世界最強のゾンビになって生き返ったが、とりあえず元の世界に帰る旅に出る

カイガ

7話「生贄」



 モンストールには強さのランクがつけられている。最弱のFランクからDランクは下位レベル、CランクからAランクは上位レベルとされている。そのさらに強いレベルのクラスは災害レベルと位置づけられ、Gランク・Sランク、あるかどうか不明とされている幻のXランクがそれにあたる。
 今、俺たちの前に現れたモンストールはGランク…災害レベルだ。

 「ブラット団長!これはすぐ退いたほうが!」
 「無論だ、ここは退く!彼らのレベルでは災害レベルはまだ手に余る。下手すれば全滅だ!」

 兵士とのやり取りを聞いて、全員に動揺が走る。

 「囮魔法を使う!持って10秒程度だが、急げば撒ける範囲だ!俺が魔法を唱えると同時に来た道を戻って行け!!」

 予想外の事態にもうろたえず、的確に指示を出すブラットに従い、逃走の体勢に入る。間もなくブラットが魔法を唱える。ブラットの囮が生成され、モンストールのもとへ行く。他の兵士も囮を生成し、攪乱させに行く。同時に俺たちはここを離れることだけを考えながら来た道を全速力で駆ける。
 元の世界では陸上部短距離エースの俺がぶっちぎりで速かったのだが、ここでは、「加速」を使える者もいて、俺が逆に遅い者となっている。そのことに悔しさがこみあげてくるが、今はあいつから離れることに全力を注ぐ。

 やがてクラスの大半が廃墟の入り口まで避難でき、待機していたミーシャと王子に里中が事情を説明し、兵士が二人を守るべく下がらせる。
 それからすぐに残りの生徒と藤原先生も避難し、残るのは、ステータスが低い俺とモンストールを足止めした兵士たちとブラットだけだ。彼らも加速魔法を使い、俺をあっという間に追い抜く。追い抜き様にブラットが急げというが、無茶言ってくれる。ようやく入り口が見えてほっとした、その時―――

 「―――っ!?」

 何か、俺の右腿に刺さる感触が。突然のことに対応できず、転倒する。刺さったものが何なのか右腿を見ると、貫手サイズの棘が刺さっていた。あのモンストール、自分の体に生えている棘をちぎって投げてきたのだ。しかも、Gランクの攻撃に低ステータスの体が耐えられるものではないので、俺はその場に倒れる。
 その俺に追撃が。左腿にも棘が刺さる。焼けるような痛みに叫び声が抑えられない。
    俺の名を呼ぶ藤原先生の声が。遠目だが、先生が今にも飛び出しそうになるのを周りの女生徒が止めている。
     高園も助けに行こうとしているが、モンストールの威圧に萎縮して、踏み出せずにいる。どうにか入り口まで行こうと這って進むが、力が入らない。血を流しすぎた。そこに近づくモンストール。
 このままこいつは俺を殺した後、廃墟から出て、残りのクラスと兵団たちも殺しに行くだろう。絶体絶命の中、マルスが集団から現れ、俺を指さし、


 「こいつごと、この廃墟を崩壊させ、あのモンストールの侵攻を止めるぞ」


冷淡にそう提案した。

 ......なんだとこの王子。俺ごとここを埋めるだ?俺を捨てるつもりか!?

 「何を言うのですか!?甲斐田君を、見殺しにするのですか!?そんなこと...!!」

 と、藤原先生がマルスに詰め寄る。が、ブラットに抑えられる。

 「ここであのモンストールを止めねば、周辺の人里も危険にさらされる。Gランクの強さは、レベル3桁の戦士が10人以上束になってようやく倒せる程だ。そんな奴を外に出して更なる被害を出すか、あの男ごと生き埋めにして犠牲を最小に抑えるのか、どちらがマシか分かるだろ」

 宥めるように正論を並べるマルス。だが、俺を見るその目は...


「それに、あんなハズレ者が今後の戦いで活躍するとは思えん。ここで死ぬのも、遠くない未来で死ぬのも同じだろう。...そもそも、お前たちの召喚にいくら時間と努力、魔力を費やしたと思う?身を削る思いでようやく叶った召喚かと思えば、あんな男が混ざっているとは。不要な駒はここで切っておくべきだ」


 侮蔑がこめられ、冷たいもので、俺はここで死んで当然かのような言い草だ。しかも、後半の部分は先生に聞こえないように、俺に届く範囲で言いやがった。そのマルスに賛同する声が上がってくる。

 「王子様の言う通りだよ!甲斐田はもうダメだ、死にそうな奴助けたってどうしようもないしな!それに!あいつは俺たちのこと仲間だと思ってねーよ絶対!そんな奴この先上手くいかねーし、弱いし、要らねー奴だっ!!」

 大西だ。
 次第に感情的になって嗤いながらこっちを見て叫ぶ。私怨が混ざっているのが丸分かりだ。それでも、大西の言葉にクラスのほぼ全員が賛成の空気に染まっている。そしてみんなが俺を侮蔑をたたえた目で見下し、嗤っている奴すらいやがる。

 今の俺の状況をみてどうして嗤っていられる?気に食わないとか不快とか、そういった理由があれば、人は窮地に陥った奴を罵りながら嗤って見捨てることができるのか...。
 本当に…このクラスの連中は俺にだけ仲間意識など微塵もなかったというわけか…。

 この世界にきてから、俺ばかりが、理不尽な目に遭い、蔑まれ、虐げられてばかりだ。挙句には嗤われながら捨てられる。

 「...何だよこれ......!何なんだ…!!何で俺ばかりが!!!」

 心が真っ黒に塗りつぶされていくような感覚が俺を蝕んでいく。全員が俺を嘲笑って見下しているように見える。

 (嗤ってやがる……どいつもこいつも。皆、俺の有り様を嘆いたりはしていない……ここからだとそんな風に見える。自分らの生贄になって死ねと言ってる気がする……!)

 モンストールが俺に近づく一方でブラットと兵士たちは淡々と魔法を撃つ体勢に入る。
 そして爆発魔法で周りの瓦礫を崩落させ、土魔法で土砂崩れを起こし、廃墟を破壊していく。次第に俺が這いつくばっている床も崩壊していく。
 俺はモンストールとともに、底が見えない闇へ落ちていく。最後にみた景色は、クソ王子の見下した面と、気持ち悪い笑みを浮かべたクラスメイトの面だ。


 「じゃあな、ハズレ者。来世では身の程弁えた態度で学校過ごすんだな」
 「ざまあみろ甲斐田」
 「せいぜい俺たち(私たち)の生贄になって死んでくれ」
 「これで無事に帰れるわー」


 そんな侮蔑や安堵の言葉を吐いているように感じた。誰も俺を生贄にしたことを申し訳なく思っていない、俺が消えることが当たり前のことだとさえ考えている。

 「く、そ……テメーらが、死ねよ…!
 ちくしょう……っ」

 クラスメイトどもに恨みがこもった言葉を吐きながら……俺はモンストールとともに地の底へ、闇へ落ちていった―――






 この時の皇雅は気づかなかった。
 藤原先生と高園、そしてミーシャ王女が周りと違い、蔑んだり嗤ったりはしていなかったこと、彼女たちは皆、悲痛に、助けに行こうとしていること。
 皇雅は最後まで気づくことはなかった。

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