世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る
一人旅と出会い編 15話「問答」
ゾンビになって以降、肉体的体力に限界は無くなったのだが、精神的体力・心労は死んだ後も負担がかかった。
疲れた…精神が。数日間ずっと動き回ったり戦いまくっていて、神経を張り詰めてばかりだったのだから無理もない。とりあえず、崖元から離れ、近くの草原で大の字に寝転んだ。
人間、目を閉じて横になってるだけで、ある程度の疲労を取り除くことができるようになっている。死んだ身である以上、食事も睡眠も不要になったのだが、心を休める意味では、どちらにしろ必要なものだと思ってる。今後も、食事と睡眠はなるべく摂るようにするぞ。
そう決意しつつ、リラックスするため、一度頭を空っぽにし、目を閉じる。
陸上競技の試合前の時も、時間が大きく空いた時はこうしていたな。そうすることでベストコンディションになれるんで、ルーチンワークとして取り入れていたっけ。
気が付くと、俺は深い睡眠に入っていた。
*
どれくらい眠っていたのか。目が覚めてもまだ太陽が燦々と照り続いているのを見るに、6時間も眠ってはいまい。ま、頭スッキリして、体も軽くなった気もするし、十分休息は取れた。
目下どうしようかと思案を巡らせていると、遠くから数人の足音が聞こえてくるので、音のする方に目を向ける。
10人程度の兵士っぽい身なりの奴らが隊列を組んでこっちに近づいてくる。あと数分もすればここに着くな。隠れてもいいが、兵士が大勢で何しにこんなところまで来たのかが気になるので、このまま待ち構えることに。
待つこと約3分、兵士ご一行がこちらの目の前に立ち止まり、先頭にいる男兵士が俺に問いかける。
「お前は、ここで何を?この周辺は、立ち入り禁止区域になっているのだが?」
とりあえず、てきとーに返すか。
「あー...俺は、日課でランニングをしてて、んで今日は趣向変えて目つぶって走ってみて、そしたら気付いたらここに...ってなわけなんだ。
ところで、兵士さんらこそ一体どういったご用件でここに?それもこんな大勢で」
俺の珍回答に兵士全員が怪しいものを見る目で睨むが、先頭の男は俺の質問に答える。
「この先崖の下は、モンストールが巣食う瘴気の谷と呼ばれているところがある。半月前にドラグニア王国が異世界召喚を行い、召喚された者らを対モンストール軍団として『救世団』を結成したらしい」
半月前?そうか、俺が廃墟から落ちていったあの日からまだ半月しか経っていないのか。
「その『救世団』による実戦訓練の一環でモンストールが生息する廃墟に行ったのだが、規格外に強いモンストールと遭遇したそうで、そいつの侵攻を食い止めるためにあそこを破壊したそうだ。今はもう跡地になってるそうだな。
だが、万が一にもここからモンストールが漏れ出す恐れがあることで、被害を出さないよう彼らは現在定期的にそこを訪れ監視するようにしている。それに倣い、我らの王国も万が一に備え、定期的にこの周辺を見回りに来たというわけだ。ま、今まではここからモンストールが出たことはないがな」
というか「救世団」って。この世界ではそんなネーミングが良いと認識されるのか?笑わせてくれる。大層な組織名を付けられたもんだ、中身はロクな連中しかいないガキの集まりだというのに。
「あーなるほど。いやー世間の事情に疎くて。『救世団』なんて大層な...ぷっ、あいや失礼。というか、規格外に強いモンストールがいたのかー。その廃墟のずっと下に。別の場所とはいえ、そんな奴がいるかもしれないモンストールの巣の周辺にこの人数で回ってて大丈夫なんすか?あれは一流兵士数人いても手に余るくらい強いのに」
途中吹き出してしまった。
「当然我らだけじゃない。どんなランクであれ、モンストールを目撃した場合、通信デバイスで王国に報告し、増援が来るようになっている。我らはいわば哨戒役だ。
...ところで、お前...」
と、男の声のトーンが少し低くなり、険しい視線を向ける。
「まるで、その規格外に強いモンストールの戦闘力を知っているようなことを言ったが、どうしてそのモンストールのことを知っているかのようなことを言ったんだ?」
うっかり口を滑らせてしまった一言をリーダーっぽい強面の男兵士は聞き逃さなかったようで、後ろの兵士たちも臨戦態勢をとる。うーんめんどい予感。
「まーそんなことを…言ったような、そうでもなかったような」
「惚けても無駄だ。やはりお前は怪しい。
...そういえば、『救世団』の中で一人モンストールとともに廃墟の崩壊に巻き込まれて、死亡したことにされたと聞いたことがあるのだが...っ!まさか、お前...!?」
