世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

51話「新技」



 竜人戦士たちに見送られながら国を出てしばらく三人で移動した後、俺とアレン・クィン・他鬼戦士たちとで分かれてそれぞれ行くべきところへ向かった。
 俺が回る村や町の順番は何でもいいけど、ゾルバ村は後半へ回した方がいいな。数日前よりさらに強くなったアレンやクィン、鬼族たちがそこへ向かってるからな。とはいえ、Gランクが十体もいるらしい群れと戦うのはさすがにキツいだろうしな。他の群れをさっさと片づけてから俺もゾルバ村へ行こう。

 頭の中で色々考えているうちに、名前の知らない町の近くに着いた。この町にもうすぐモンストールの群れが来る、そう予測したから最初にここに来た次第だ。
 前から気づいていたことなんだが、俺にはモンストールの気配が感知できるようだ。魔族のように戦気を感知するのは出来ない代わりに、ああいった化け物どもは何故か離れたところからでも感知できるようになっている。
 原因は分からない。長い間瘴気まみれの地底でモンストールどもと戦って喰らってきたからだとか理由は色々ありそうだが、不明だ。
 いつかはこのゾンビ化した俺の謎についても解き明かしてみたいな。未だに今の自分のことをよく分かっていない状態だからな……。
 と、色々考えていると、町からたくさんの人間が外へ出てくるではないか。
 どいつもこいつも必要最低限の荷物を持って港へ向かおうとしている。コゴルが流した情報を聞いたばかりのようだな。誰もがモンストールから逃れようと海へ出ようとしている。
 町へ入ってみると案の定、人は全く見かけなかった。町を軽く一回りしてみたところ、冒険者らしき奴が数名いて、兵士は全くおらず、逃げることを諦めたのか家にこもっている奴もちらほらいた。
 
 「おい、あんたも冒険者なのか!?」

 町をうろついていると俺に声をかける男が現れる。振り向くとそこには声をかけたらしき男の冒険者とその後ろに数十人の冒険者らしき奴らがいた。とりあえずそうだと答えると、男は俺の装備を見るとがっかりした様子を見せた。

 「その程度の装備ではGランクとはまともに戦えないだろう。すぐに殺されるぞ。悪いことは言わない、あんたもここから逃げた方がいい。冒険者だからって逃げてはいけないってことはない。力が無い者がここに残ったって意味なんかない」

 俺に忠言を送るその冒険者には悪気がないのは分かっている。けど相変わらず俺を見た目で弱者扱いしてくることに対して若干イラっとした。

 「余計なお世話だ。俺は今からモンストールの群れを殲滅させる。テメーら俺の攻撃の余波に巻き込まれないよう気をつけろよ」
 「………忠告はしたからな」

 男の冒険者は一瞬苦いした顔をしたのちに俺から離れて行った。他の冒険者たちも俺を変な奴を見る目を向けて後に続いた。
 死んでいるから冒険者としてのオーラも人として当たり前の生気もないせいで俺が力の無い人間だと思われるのは相変わらずか。ったく、いつも下に見られるのは気分が悪いぜ。
 
 「っ!そろそろ来るか」

 町へ向かってくる複数の気配がさらに強まったのを感じる。モンストールどもがいよいよこの町に侵攻してくる。
 気配が強い方へ走って向かう。途中でさっきの冒険者どもを軽く追い抜いていくと後ろから驚きの声が聞こえた。
 そして町の住宅街らしき地帯に着くと、どう猛な猛獣の叫び声が聞こえた。
 
 「もう町に入ってたか」

 俺の前には、全長20mサイズのモンストールが十数体いる。狼の面をした四足型の奴、豚みたいな面をした二足型の奴、その他色々猛獣を巨大化させて不細工にさせたような化け物がそこいらにいた。少し前も地底でこんな化け物どもと遭遇したので、何も思うことはない。

 「よし……じゃあ、テメーらで鍛錬の成果を確認するとしよう!」

 俺が声を出すとモンストールどもが一斉に俺を見て、獣の咆哮を上げた。俺を敵と見なして攻撃するつもりらしい。
 一番手に豚型のモンストールが、ドスドスと音を立てて進撃してくる。岩石のような拳に魔力をこめて、俺目掛けて放ってくる。

 (《《あれ》》を試すには絶好の機会だ!)

 まずは迫りくる豚型モンストールの拳を迎え撃つ方の腕……左腕と、反撃に使う右腕を集中的に「硬化」させる。
 次……豚型モンストールの拳が左腕にぶつかる瞬間、全身の筋肉と骨のフル稼働を始める。攻撃された左腕を起点に、左肩→胴体→右肩→右腕の順に、受けた衝撃エネルギーを体内でパスしていく。
 そして右腕から最後……右拳へ莫大なエネルギーをパスして、豚型モンストールの力も含んだ渾身の「カウンターパンチ」を、奴に思い切りぶつけた!

