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銀足車道

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 朝、いつもの散歩を終えて、アパートに戻ると、携帯電話にマスターから着信。俺は煙草を口にくわえると火を点け、電話を掛ける。呼び出し音が鳴る。煙を吐く。
「もしもし。修人か。アカネやっちまたな」
「何をやっちまったの?」
「知らねえのかよ。テレビじゃ大騒ぎだぜ」
 大きな煙を吐いて、俺はリモコンを手に取った。リモコンの電波がテレビに刺さる。
『勅使川原トキア、白石アカネ、薬物取締法違反で逮捕』
 大きなテロップ。テレビのキャスターがニュースを伝える。
「六月十日、勅使川原トキア容疑者と白石アカネ容疑者が、コカインを所持していたとして、薬物取締法違反の疑いで現行犯逮捕されました。二人は練馬区路上で警察に職務質問されたところ、コカインを所持していたため、その場で取り押さえられたということです」
 煙草の灰が零れて膝の上に乗った。指で払いのけて深く煙草を吸った。先端は大きく赤く光った。俺は椅子の背もたれに身体を預けた。すると、椅子が倒れそうになったので重心を前にした。
「マスター、アカネさんもうダメかな?」
「芸能活動はしばらく無理だろうな。今はクスリの誘惑を断ち切って再犯しないことが重要だ」
「そうですね。マスター知らせてくれてありがとうございました」
「いいよいいよ。じゃあな」
 煙草を灰皿で揉み消した。椅子に座って腕を組んで考える。アカネさんの未来。希望なんてない。ひたすらの闇だ。そこから引っ張り出すのは俺だ。でもどうやって?丸助と目が合った。俺は意思を固める。どういう形であれ俺はアカネさんを守るのだ。
 インターネットで調べてみると、都内に薬物依存の更生施設は幾つかあった。また専門の病院もあった。アカネさんはこうした機関の力を借りながら薬物依存症と向き合い戦わなければならない。孤独な戦いかもしれない。俺はそこに寄り添おう。
 今回の事件を受けて白石アカネ「太陽の音ツアー」は中止。勅使川原トキア主演の映画「暮れ行く時」も公開中止、歯磨き粉のCM降板、億単位の賠償金が発生するとの見込み。また、二人の事務所は契約解消を発表した

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