世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

53話「ゾルバ村での徹底抗戦」



 目の前で俺に助けを求めていた冒険者が化け物に殺されても、俺は良心が全く痛まなかった。痛むわけがない。そいつは俺を見下して侮辱して笑いものに晒上げて、囮にしようとまでしたクズ野郎だったのだから。
 金髪の冒険者を殺した牛型のモンストールは、次に俺を殺そうと攻撃を仕掛けてきた。
 鍛錬で磨き上げた武術を駆使して返り討ちにして殺す。そして残りのモンストールどももさっさと殺した。
 町に残ったのは俺だけとなっていた。討伐しようと参戦した冒険者は全滅。他の町民も襲われて死んだ。
 俺はそのことを何とも思っていない。あんな奴らが何人死のうが俺には関係無い。俺を見下して蔑んで罵るような連中だったらなおさらだ。
 たとえ助けを求められようと応えることはない。助けたくもない奴を助けるなんてことはしない。俺はクィンみたいな正義の兵士じゃないからな。助けたい奴は俺が決める。
 さて、その助けたいと思ってる子たちのところへ行くとしようか。
 用が無くなった半壊状態の町から飛び立ち、次へ向かった。



         *

 ドラグニア王国が管轄している歓楽街ハラムーンから近い小さな村……ゾルバ村は今、戦場と化していた。
 村民たちは既に全員別の場所へ避難させており、村に残っている人間はモンストールの群れと戦うことを決めている者たちだけだ。

 「またデカいのがくるぞ!障壁展開できる奴は前へ!!」

 敵はライオン型モンストールの群れ。数は七体。見た目は全てほぼ同じであり、異なる箇所は鬣《たてがみ》の色が違うくらいだ。
 そのうちの一体が黒い「魔力光線」を放ってきて、それを数人が「魔力障壁」を展開することでどうにか防ぐ。

 「今のうちに、分散させます!!」

 黒髪の女性が地面に手をついて大地魔法を発動する。モンストールたちがいる地面が大きく変動して三つに分かれた。

 「これは助かる!よし、こちらも小隊を編成して奴らを討伐するぞ!!」
 「ありがとうな黒髪の鬼娘さん!」

 壮年の男冒険者の指示に従い、戦士たちは迅速に三手に分かれて戦闘を再開する。
 
 「クィン、私たちも行こ!」
 「ええ!相手の数は三体!いちばん多いところですが私たちでなら勝てます!!」

 アレンに同意したクィンは闘志に満ちた目でモンストールたちに剣を向けた。
 
 この村にいる戦士たちは人族だけではない。アレンの仲間である鬼族が四人参戦している。先程モンストールを分散させた黒髪の女性……ルマンドも鬼族の一人だ。

 「魔法の質また上がったねルマンド。魔力が前よりも強くなってるのが分かる」
 「ええ。私なりに鍛錬を積んできたから、敵が災害レベルだろうと戦えるわ!」

 長い黒髪をたなびかせながらルマンドは強気の笑みを見せる。彼女の強みは魔力の高さと全ての属性魔法が使えること、さらに彼女にしか存在しない特殊な技能がある。戦闘力もアレンと引けを取らないレベルだ。

 「私も、しっかり鍛えてきたからね!!」
 「右に同じー!」
 
 そう叫んでアレンたちより先に飛び出したのはピンク髪の鬼娘が二人。センとガーデルだ。二人は姉妹である。
 二人は一斉に「咆哮《ほうこう》」を放って、モンストールたちを怯ませるこに成功する。

 「「さあ!攻めるよ!!」」

 センとガーデルに続いてアレンも攻撃を始めた。三人は鬼族特有の拳闘武術を駆使してモンストールたちに順調にダメージを与えていった。センもアレンと同じく鬼族拳闘術を皆伝している実力者だ。生物の急所部分を的確に突いていき、モンストールの筋肉や骨を破壊していく。
 しかしそれくらいではGランクの怪物は倒せない。体が破壊されていながらも青い鬣のモンストールは三人に反撃してきた。ベキゴキと音を立てて折れた脚を無理矢理動かして魔力を纏った爪裂きを繰り出した。

 “炎槍《えんそう》”

 その魔爪に赤い炎の槍が介入する。魔爪を弾いてアレンたちへの攻撃を防いだ。

 「ギルス!もう、今のは対処出来たのに!」
 「一応手を貸してやったのに礼も無しかよ、相変わらずだな!」

 ガーデルに文句を言われた男の鬼は、ギルス。武術と魔法を両立させている戦士だ。彼の戦闘センスの高さはアレンが認めるくらいだ。
 残りの二体もアレンたちに牙を向けてくる。

 「はあっ!!」

 右側のモンストールにクィンが嵐属性の魔力を纏わせた剣で応戦する。彼女の魔法レベルは全て1ずつ上がっており、魔法攻撃の威力がかなり上がっている。
 嵐の刃が加わった剣撃でモンストールを激しく攻め立てていく。次いで水属性の刃を発生させてさらに勢いを増していく。

 (竜人族との鍛錬を経たことで、私が持つ全ての属性を剣に纏わせることが出来ました!このまま押し切る!)