 ―――ズパァァァアアアン!!

 もの凄い爆音が鳴り響く。俺の拳をモロにくらった豚型モンストールは、悲鳴を上げることなく風船が割れるようにパァンと血肉をまき散らして破裂した。
 エルザレスの屋敷で数日間鍛錬を積んだことで、俺は新しい技を身につけた。
 そのうちの一つが、「カウンター技」だ。
 この技は攻撃を受け止めた部位で返すのではなく、受け止めた部分を起点にして右から左へ、左から右へ、右腕から左足へ、左脚から右拳へと……受け止めた相手の攻撃を、全身を使って体内でパスして加速させて、相手が放った攻撃以上の威力にして相手にぶつけて返す、難易度が高いカウンター攻撃だ。
 敵の攻撃を数倍、数十倍にして自身の力も上乗せして放つから威力は絶大だ。
 相手が強いほどこの威力は強くなる。途中失敗すれば体がバラバラに吹き飛ぶがな。

 右手にべっとりついた血を払って次の標的を探す。今度は俺から動こう。
 血の臭いに反応したのか、狼型モンストールがグルルと唸りを立てて前に出てきた。なら次はこいつで新技のテストをしてやろう。
 闇色の魔力がこめられた牙をむき出しにして突進する狼型モンストールに対して俺もまっすぐ走りだす。
 攻撃の間合いに入ったところで走った勢いをそのままに技を繰り出す。
 右足に体重を乗せて踏み込んで、腰→体幹→左肩→左肘→拳へと、溜めた力をパスしていきさらに加速させて、体を旋回させる。
 左拳を「硬化」してさらに左肘に加速装置を生やして稼働させる。音速と化した左ストレートが、迫りくる狼の口めがけて放たれる!

 ズドォォォオオン!!

 ダイナマイトをいくつも爆破させたような音を立てて、向かってきた狼型モンストールの頭部を跡形もなく吹き飛ばした。

 「『絶拳《ぜつけん》』……とでも名付けようか、今の」

 左拳を見つめながらぽつりと新技の名前を呟く。さっきのカウンター技も、今の攻撃も、無事成功した。
 
 体内に力を加速させながらパスしていって最後は一つにまとめて一気に放つ。この一連の流れは攻守ともに使える技だ。
 これを『連繋稼働《リレーアクセル》』と名付ける。俺が独自に創り出したオリジナル武術だ。
 ただこの技を使う際の、力の加速パスというのがかなり難しく、失敗すれば暴発して自分の体が壊れるというリスクがある。一昨日までは何度も体がいかれたっけな。
 ゾンビの体を持つ俺だからこそ躊躇いなく使える技だ。普通の人間がやれば下手すりゃ手足が吹き飛ぶ。
 
 「次は、魔法で殺してみるか」

 まだ十体近く残っているモンストールどもを睨んで、手を向けて魔力をこめる。

 “雷電紅炎《サンダー・インフェルノ》”

 左手から黄色の雷を、右手から真っ赤な炎を発生させて、それらを混ぜ合わせて巨大な雷と炎の複合魔法として放った。
 4~5体ものモンストールが雷炎に飲み込まれて断末魔の悲鳴をあげながらその体を焼き焦がしていった。これで大体4割くらいは殺したか。 
 
 “光砲《メギド》”

 引き続き魔法でモンストールを駆逐していく。光と炎熱の複合魔法とした砲撃を放つ。もの凄い爆撃音を立ててモンストールを一体消し飛ばした。
 その隙にいつの間にか俺の後ろへ回り込んでいた豹型のモンストールが、どう猛に吼えながら暗黒属性を纏った前足で殴りにきた。

 「く……っ!いつの間に回り込まれて!?…………なんてね」

 狼狽した顔から余裕に満ちた顔に切り替えて、同時に来ると分かっていた方向に左腕を伸ばして、豹の前足を止めてやった。
 「未来予知」で前もってこのモンストールが背後から襲ってくると予知していたのだ。

 「ガアアアッ!?」
 「無駄だ。俺の方が力が上だし障壁も纏っているからな。
 そら、プレゼントだっ」

 前足を受け止めたまま脳のリミッターを200%程解除して、空いている右腕を旋回して裏拳をぶつけた。ぶちゅりと肉を潰す音とバキッと骨を砕く音を立てて豹型モンストールの顔面を砕いて怯ませる。
 その隙をついて赤い魔力光線を間近で撃って消し飛ばした。

 「テメーら程度の敵なら容易に行動を予知できるみたいだな。便利な技能だ」

 エーレを喰らって得た固有技能「未来予知」。相手が完全に格下なら全て見通すことができる。まあそんなことすれば戦いが一気に面白くなくなるから、本当にガチで戦う時だけ使うとするか。

