病もして欲しいしな。
「じゃあ行くか、ドラグニアへ」
「はい!」
そういうわけで、俺とクィンでドラグニア王国へ向かうことになった。引き続きモンストールの群れ退治といきますか。
*
???視点
あちこちに同胞の死骸があるな……まあ死骸と言ってもあるのは同胞たち体の部位が少々ってところだが。
数は……ここに向かわせた連中全てか。復活を恐れてか、脳や心臓といった重要な器官は全て消え去っているな。
だが死骸を見ていくと、その一つに妙な痕が残っていることに気づく。
「これは……噛み痕?それも、嚙み千切った肉を…食ったようにも見えるな…」
食ったというのか。俺たち以外の種族にとっては毒にしかならない同胞の肉を。奴らを食らってなお、平気でいられたというのか。過去に魔物が同胞に噛みついてその肉を食らったことがある。その結果魔物は絶命したがな。
魔物、魔族、そして人族にとって、俺のような種の肉は食えたものではないはずだが…。もし肉を捕食して生きていられているというのなら……待てよ。
そういえば以前、俺の体を嚙み千切ってその肉を食っても平気そうにしていた人族と遭遇したな…。あの地底…俺たちのホームで。
初めて遭遇した時…その人族は俺の攻撃をくらっても死ぬどころか倒れることさえなく俺から逃げ切ってみせた。
しかしその後俺のもとに自ら現れたかとおもえば、人族の領域を超えた身体能力を発揮して俺に奇襲をかけて、俺の肉を食らった。
それだけでも驚愕すべき出来事だったのに、そいつはなんと、俺の固有技能を習得したらしいのだ。
あんなことは初めてだった。非常に興味が湧いた。百数年ぶりに俺の好奇心に火がついた。まあ、結局そいつにはまた逃げられたが。
だが、こうして痕跡を残してくれた。奴は俺の存在には気付いていないようだ。
「面白い…。地底にいた同胞だけでなく、俺の指示で地上に侵攻したこいつらをも難無く殺してきたみたいだな…。感じるぞ……お前はあの時よりもさらに強くなっている!」
ここからでも分かる、あの人族が今どこにいるのかが。奴の戦気と……“俺の臭い”がよく分かる。逃げることは出来ないぞ。
何せあの時、俺の肉を食らったのだからな。
奴は今……ドラグニア王国に向かっているな。あそこにも今、同胞を数十体送り込んでいる。なるほど、お前の次の獲物はあいつらか…。
「なら今から挨拶しに行こう…。
《《俺の肉は美味かったか》》、という問いに、今度は答えてもらおうか」
そう呟いた俺は、新たな同胞どもを率いて……
道中たくさん滅ぼしてきたからもういくつ目かも分からなくなった、人族の村の跡地を発って、次の目的地……ドラグニア王国へ移動した――
皇雅による活躍で滅亡を免れたはずのドラグニア領域内の村や町のいくつかが消えて無くなってしまっていたことが世間に知らされるのは、これからドラグニア王国で起ころうとしている惨劇が終わってから数日後のことになる。
アルマー大陸侵攻編 完
次編 ドラグニア王国襲撃編(仮)
色んな人たちと再会することになりますきっと。戦闘シーンもしっかりあります。
コメント
ノベルバユーザー620210
勝手な感想だが、主人公にはもっと自分本位に生きてほしい。女兵士のおかげで覚醒後の刺々しさが薄れてきてる。個人的には女兵士含む無責任な連中に惑わされないでほしい。