世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

34話「お咎め」



「王国からの特別報酬を断ったそうじゃねーか?そりゃそうだろうな。どうせお前が上位レベルのモンストールの群れを一掃したわけじゃねーんだからなぁ」

 俺よりも一回り大きく、大剣を背に担いでいるギザギザ髪の男が俺を睨みながら近づいてくる。周りの連中は奴を止めようともしない。レイさん含む受付嬢二人は少し焦った様子でいる。

 「お前みたいなガキどもがSランク昇格なんて認められるか!お前らがこなした指名クエストだって、そこの兵士がほとんど活躍したに違いない!第一、本当にモンストールの群れをお前ら三人で殲滅させたのかよ!?」

 ギザ髪の男の言葉に周りの連中もそうだ怪しい、と乗っかって俺たちを非難し始める。

 「群れを殲滅させたのは本当です!あの村には生き残っていた人は残念ながら一人もいませんでした。私たちはモンストールの死骸も全てしっかり処分してきました。後日あなたたちか兵士団でその様子を見に行けば分かると思います」

 クィンが前に出てギザ髪男に怯むことなく意見する。

 「あんたならまだ分かる。かなりの手練れ兵士と見た。あんたがAランクのモンストールを討伐して、残りの雑魚どもをそこの二人が討伐したんだろ?」
 「いえ…私の実力では、Aランクのモンストールを倒すことは出来ませんでした。オウガさんがいなければ私は今ここへ帰ってこられたかどうか。それに赤鬼さんも一人でAランクのモンストールを討伐してましたよ。私のこの目でしっかり見ました!」

 クィンはありのままの事実を冒険者たちに告げる。しかし彼女の言葉を完全に信じる者はほとんどいなかった。

 「おいあんた、謙虚過ぎるのもあまり褒められるものじゃねーぜ?そこの赤髪の小娘が本当にAランクのモンストールを討伐したとしてもだ!この男が同じように、しかも一人で討伐出来たとは思えねー!」
 
 俺を指差し真っ向から俺の実力を疑いにかかる。

 「おいガキ、戦いを仲間にやらせて手柄は自分も頂く…どうせそんなせこい手段で成り上がろうとしてるんだろ?上位レベルへの昇格ならまだ目をつぶってやってたが、Sランク昇格になるとさすがに見過ごせねーな。正直に言え、お前の実力はSランクに相応しくないと」
 
 俺がSランクに相応しくないと主張したいというわけね。二人に敵を倒させて自分は何もしないで甘い汁をすするだけ…こいつは俺がそういう寄生プレイをしてるんだろと指摘してるってことなんだろ、下らない。

 「いきなり出てきたかと思えば勝手なことばかり言いやがって。何で俺だけがそんなこと言われなきゃいけねーんだよ?俺にだけ不正摘発するのは何の根拠があってのことなんだ?」

 冷めた目で冷めた声で適当に言い返す。その態度に腹を立てた様子のギザ髪男は口調を荒くする。

 「お前だけ冒険者として…戦士としての覇気が全く感じられない!実力がある者からは普通強いオーラが出てくるはずだ!そこの兵士と赤髪からはそれなりのオーラが感じられる!
 だがお前からは《《何も感じない》》!戦士としての覇気どころかまるで死んでいるかのようだ!そんな腑抜けがSランクになどなれるものか!冒険者を侮辱している!!」

 その発言に周りの連中が声を上げて同意する。アレンとクィンは反論出来ずに黙ってしまう。ということはこの男が言っていることは正しいということか。
 何も感じられない……俺は死んでいるからな。普通の人間がいつも発しているであろう生気すら無い状態だ。ゾンビだからな。
 どうやら見た目だけで俺を蔑ろにして不正を疑っていたわけではないようだな。誰にでもあるはずの生気や戦士としての覇気やオーラってやつが一切感じられないからおかしいと判断したようだ。一応ちゃんと見てから俺を非難しているんだな。

 「言いたいことは大体分かった。それで?どうすればテメーは俺から退いてくれるんだ?一方的に非難浴びせられてこっちもイラついてんだけど?」
 「この場で自分がSランクに相応しくない者だと認めろ!そして昇格の取り消しもするんだ!
 あるいは……」