 「残り半分ちょい。来いよ、まとめて殺してやる」

 挑発するように魔力を全身から迸らせてやるとそれに反応した残りのモンストールどもが、一斉に魔力光線や魔法を放ってきた。
 それら全てを「魔力障壁」で防いで、地面を蹴ってモンストールどもへ接近する。ここからは武術で攻めよう。
 目の前には狐型のモンストールが大口を開けている。俺を視認するやいなや炎熱魔法を放ってくる。

 “破空打《はくうだ》”

 両手に嵐属性の魔力を纏わせ、その場で思い切り掌打を繰り出して空気を殴りつけることで衝撃波を発生させる。その衝撃波はモンストールと炎を全てバラバラにして吹き飛ばした。
 属性魔力を纏った状態で繰り出す武術、エルザレスやカブリアスから習った応用技だ。強力な分、習得も困難なものだった。「武芸百般」が無ければ今も会得出来ていなかったかもしれない。
 狐型モンストールを消し飛ばすと次に大猿型モンストールが三体一斉に攻撃してきた。三方から襲いかかってくる爪や拳、蹴りを全て容易に躱してみせる。

 「蛇のようにスルスルと動き、“複眼”でテメーらの動きをしっかり読み取る。テメーら程度の攻撃なんか当たらねーよ」

 これもエルザレスたちから習った武術……独特な体捌きだ。この技術はあいつらには劣るものの、「複眼」という固有技能で不足している技術で補えている。複数の攻撃だろうと全て避けることができる。

 「そらぁぁぁあああ!!」

 両腕両脚に鎧を武装させてさらに「硬化」も纏わせた状態で、三体の大猿どもを洗練された動きで殴って蹴る。
 マッハ突きで腹に穴を空けて、大振りの足刀蹴りで首を刎ねて、拳の連打で全身をミンチにして潰した。

 「次!属性魔力を纏った状態でぶん殴って蹴るぜ――」

 そして残りのモンストールどもも、鍛錬で得た武術を使って討伐しまくったのだった。



 「こ、これは……!?」
 「嘘だろ!?全部……死んでるっ」

 群れの殲滅が終わってから一分程経ったところで、さっきの冒険者どもがようやく到着した。

 「遅かったなぁ。悪いけどテメーらの討伐する分はもう残ってねーぞ?全部俺が殺したからな」

 俺の周りには素手で殺したモンストールどもの死骸や魔法で崩壊した家の残骸で溢れかえっていた。地面も焦土と化していた。

 「Gランクのモンストールを全て……この惨状を、あんた一人で全て!?」

 俺に逃げろと命令した男の冒険者は、顔を引きつらせながら俺とモンストールどもの死骸と滅茶苦茶になった住宅街を見回した。他の冒険者どもも唖然とした様子で同様に見ていた。

 「あんたはいったい、何者なんだ?名前は……?」
 
 男の冒険者は恐る恐る俺のことを尋ねてきた。

 「失礼な奴だな。まずは自分から名乗るのが礼儀ってもんだろうが。
 と言いたいところだけど別にテメーらのことなんかどうでもいいから名乗らなくていいけど」

 俺は奴の問いかけに答える気はなく、用も無くなったこの町から出ようとしたその時、同行していた冒険者があっと俺を凝視しながら叫んだ。

 「お、思い出した!最近新しいSランク冒険者が現れたって噂の、オウガって男だ!
 新聞で顔写真も載っていた、間違いない!」
 「な……!?確か、最低ランクからいきなりAランクに昇格したイレギュラーの!?サント王国出身の冒険者だと聞いていたが何故この町に!?」 
 「若い……少年じゃないか。彼が本当にあのオウガ!?」

 おいおい、顔写真だと!?いつの間にそんなものが新聞に掲載されてんだ?勝手に人の顔を世間に晒してんじゃねーよ冒険者ギルド!訴えるぞコラ。
 って言っても、この世界に元の世界の常識が当てはまることないのかもな……。
 
 「まあどうでもいいや。とにかくこの町に侵攻してきたモンストールの群れは殲滅しておいたから。後はご自由に。俺は次へ行くから」
 「次ってまさか、他の各地で発生しているGランクの群れを討伐するつもりか!?」
 「まあな。ああそうだ、一つアドバイスだ。
 人を見た目で判断するもんじゃねーぞ、マジで」

 そう言い捨てると、重力魔法で体を軽くして空を飛んで、嵐魔法でもの凄い速度で次の群れへ向かうのだった。



 「「「…………」」」

 冒険者たちは直前まで皇雅がいた空を呆然と見ることしか出来なかった。
 ただ、皇雅の忠告を受けた男の冒険者だけは心の中で、「肝に銘じよう」と呟いていたのだった。


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