世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る
26話「次の行き先」
「ゴメン、ついうっかり…」
「気にすんな、アレン。遅かれ早かれ、彼女には本名がバレてただろうから。それが今だったってだけだ」
俺の名前がバレた以上、アレンの名前も知られてもいいかと思い、クィンの前でアレンと呼ぶことにした。
「...そんなに私に本名が知られるのが嫌だったのですか?」
俺とアレンのやり取りを聞いて、クィンが不満そうに抗議してきた。
「昨日も言ったが、信用できていない奴に易々と本名を教えたくねーんだよ。国によっては、名前を悪用する犯罪だってあるくらいだからな。これくらいの用心は越したことないだろ?」
「はぁ、そういうものですか...」
「ま、あんたにはどこでも入国許可証をくれた恩があるから、本名はその対価と考えるとするよ。とにかく、ありがとな。俺たちにとって大助かりだ」
お礼を言う俺に対し、クィンが赤面で慌てて返事する。
「私がこうして元気でいられるのも、あの時コウガさんがいてくれたお陰です!むしろ、ここで本名を知ってしまってなんか申し訳ないなっておもいました...。まだ信用していない私なんかに知られてしまって...」
「いや、こんな良いものくれたんだ。国王さんにこれを発行するよう頼んだのもあんたなんだろ?信用させてもらうよ、クィン...いや、年上のお姉さんだからクィンさん、か?」
「クィンでいいですよ、いえ、クィンと呼んで下さい!その...信用してくれて嬉しいです...」
クィンが若干照れながらそう言う。なんでそんなに嬉しそうなんだ?
しばらく雑談を挟んでから、クィンは表情を引き締めて話題を変える。
「そういえば、コウガさんたちは昨日にこの国に入ったのですよね?」
「おう、ここに入国したのは、昨日の朝だったかな。その前にあった洞窟を抜けるのにほぼ1日かかったしな」
「では、カルス村の近くにある崖がある草原でデロイさんが率いる兵団と出会ったのですね」
「そうだったな。休憩してたらあいつらが巡回しに来たんだったっけ」
なるほどとクィンは思案顔をする。何でそんなことを聞くのかと尋ねる。
「あ…特に深い理由はありません。コウガさんが何故一人であの人気の無い危険地帯にいたのかなと気になって…」
確かに普通に疑問に思うよな。崖を下れば瘴気が充満していて、そこには人類の敵であるモンストールがたくさんいるのだから。そんなところの地上で昼寝をしている奴とかどう考えても普通じゃないよな。クィンはそのことを不審に思っているのだろう。
「コウガさん、あなたはいったいどこからこの国にやって来たのですか?サント王国の出身ではないことは確かなようですが…」
「………」
「異世界から召喚された」「別大陸にあるドラグニア王国にいたが、実戦訓練の途中で瘴気まみれの闇の地底へ落ちた挙句死んだ」「しかしどいうわけかゾンビになって復活して、地底を這い回って這い上がって、この大陸にやって来た」
これが答えなんだが、今それを彼女に言って良いのだろうか。
ドラグニアから来たと言ったらどうやってここまで来たのかとさらに尋ねられそうだし、お節介にもドラグニアへ送ろうとするかもだし。どちらにしろ面倒事になりそうだ。俺はドラグニアには戻る気は微塵もないからな。
「……今は、出身とかここへ来た経緯については答えたくない。これしか言えない。それで良いか?」
「そうですか…。いえ、いきなりこんなことを尋ねてしまってすみません。私の単なる好奇心から聞いたことなので」
国王から俺のこと訊くように、とは一応言われてるんだろうな。俺は王国側にしてみれば「得体の知れない人族」なのだからな。俺が敵かどうかはっきりさせてはおきたいはずだ。
「とりあえず、俺は人族に害をなす人間ではないこと、これだけは王国に伝えておいてくれない?俺が何者なのか、まだ詳しくは言う気はないけど、あんたらの敵ではないってことだけ知ってもらえれば良いと思ってるから」
「そういうことならお任せ下さい。私がしっかり伝えておきます」