おっと中々勘が良い兵士さんだ。そろそろ逃げるとしようかな。
「お前、名前は?場合によってはお前の身柄を預からせてもらうことになる。名乗れ!」
リーダーっぽい男が名乗りを促す。
「……」
俺は無言のままでいる。
「身分を明かすと困るようなことでもあるのか?」
顔を険しくさせて問い詰めてくる。後ろにいる兵士たちはいつでも動けるよう構えている。
張りつめ出した空気に嘆息した俺は、仕方なしにと、答えた。
「俺はテメーらの言う救世団……異世界から呼び出された集団の一人、だった男だ。ドラグニア王国だったか、その国の命令で行かされた実戦訓練の途中で仲間……というか、同行していた集団に見捨てられて……色々あってここに戻ってきた」
俺の曖昧な説明を聞いた兵士たちはどよめき出す。俺が生きていることが驚愕だとか、異世界人だとかで俺を変なものを見る目をしている。
「我々はドラグニア王国とは違う国の兵士団故、その国の詳しい事情は知らない。彼の国が異世界召喚を行い、モンストールに対抗する組織を創り上げたが早々に一人がモンストールの手によって死んだとしか聞かされていない。
だがお前は、死んだとされていたあの異世界の人間で間違いないのだな?」
「まぁ、一応そうだけど」
リーダー兵は腕を組んで思案し出す。10秒経ったところで奴が俺の顔を凝視して声をかける。
「お前が何故死んだ扱いになっていたのか、国が行った実戦訓練で何があったのか………お前は何者なのか、我々の国に来て色々訊かせてもらうことにする」
リーダー兵は鋭い視線を飛ばしてそう言った。俺が普通の人間ではないことを察知した様子っぽいな。俺を国に連れて事情聴取か何かをさせるつもりらしい。めんどい展開になってきた。
せっかく一人に、あのクソな国の所属を辞めて(実際は捨てられたが)自由になったというのに、まためんどいことさせられるのか?
嫌だ、行きたくない。煩わしい。
そうだ、逃げよう。今の俺にはそれが出来る力があるのだから。
「同行を断ったら?」
「悪いが強制連行させてもらう。ここはサント王国の国境内だからな。我々の管轄内だ」
これも仕事だからなと、リーダー兵が俺を捕まえようと魔法を放つ構えを取った。他の兵士たちも動いて俺を囲んだ。
「はぁ、やっぱり。人の都合なんてお構いなしだな、警察みたいだ」
ダメ元で交渉してみるか。
「頼む。今回、俺がここにいたことはお前らの上司、王族、国王とか誰にもチクらないでくれないか?俺はこれから一人でこの世界を適当に旅しようかと考えてるから」
軽い調子で頼んでみる。
「そうしたいのならまずは我々の用を済ませてからにしろ。旅がしたいのならその後でも良いだろう」
断られる。頭硬いなー。テメーらの都合に付き合いたくねーんだよこっちは。
俺がため息つくのと同時に、周りにいる兵士のうちの誰かが俺を見ながらこんなことを口にした。
「そういえば、その死んだとされていたこの男、何でもいちばん弱くて“ハズレ者”だとか、大した損失ではなかったとドラグニアの者が言っていたような」
――“ハズレ者”。かつて俺の蔑称としてつけられたその単語を聞いて、俺はまた溜息をつく。
随分と久しぶりに聞いた不名誉極まりない呼称だな。元クラスメイトにも、兵士らにも、クソ王子にもそう呼ばれてたような。
よし決めた。
俺は不機嫌オーラをあからさまに放ってリーダー兵に話しかける。
「テメーらのお縄にはつかねー。国には行かない。テメーら感じ悪いし。お断りだ」
それを聞いたリーダー兵は眉をひそめながらそうかと呟き、
「あの男を捕らえる『拘束』」
白い縄のようなものを俺に放ってきた。同時に周りの兵士たちも駆け出してきた。
というわけなので、俺は軽く伸びをしてから足に力を入れて、
「じゃあな」
“瞬足”
地面を蹴ってその場から飛び去って行った。
「な……消えた?」
「男の気配が……もう無い」
「一瞬でここから消え去ったというのか!?なんて速さだ!」
兵士たちが狼狽える中、リーダー兵は苦い表情を浮かべて魔法を解いた。
「あの男、どうやってここに来たんだ?ドラグニア王国はこことは別の大陸にあるというのに。海を渡ってここに来たのか、あるいは――」
リーダー兵は草原の端…崖となっている場所へ目をやる。
「地底を移動してここに?いやあり得ない、地底は人族なら死に至る瘴気が蔓延している。そこを伝って大陸から大陸へ移動するなど……」
奴は何者なのか、と消えた皇雅に疑念を抱きながら、彼は仲間をまとめて、今の出来事を兵士団長に報告すべく帰還することにした。
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