世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

50話「“助け”はしない」


 「先程サント王国から聞いたことなのですが…!」

 クィンはまだ若干取り乱した様子で俺に何か伝えようとしている。彼女が言う王国とはサント王国のことだろう。それに彼女が何を伝えようとしているのかは大体予想がつく。

 「この大陸各地に、Gランクのモンストールが大量に出現したそうです!それも群れを成しているとか。ドラグニア王国が今朝にサントを含む各大国にそのことを報告したそうです。ドラグニアは既に迎撃の準備を――」

 やっぱりコゴルが言ったことと同じ内容だった。とりあえず焦っているクィンを落ち着かせて、俺もそのことは知っていることを情報屋のことも挙げて説明する。

 「そうですか、いつの間にあの有名な情報屋と繋がりが…。いえそんなことよりも、このままだといずれこの国にも…!」
 「だろうな。大陸各地に出現したって話だから、ここにもモンストールどもが侵攻してくるんだろうな」

 竜人族の国サラマンドラ。俺たちは今ここに滞在しているわけだが、数時間後にはあの化け物どもがこの国をも襲ってくるだろうな。

 「まずは、アレンやエルザレスたちにも話すとしようか」

 俺とクィンは屋敷を回って全員を広間に集めて、突然発生したモンストールの群れのことを話した。
 全員深刻そうな顔をして俺たちの話を聞いた。

 「群れが、ここにも……!」

 アレンはギリ…と歯を食いしばって唸る。その目には憎悪の感情が読み取られる。かつて自分が住んでいた鬼族の里にもモンストールの群れが襲ってきたことを思い出しているのだろう。奴らがまた群れを成して侵略しにくることに憤りを感じているようだ。

 「五年前にもモンストールとやらが大勢この国に侵攻してきたことがあった。その時はSランクも混ざっていたな。今回はGランク程度しかいないとはいえ、また群れで来るとなると、こちらも本気で対処しないとならないな」

 エルザレスは腕を組んだ格好でこの後の対応について思案している。

 「コウガさん、先程教えていただいたドラグニア王国の戦力配置についてですが……本当に王国以外には救世団の戦力は割かずで、兵士団も国内からは出さないと決めたの、ですよね?」

 クィンも深刻な面持ちで俺に話しかけてくる。

 「情報屋が言うにはそうらしいな。あの国の今の戦力は、自国を守るのに精一杯って程度のレベルで、外の小さな村や町なんかに構ってられないんだとさ。あのクズ……あの国王は王国以外は全て切り捨てる気でいるそうだ」
 「そんな……小さな村や町だって、王国の領域にある以上は、彼らも守るべき民だというのに……!」

 クィンは、小さきものたちを切り捨てようとしている国王と王国全体の方針にご立腹だ。彼女らしい憤り方だ。

 「王国外に今存在する戦力は、村や町に駐屯している兵士どもが少々と、冒険者くらいだってよ。今ギルドが緊急クエストと題してそいつらにモンストールの群れを討伐させようとしているそうだが、絶望的だろうな。すぐに蹂躙されて全滅するのは目に見えている」

 これまで見てきた冒険者みたいな連中しかいないのだとしたらなおさら全滅は確定だ。あんなクズどもの実力なんて知れてるし、死んだ方が良いしな。

 「冒険者ギルド……クエスト……」

 クィンはしばらく黙ったまま何か考えた後、俺に真剣な顔を向けてきた。

 「コウガさん……私に、力を貸して下さい!」
 「クィン?」

 クィンは俺に近づいて必死に訴えかけてくる。

 「ここはサント王国の領域ではない地。ここには私が守るべきサントの民は一人もいない。
 けどそんなことは些細なこと!他国の民だろうと、私は人々を守りたい、死なせたくない!王国に守られないというのであれば、私がこの地の村や町の人々を助けてあげたい!」

 拳をギュッと握りしめながら必死に言い募る。その言葉を俺も、アレンも黙って聞く。

 「ですが…私一人の力ではGランクのモンストール一体だって苦戦する程度。サントの兵士団に援軍要請を出したとしても、今からだとここまで来るのに一日近くはかかってしまう……。コウガさんやアレンさんしか、頼れる人がいないのです…!」

