トップウォーター

銀足車道

復帰

 車に積んであるロッドを取り出してクランクベイトを結ぶ。空は夕焼け、心地よい風が吹いていて釣りには最適だ。暑さに弱ったブラックバスも活発に捕食する時間。そんな時にこのうまそうなクランクベイトだ。桟橋に人がいないことを確認して投げた。糸を巻くとクランクベイトは水中を潜っていく。糸を止めるとクランクベイトは浮き上がる。浮いたり潜ったりを繰り返しながらの水中散歩。それはご機嫌だ。そして竿を動かして時折アクションをつける。
 湖面をブラックバスが跳ねた。ブラックバスがいることは確実。そのポイントの少し沖に向かってクランクベイトを投げる。着水。先ほどの動きを繰り返す。目を閉じて水中を想像する。水中で愉快に泳ぐ小魚、岩のコケをつつく小魚。逃げ惑う小魚。ビクビクッと竿先が震えた。
「来た!フィッシュ!」
 そう言って俺は思い切り合わせた。ロッドが大きくしなる。これまでにない大物だ。リールはギギギギと音を立てて糸を放出する。気持ちの良い音だ。選ばれしものだけが聴ける勝者の音だ。糸を力いっぱい巻いていく。重さが違う。糸が切れないように、魚の抵抗が強まったら巻くのを止める。そうするとまたギギギギといって糸が出る。弱った頃にまた巻いていく。次にブラックバスは水面を飛んだ。空中に浮いて首を左右に振ってルアーを外そうとした。一瞬、ロッドが軽くなったのでバラしてしまったと思ったがブラックバスは付いていた。ブラックバスの体力が大分弱った。あとは慎重に引き寄せるだけだった。水際に近づきブラックバスの口を持つ。
「よっしゃあ!」
 俺は叫んだ。ブラックバスを夕暮れの空に掲げた。重い。地面に置いて測ってみる。四十二センチ。自己最高記録。自分と比べても他と比べても大物といえるサイズを釣り上げた。

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