世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

43話「生き残りたちの軌跡」



「ピンク色の長い髪の子がセン。私のお姉ちゃんのような存在。
 黒髪でいちばん背が高い男の子がロン。里では足が速いことで有名だった。
 銀髪の男の子がギルス。いちばん年下。
 センと同じピンク髪でその長さはちょっと短めの女の子がガーデル。センの妹。
 黒髪の娘がルマンド。魔力が凄く高くて魔法の扱いも鬼族の中ではトップクラス」

 感動の再会を果たしてからしばらく経ち、落ち着きを取り戻したアレンは俺とクィンに五人の鬼族たちの紹介をしてくれた。彼らは全員アレンと同じ年齢層のようで、15~18才という俺とほぼ同年代だ。
 その間、五人とも俺のことを見つめたり臭いを嗅いでみたりとやたら興味を示してくる。洞窟で出会った時のアレンと同じ反応だ。

 「君……生きているの?死んでるの?こんな生物、初めて見るなぁ……え、人族?人族ってこんな変な色してるんだー」

 ガーデルと呼ばれている鬼娘が俺を見てそう言った。やっぱり鬼にはかすかな死臭を嗅ぎ分けられるみたいだ。

 「こら、ガーデル。失礼でしょ。ごめんなさい。君は、アレンをここまで連れてくれて、それ以前に、ここまで守ってくれた人なのよね。
 ありがとう。アレンとこうしてまた会えるのも、君の存在があってのことだわ」

 センと呼ばれた鬼娘がガーデルを窘めて、俺にアレンのことで礼を言う。残りの鬼も次々に礼を言った。

 「どういたしまして。いちおうお前らの疑問に答えようか。俺は死んで、ゾンビとして再び人間と同じ生活が出来るようになった、いわゆる歩く死体ってわけだ。身体は清潔にしてるつもりだから、そんなに臭わないとは思うのだが…。臭ってたらまぁ、すまん」

 ちらとアレンを見る。意図を察してくれたのか、首を横に振る。悪臭はしないようだ。
 五人とも、へーってな感じで納得した。

 「さて、よければ彼らがどういった経緯でここに来たのかを話す機会でももうけようか?」

 一区切りついたところで、エルザレスがそう切り出した。アレンはお願いと返事した。そしてセンが代表して、鬼族が襲われて散り散りになったあの日のことを話す。


 鬼族の里が滅んだのは、今から約2年前のこと。里に突然モンストールどもが侵略しにきて、そいつらに全て奪われ滅ぼされた...。その中に、異質で次元が違う化け物のモンストールがいて、主にそいつにたくさん仲間が殺されたそうだ。おそらく災害レベルの中でかなり強い個体の奴だったのだろう。
 大人が半分以上殺されるという凄惨な出来事だったそうだ。彼らの中には今の生き残りの鬼たちの親もいたそうだ。
 里が滅び、鬼たちは散り散りになってそこから逃げた。アレンとセンたちは一緒に行動していたが、途中モンストールや魔物の襲撃で、アレン一人とセンたちとではぐれてしまった。そこからは、アレンも知らない話になる。
 彼らもモンストール、魔物、さらには他の魔族に攻撃された。その魔族とは、族長がさっき言っていた魔族……獣人族だったそうだ。そいつらによってさらに仲間が犠牲になったそうだ。
 彼らは敵からの攻撃から逃れるため、海に出た。ルマンドの魔法で海を渡る乗り物をつくりあげ、それで逃れたようだ。
 因みに、アレンは逆の方向、サント王国方面へ逃げてきたようだ。
 命懸けの航海を経て、アルマー大陸に上陸。行く当てもなくさまよって、気付くと、ここサラマンドラに着いた。彼らを発見した族長の家族がここまで運び、そのまま保護することになり、今に至る。 
 
 「センたちを今まで保護してくれて、ありがとう」

 センが語り終わった後、アレンが族長に感謝の礼を述べる。

 「鬼族とは敵対していたが、良いライバルでもあった。そんなお前らが滅んでしまっては、モンストールを殲滅した後、寂しくなるからな。まぁ、奇縁というやつだ。とにかく、獣人族中心の魔族や魔物、そしてモンストールからは守っててやるよ」

 エルザレスはサバサバとそう答える。因みにこのオッサン、アレンたちの再会シーンを見てちょっと涙ぐんでいた。人情深い竜人だ。

 「私は、いつか世界のどこかにいる生き残りの仲間たちと再会して、みんなと協力して鬼族を復興させる。それまではみんなのこと、お願いする」

 アレンは前から言っていたことを族長に強く宣言した。

 「アレン...。あなたそんな立派なことを考えて...」

 センが感激していた。残りもアレンの言葉に賛同した。

 「一族を復興する、かぁ。金角鬼のお前ならできるやもしれんな。その時を楽しみにしているぞ」

 族長がニヤリと牙をのぞかせて好戦的に笑う。

 「お母さんとお父さんが言ってた。あなたたちは本当に強かったって。私にも分かる。戦闘態勢に入ってもないのに覇気が凄い。戦気も強く感じる」

 アレンはエルザレスを見上げて敬意を感じさせながら彼を評価する。

 「お前を見てるとかつて何度も戦ったあの女……お前の母を思い出す。
 どうだ?少し力試しでもしてみるか?」

 ギラリと歯をのぞかせてエルザレスは挑発的に笑う。彼のオーラにあてられたのか、アレンはやや気圧されてしまう。センたちも同様の反応を見せた。
 が、エルザレスはアレンたちを一笑してから、突如俺の方を見る。