 ギロリと俺を再び睨む。

 「本当にSランクの実力があると言うのなら、俺にその力を示してみろ!出来るのならな!」

 大剣をこっちに突き付けてそんな要求をしてきた。

 「どうせ大した力しかねーんだ!今すぐSランク昇格を取り消せ!」
 「そいつは…ドイルはAランク昇格候補の冒険者だ!女の前で格好つけようたって無駄だぞ!」
 「怪我する前に自分の不正を認めろ!!」

 またも周りから耳障りな野次が飛んでくる。受付嬢たちが火消ししようとしてるが効果無し。

 「……………マジで、鬱陶しい」

 イライラが溜まりに溜まる。サント王国のギルドに初めて行った時のことを思い出して、冒険者どもに対する嫌悪がさらに増した。
 というか、人間に対する嫌悪が増した。こっちは理不尽な目に遭って死を体験してきたというのに、死んでなおも、こうやって俺は叩かれなきゃならないというのか。
 日本にいた時も、この世界にきてすぐの頃も、そして今も…責められてばっかり…。

 もういい。とりあえず目の前にいるこいつ邪魔だから、潰そう。
 ついでに周りの連中も鬱陶しいから黙らせよう。
 この前の時と同じことをすれば良いだけだ。俺はチート人間なのだからな…。

 「力を分からせてやれば良いんだな?」
 「ああ?」

 スタスタと奴との間合いを詰めて大剣を握る。グッと力を籠めて、大剣を粉々に砕いた。

 「な………っ!?」

 自分の自慢の武器が素手で破壊されたことに驚愕しているドイルとかいう奴にさらに近づく。左腕を「硬化」させて刀化させる。
 俺がしようとしていることを察したクィンが、血相を変えた様子で叫んだ。

 「っ!?ダメですコウガさん!それ以上は―――」

 無理だ、ここまで虚仮にされて何もやり返さない程、俺は甘い人間じゃない。クィンの声を無視して俺は――

 「っぎゃああああああ”あ”あ”あ”あ”!?!?」

 ドイルとやらの右腕を切断した。
 床に血がボタボタとこぼれて赤く染まっていく。その光景を周りの連中が把握するのに数秒を要した。
 その間に、ドイルの首を掴んで引き上げる。これで終わらせてはやらない。見せしめは必要だ。

 「あ”...あ”あ”っ」
 「力を示せと言ったのはそっちだ。文句は言わせねぇ」
 
 激痛に苦しんでいるドイルに冷たく話しかける。ドイルの目は怯えていた。

 「こ、こんな...まさかそんな...っ」
 「テメー、ムカつくから殺しても良いんだけど...そうすると面倒事になりそうだから、腕一本で許してやるよ。
 覚えとけ、冒険者オウガの実力は本物だってな」

 そう伝えてから、ドイルを床に思い切りめり込ませた。完全に意識を失っているドイルの右腕の切断面に炎熱魔法を放って傷口を塞いで止血してやった。

 「さて...テメーらもさっき俺のこと好き勝手に罵りやがったよな。今日の俺はテメーらのせいでイライラしてるから、全員潰すわ」

 少し離れたところにいる冒険者どもを睨んでゆっくり歩く。

 「ひ...ひぃ」
 「化け物だ…」
 「あのドイルを、一瞬で...!」
 「逃げろ、殺される!!」

 俺に睨まれた冒険者どもは真っ先にギルドから逃げ出そうとする。それを許さない俺は、出入り口のドアに大地魔法を放って岩石を生成する。逃げ場を完全に断ってやった。

 「そ、そんな!?物理攻撃に特化した戦士じゃねーのかよ!?こんな精度の高い魔法まで…!」
 「た、助けて!さっき罵ったことは謝るから、殺さないで!!」
 「疑って悪かった!!許してくれぇ!!」

 ドアの前で立ち尽くして、全員が俺に謝罪と命乞いをするが、俺の気は一向に晴れない。こういうのはやっぱり一人くらいは潰しておかねーとな。
 誰から潰そうかなと拳を振り上げたその時、