 嵐と水で激しく攻めるクィンだが、それでもGランクのモンストールを狩るまでには至らなかった。今度はモンストールが灰色の鬣から、魔力でつくられたエネルギーをバリバリと発生させて反撃する。

 「く……!なんて濃密な魔力!触れてなくても肌が焼けるようです…!」

 そこからモンストールの猛攻が始まる。次々と繰り出される魔法攻撃を、クィンは「魔法剣」でどうにかいなしていく。

 (メラルさんや他の強い竜戦士たちとの模擬戦がなければ、私は今ので倒されていたかもしれませんね…)

 猛攻が止んだところでクィンは再び前に出る。剣にありったけの魔法をこめて、モンストールの胴体に剣閃を放った。

 “嵐閃《らんせん》”

 モンストールの体長程のサイズの斬撃を飛ばす。対するモンストールは両の前足に超濃密の黒い魔力を纏わせて巨大な手を具現化させて、それを以てクィンの斬撃を止めた。
 
 「ぐ……まだまだ!!」

 “流水閃《りゅうすいせん》” “火焔閃《ほむらせん》”

 クィンは折れることなく水の斬撃、さらに炎の斬撃を飛ばしていく。しかしそれらの斬撃もモンストールの巨大な魔手によって破壊される。

 「ならば………直接斬り伏せてみせます!!」

 クィンはさらに魔力を高めて剣といちばん相性の良い属性…嵐魔法を纏わせて、覚悟を決めた目を宿して駆け出す。
 両者がぶつかる寸前―――
 
 「ガルゥウア!?」

 モンストールが突然動きを止めた。

 (……!?止まった?)
 「そのまま行って、クィンさん!」
 「………!“風斬《カザキリ》”」

 一瞬戸惑ったクィンだったが、後ろからの声のままに剣を振るった。風を真っ二つに切断するが如く、灰色鬣のライオン型モンストールの胴体を斬った。

 「………まだ、討伐出来ていませんか……っ」

 胴体から夥しい血を流しているものの、モンストールはまだ倒れてはいなかった。

 「クィンさん下がって。次は私が出る!」
 「ルマンドさん…………その姿は!?」

 クィンの後ろから、形態が変わったルマンドが飛び出してそのまま駆け出す。彼女の全身からは白色の魔力が渦巻いていた。

 「あの姿はアレンさんと同じ……!それにあんな色の魔力は見たことがありません…いったい何の魔法を?」

 クィンの疑問を置き去りに、ルマンドは両手を突き出して「その力」を発揮した。

 “神通力《じんつうりき》”

 瞬間―――モンストールがいる空間が、捻じ曲がった。

 「な………!?」

 モンストールの全身が捻じ切られていく。足が千切れて尻尾が消えて、その体が宙に打ち上げられて圧縮されていく。

 「弾けて」

 そして内部がボコボコと膨れていき、大爆発した。灰色鬣のライオン型モンストールは討伐された。

 「ふぅ、どうにか倒されてくれた。
 ありがとうクィンさん、あなたのお陰で十分力を溜められたわ」

 モンストールを完全に討伐したことを確認したルマンドは魔力を消失させて姿も元に戻した。

 「お見事でしたルマンドさん。ところで、今のは重力魔法だったのですか?それにさっき姿も変わって…」
 
 クィンはモンストールを討伐してくれたことに礼を言いつつ、抑えきれなかった好奇心のままに質問をする。
 
 「まずは力について答えましょうか。私のあの力は魔法じゃないわ。“神通力”って言って、私のような“神鬼《かみき》種”の鬼にしか発現されない特殊な技能なの。けどこの力を発動するには、かなり集中してからじゃないとダメなの。今の私はまだまだ時間がかかるから、クィンさんみたいな強い味方がいないとロクに発動出来ないわ」

 ちょっと弱った素振りをしながらルマンドは解説を続ける。

 「姿については、あなたも知っている魔族特有の固有技能“限定進化”のこと。最近発現したの」
 「そんな特殊な力が鬼族のごく一部の種にあったのですね。それにアレンさんだけじゃなくあなたも“限定進化”が出来るようになっていたのですね」

 クィンはルマンドを尊敬する目で見て嬉しそうに話した。ルマンドは小さく笑いながらいいえと答える。

 「違うわクィンさん。“限定進化”が出来るのは私とアレンだけじゃないわ」

 スッと指を差すルマンド。その方向を見ると四人の鬼族が、既に残り一体となったライオン型モンストールと激しく戦っている。

 「あれはっ!」

 クィンが驚愕した理由、それは―――

 「ここにいる鬼族は全員、“限定進化”出来るんだよ」

 
 「ルマンドとクィンも一体討伐したそうね!」
 「流石!ここからでも伝わったよ、ルマンドの“神通力”の凄さが!」
 「なら俺たちも一気に片を付けようぜ!進化したこの状態で!!」

 センとガーデル、そしてギルスの三人が同時に前へ出て、青い鬣のライオン型モンストールと相対する。

 「うん、一気に倒そう!みんなで!!」

 アレンは三人の後ろ姿を見て小さく笑い、彼女も駆けて行った。

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