 「………と言ってみたものの、今の俺は鬼族よりも…………
 お前に興味がある、カイダコウガ」

 俺にギラギラした視線を寄越して今にも襲ってきそうな雰囲気を出してくる。ただならぬ様子を察したその場にいた全員がエルザレスと俺を凝視する。

 「おいおい、随分と好戦的な態度出してんじゃねーか。どういうつもりだ?」
 「鈍いふりでもしてるのか?俺は……お前と戦ってみたいと言ってるんだ」

 ざわり…と一同が再び反応する。

 「ドリュウ。お前は“限定進化”を発動していなかったとはいえ、この男に圧倒されたんだよな?」
 「はい。勝負は一瞬で着きました。カイダの魔法はこれまで戦ってきた者たちとは格が違い過ぎた。実戦だったら死んでいた」
 
 実戦でも殺すまではやらないと思うけど。明確な悪意と敵意を向けない限りは。

 「序列持ちであるお前をそこまで言わせる人族…益々興味が湧いた。カイダよ、ここは一丁力試しといかねーか?
 最近は歯ごたえの無いモンストールとの戦いばかりで退屈していたんだ。少なくともお前はここにいる戦士たちと同等もしくはそれ以上の実力を持っているはずだ」

 なんつー戦闘民族的思考を持った族長だ。そんなに刺激的な戦いがしたいなら地底にでも行けばいいのに。そしたらほぼ毎日災害レベルの敵と戦えるぞ。まあ瘴気という猛毒がある以上行くのは無理か。
 さて、要は喧嘩を売られたってわけだが…。俺もここ最近、地上に戻ってからはあまり本気を出しての戦いってのはやってねーしな。刺激が足りないってのが本音だ。
 目の前にいる竜人族の長エルザレス。「鑑定」してみたところ、もの凄いステータスが出てきた。


エルザレス 150才 竜人族(蛇種) レベル130
職業 戦士
体力 99000
攻撃 47000
防御 55000
魔力 27000
魔防 47000
速さ 18000
固有技能 蛇竜武術皆伝 魔力光線(炎熱 嵐 光) 大地魔法レベル8 
炎熱魔法レベル8 嵐魔法レベル8 光魔法レベル8 大咆哮 瞬足 気配感知 
隠密 限定進化


 「逆境強化」の補正が無い状態の俺の能力値を総合的に上回ってやがる。しかもこの数値、“進化”していない状態だからな。ここからさらに強くなれる余地がある。
 
 「強いんだな、あんた。俺が今まで倒してきた奴よりもずっと強い」

 出会った敵の中だと二番目に強い。いちばんは……地底で遭遇したあの人型モンストールだ。あれは得体の知れないヤバい奴だった。

 「ほう?戦う前から俺のある程度の力量を測れるか。残念ながら俺はお前の力量が全く測れない。何も感じられないからな」
 「ん?あんたレベルの戦士でもそうなのか?やっぱり死んでるからか」
 「そう、《《だからおかしいんだ》》」
 「?」

 エルザレスは鋭い眼光で俺を睨む。

 「どんなに弱小でも、どんなに強大でも。二流以上の戦士なら普通は相手の覇気やオーラといった何かを感じることが出来るはずなんだ。
 ところがお前にはそれらが全く感じられない。
 はっきり言って異常だ。イレギュラーだ」

 そこまで言うか。確認の為にクィンを見てみる。彼女は緊張した様子のままエルザレスが言ったことが正しいという風に首肯した。

 「イード王国の冒険者ギルドでコウガさんに絡んだ冒険者が言っていたこと、憶えてますか?何も感じられない……未熟な人や察知能力に詳しくない人たちにとってはそれが弱者だからと解釈されるのがほとんどなのですが……それは間違いなんです。
 あり得ないことなんです、“何も感じない”というのは」

 クィンもそう言うのだから間違いないのだろう。俺はおかしいって。まあ一度死んで復活しているのだからもうその時点でおかしいのは確定なのだが。

 「だからこそ試してみたい。そんなお前の実力を。この俺よりも強いのかどうか」
 
 俺からしてみればもうどちらが強いのかは分かっている。圧倒的に俺だ。能力値に差が付きすぎている。だがこいつには「限定進化」がある。それを発動されたら分からないかもしれない。
 だったら、試してみたくもなるよな……。正直俺も退屈していたからな!

 「いいぜ。力試しやってやろうじゃねーか。ただし条件がある。“限定進化”を発動しろ。俺を倒したいのなら進化しねーと、勝てねーぞ?」

 俺の発言を聞いた竜戦士たちは俺に非難めいた視線を向けてくる。族長に大層な口をきいたことを咎めている様子だ。仕方ないか、こいつらも俺の実力全く把握できてないのだからな。

 「良いだろう。本気を出していいというなら益々面白くなってきた。
 では早速、勝負といこうか」

 というわけで、竜人族でいちばん強い戦士である族長エルザレスと勝負することになった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品