 そう言ってクィンは俺に頭を下げて懇願した。
 力を貸して欲しいと。
 俺の返答は……


 「いいや、俺は村や町の連中を助けたいとは思わない。そいつらを助けに行こうなんてことはしない」

 軽い調子でそう言った。

 「コウガさん……!?」
 「コウガ……」

 断られると思ってなかったのか、クィンは絶望した表情をする。アレンもどこか寂しげな顔を浮かべる。
 正直この世界の人間どもが理不尽に殺されても、どうでもいいと思っている。心底興味が無いのだ。
 今の俺は元の世界へ帰る方法を探している旅に出ているだけで、この世界を救おうとは微塵も思っていない。そんな使命はあの時……地底で死んだ時からとっくに捨てている。
 俺は多くの誰かも知らない奴らの為に何かをしようとは思わない。どうでもいい奴らなんか助けたいなどと全く思わない。勝手に死ねば良いとさえ考えている。
 この世界の奴らは俺を勝手に呼び出したくせに、力が無いと知るやいなや雑にぞんざいに扱って見下して蔑んで、しまいには見捨てて死なせやがったんだからな。
 なら俺がテメーらのこと見捨てて……見殺しにしても何の文句もねーはずだろ?テメーらはあの時俺を救う気なんて全くなかったんだからな!
 だから俺はこの世界の人間なんか助けたりはしない。そんなことの為だけに敵と戦うことなんかしたくない。
 でも……「助け」はしないってだけで、「モンストールの群れを討伐しない」ってことにはならない。

 「ただ……せっかくこの数日間鍛えたことだしその成果として、現れたモンストールの群れと戦うのは有りだよなー」

 相変わらず軽い調子でみんなに聞こえる音量で独り言を口に出す。アレンもクィンもぽかんとした表情で俺を見る。

 「俺は…村や町の民を助けには行かねーけど、モンストールの群れと戦うだけなら、手を貸すぜ」
 
 ビシッとクィンに指をつきつけてそう言い切ってやる。しかしクィンたちは俺を見つめたまま黙ったままで、何も言おうとはしなかった。あれ……?何だこのスベった空気は?変なこと言ったかな…?
 
 「村や町の人たちを助けたりはしないけど、戦うことだけなら手を貸すってこと?」
 「あ、ああその通りだ。俺はただ戦うだけ。人の救助には一切手を貸さないって言ったんだ俺は」

 アレンの問いかけに俺はしっかり答えて改めて意思表示をした。ようやく理解できた様子のクィンは、安堵の笑みを浮かべてから不満そうな顔を向けてきた。

 「手を貸すと、最初からそう言ってくれれば良かったじゃないですか!断られたのだと本気で思ったんですから…!」
 「コウガ……分かりにくかった」

 アレンもクスクスと笑う。

 「ですが……コウガさんはその…民たちに危機が降りかかっても本当に助けようとはしないのですか?」

 不満顔だったクィンは再び深刻さを帯びた表情に変えて俺に問いかけてくる。

 「ああ。人助けしたいならクィンや冒険者たちだけですればいい。俺はそういうことには一切関与しないから」
 「……どうして、助けようとは思わないのですか?」
 「どうして?そりゃお前、誰かも知らない奴なんかを積極的に助けようとなんて、俺は思わないからだけど?」
 「そう、ですか……。私は、力ある者は力無き人々を助ける為にその力を使うべきだと考えています。コウガさんもそうあって欲しいと思ってるのですが…」
 「悪いけどクィンの考えには乗れないな。俺はそんな高尚な人間じゃねぇし、なろうとも思ってねーしな。まあアレンやお前らといった、仲間と認めている奴らなら助けようとはするけど」