ひとまず俺への探りはこれで終わってくれたようだが、クィンは今度はアレンに目を向ける。
「赤鬼さん…いえ、アレンさんとお呼びしていいですか?」
「うん」
「ではアレンさんは、どこかの村の出身でしょうか。あなたも駆け出しの冒険者だと聞きましたから」
クィンはアレンがまだ鬼族だとは認識していない。俺が「迷彩」でアレンを人族だと錯覚させているからな。
けどクィンなら本当の姿を見せても問題無いかもしれない。
「アレン…正体見せてやっても良いか?」
小声で聞いてみると彼女はオーケーと返事してくれたので「迷彩」を解いてやった。
「これは……鬼の角!?アレンさん、あなたは!?」
「私は鬼《オルゴ》族。コウガに姿を誤魔化してもらってた」
俺は姿を変えてた理由を簡単に説明する。クィンの納得を得ることに成功した。
「だから“赤鬼”なんですね…。
ところでアレンさんはどのようにしてサントの国境にやって来られたのですか?」
「………必死に駆け回ってたらサントの近くに来てた。そういえばコウガがいた草原にも来たことがあった」
以前に俺がいたあの草原に行ったことがあったのか。アレンも俺がいた地底よりは瘴気が浅い場所で自身を鍛えていたと言ってたが、その時期に来たんだな。
「...因みに、その地帯は立ち入り禁止だったのですが、何をなさってたのです?」
「ん?修行。鍛えてた」
「...そうですか。いずれにしろ、カルス村周辺でエーレ級の危険生物がいる可能性があります。村に立ち寄るなら、十分気を付けて下さい」
アレンにはまだ少し疑念の視線を寄越して、最後に注意を呼び掛けてこの話は終わった。
色々引っかかるのも当然か。アレンの事情は俺よりも複雑だしな。復讐の為に必死だったそうだから。
「すみません、お二人に色々質問をしてしまって!色々踏み込み過ぎました。
しかし王国はあなた方がどういう存在なのかまだ全く分かっていない状況でして…。最低限の情報を提供して欲しいという事情を理解してもらえると助かります。
では、今後何か縁があれば、よろしくお願いします!」
最後に一礼して、クィンは部屋から去っていった。
「私も、怪しい人って思われてるのかな」
「まあ大丈夫だろ。俺たちは恩人として通ってると思うから。これ以上変な探りは入れないと思うぞ」
アレンの頭に手を乗せて安心させる。ひとまず王国に追われることはこれで無くなった。改めてのんびりできるな。
    *                                                          
昼頃に宿を出て適当に食事を済ませ、サント王国を出た。
次の目的地は決めていない。俺は元の世界へ戻る手がかりの道を、アレンは復讐と仲間の情報の道を…って方針で進んでいる。
両方ともどの国あるいは村や町へ行けば情報が得られるのかがさっぱり分からない状況だ。
さっき買った地図を見ると、この大陸には人族の国はサントと「イード王国」というもう一つの大国があるらしい。
どこへ行くか全く決めていないのでとりあえずそこへ行ってみようかとフワフワした考えで行先を決めた。アレンも了承してくれた。
俺はゾンビで疲れない体だから、さっさと行きたければ、アレンを抱えて「瞬足」を延々と発動し続ければ、今日にも着きそうだ。
アレンと相談したが、普通に移動して行こうとのことだったので、歩いて行くことに。
「アレンは疲れないか?徒歩だと、次の国に着くのに5日はかかるぞ?」
「平気。途中出てくる魔物やモンストールを狩って強くする良い機会。それに、コウガと一緒にお話ししながら行くのも楽しいし」
修行を兼ねて俺とのおしゃべりがご所望らしい。アレンの復讐相手は、彼女にとって桁違いに強いモンストールとなるだろう。なら、ここでレベルアップするのがアレンにとってプラスになる。ここはアレンの修行に付き合うか。
方針が決まったところで、アレンとともにイード王国を目指して旅立った。
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コメント
砂漠T
面白い!
これからも頑張ってください。