 「止めて下さい!!」

 クィンが俺の前に割って入って腕を広げて叫んだ。

 「やり過ぎです!腹が立った気持ちは分かりますが、いくら何でもあそこまをする必要はないはずです!そこまでにしておいて下さい、お願いします!」

 やっぱり止めにきたか。正義感強いだけあってこういうのは見過ごせないかやっぱ。

 「コウガさん…!どうかここは怒りを治めてもらえませんか?」

 必死の形相で俺を止めようとするクィン。ここでさらにモメると彼女のバックにいるサント王国が出てきそうだ。ひと暴れしたしもういいや。正直シラけたし。
 
 「はぁ…上の階にあるレストランで飯にしようかと思ったけど、他のとこにしよう。行こう」

 岩石を削除してどうでもよくなったって態度でギルドから出ていく。アレンも後に続いて出て行く。

 「………申し訳ございません、部屋を荒らしてしまって」
 「いえ…!彼の力をこの目で見れたことで、あなた方がクエストを成功したということを改めて信じられることが出来ましたから…」

 クィンが受付嬢たちに何か謝罪っぽいことを言っているが、それを待つことなく移動した。
 この一件で冒険者オウガと赤鬼の名がまた世間に広まることとなった。悪い意味での広まりが強かったそうだが別にどうでもよかった。



                 *

 いちばん評判が良いと聞いた店に入る。元の世界で食べた料理をここで食えることを楽しみにしていたので、機嫌を直す。
 料理がテーブルに置かれたと同時に、乾杯も忘れて、がっついてしまう。アレンも美味しそうに食べていた。
 
 「コウガ、ご飯食べてる今がとても生き生きしてる気がする。さっきまではつまらなさそうにしてたけど、今は楽しそう」
 「そうかな。ま、俺が知っている料理が食えてるからかもな。久しぶりって気持ちが強くて」

 食事をしなくても大丈夫な体だが、すっかり食事が習慣化してしまった。この世界ではゲームも書籍もアニメも、何の娯楽も無いから、食事がある意味娯楽だ。何よりこの料理に懐かしさを感じられる。
 鬼族はやっぱり人族よりもたくさん食べるようで、アレンはあっという間に俺よりも多くの料理を食べ尽くした。。

 「人族の食文化はスゴイ。私たちが知らない料理がいっぱい。村を再興したら、人族の料理を取り入れる!」

 とてもお気に召した様子で新たな目標を追加していくアレンに、俺は小さく笑う。

 「………」

 対してクィンはあまり箸が進まない様子だ。
 さっきのことを引きずっているようだな。俺は彼女に話すことなく食事を続ける。

 「……コウガさん」

 やがてクィンが俺に呼びかける。

 「今後は……《《ああいうこと》》は止めて下さい。不愉快に思う気持ちは分かりますが、あなたが振るう力は強大過ぎます。下手をすれば死者が出ることになっていたかもしれないのですよ?」
 「そうは言っても、俺はああいう何でもすぐ悪い方へ決めつける奴らが無理なんだよね、潰したいって思うくらいに。それに冒険者間のいざこざは自己責任だって聞いてるぞ?だから荒っぽくやった」
 「そういうことを言ってるのではなく...!
あの時のコウガさんは……何の躊躇も無しに冒険者の腕をあんな...。虫を殺すかのように平然と傷つけて...」

 言いたいことは分かる。すぐに暴力に訴えたこと、平気であんな大怪我を負わせたこと。クィンは俺の普通じゃない行動を咎めているのだ。

 「とにかく、今後はあまり力を使うのは止めて下さい。あんなやり方で解決など認められません」

 クィンの説教は続く。食事の手を止めて、はっきりさせておきたいことを言う。

 「先に言っておくけど、俺は今後もああいうやり方は続ける。相手が俺に悪意を向ける限りは力でぶっ潰す。俺は誰だろうと敵対してくる奴らは潰すことにしてるから」
 「そんな...」

 クィンは俺が分かってくれないことに落胆している。残念だがクィンでは俺のストッパーにはなれない。俺と彼女には力の差があり過ぎる。
 俺はこれからも俺を侮蔑してくる奴ら、敵対してくる奴ら、悪意を振りまいてくる奴らには容赦しない。場合によっては殺すことにも躊躇わない。

 「アレンさん、あなたもコウガさんにああいう過激な行為を止めるように言ってくれませんか?」
 「ん?うーん……」

 アレンにも説得するが当の本人の反応はイマイチだ。アレンにとっては人族同士のいざこざにはあまり興味が無い。
 というか俺が非難されまくってた時アレンも奴らに敵意を出してたな。彼女も俺のストッパーにはならないし止める気もないだろう。
 クィンには悪いが、俺はこれからも過激なやり方で解決していくことにする。



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コメント

  • ノベルバユーザー620210

    女兵士ウザいな

    0
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