 クィンは寂しげな顔をして少し俯いた。正義感溢れる兵士じゃない俺はクィンみたいに人助けを当たり前にすることはない。
 
 「それに俺はそもそも村や町には行かねーから。モンストールどものところへ直接行って、奴らを殲滅するつもりだ。転々と大陸中を移動して発生した群れを殲滅する……って感じで行こうと思う。さすがに全部は回れないと思うから、残った群れを、クィンたちが迎撃して殲滅する。
 そんな感じでどうだ?」

 俺のこれからの行動要項を簡単にまとめて伝える。

 「遊撃隊として回るってことですか……。コウガさんが取りこぼしたモンストールの群れを、私やアレンさん、あと冒険者たちとで相手をすると」
 「ああ。それにもし群れがクィンたちのところに来ても、粘ってくれさせすれば俺が来てそいつらもぶっ潰す。それで良いんじゃねーか?」
 「………分かりました。手を貸してくれる動機には納得がいきませんが、それでもコウガさんが戦ってくれるのは本当にありがたいです。よろしくお願いします!」
 
 全部を納得したわけではないようだが、クィンは俺の提案を受け入れて、よろしくの意を込めたお辞儀をして頭を下げる。

 「アレン、そういうわけなんだけど……アレンも参加してくれるか?」
 「もちろん。私も戦いたい。実戦を経てこそさらに強くなれるから。それにモンストールの侵攻でまた多くの人が死ぬのは、嫌だから」

 アレンはやる気十分といった様子で引き受けてくれた。ひとまず旅のメンバーの方針は決まったな。

 「そういうことなら、私たちも戦いに出るわ!」

 突然横から声がかかる。鬼族のセンだ。

 「セン!?それに皆も…!」
 「ロンは脚が利かないから戦いには行けないけど、ここにいる私と妹のガーデル、ギルドとルマンド。私たちもアレンと戦うわ!」

 意外なことに鬼族の四人も俺たちに同行すると言い出した。ロン以外の鬼たちのステータスを「鑑定」してみる。
 全員レベルは50~60ってところ。能力値もAランクの敵としっかり戦えるくらいはある。そういえば彼女たちも数日間竜人族たちと鍛錬を積んでいたな。その成果が出てるのかも。

 「足は引っ張らないって誓うわ。私たちもモンストールたちをこの世界から消し去りたいって考えてる。里を滅ぼした仇だから」
 「セン、みんな…」

 アレンはしばしセンを見つめてから俺に振り返り、こくりと頷く。それだけでアレンの意思は伝わった。

 「分かった。アレンと一緒に戦ってくれ」
 「心強いです!」

 クィンも嬉しそうに頷いた。これで改めてメンバーは決まったな。
 
 「そういうわけで、俺たちはこの国を出ることにする。短い間だったけど充実した日々を送れた。俺自身も色々学ばせてもらえたしな」
 「そうか。俺も久々にお前のような次元が違うレベルの者と手合わせができて楽しかったぞ。モンストールの群れとの戦い、しっかりな」
 「ああ。この国にも敵の群れが侵攻してくるだろうから、お前らも健闘を祈る」
 「この国には今、全ての序列持ち戦士がいる。全員でかかればたかがGランクの群れなど何の脅威にもならん。お前たちがここを出ることで俺たち竜人族の戦いを見せられないのが残念だが」

 エルザレスはサバサバした態度で余裕そうに言った。
 
 「じゃあ……もう行こうか?俺はこれから大陸各地を回りに行く。クィン、どの村あるいは町へ移動するんだ?」
 「そうですね……では、兵士団の駐屯地でもあるゾルバ村にしましょうか。あの村なら現地の兵士たちとすぐ協力をつけられそうなので」
 「分かった。じゃあ俺はその村の方角へ向かっている群れを最後に残して、それ以外の群れを先に殲滅するとしよう」

 それぞれの行き先を決めた俺たちは、準備をしたのちにサラマンドラ王国を出た。
 アレンたちはロンに行ってきますの挨拶を交わす。エルザレスやドリュウと別れの握手を交わす。クィンはメラルとかいった戦士と何か話していた。

 「よし、モンストールの群れを殲滅しに行きますか!」







*本編50話達成!ここからさらに「ゾンビ復讐」とは異なるお話になってきます。

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