トップウォーター
天野ゆかり
駐車場にはマスターのアメ車が止まっていた。ゆっくりと車を停める。車からベイトリールの付いたロッドを取り出し、ルアーの入ったバッグを肩にかけた。白く大きなアメ車に近寄り中を覗き込むとマスターはいなかった。売店で遊漁券を買い辺りを見回す。マスターはいない。桟橋から砂浜のある一帯まで歩いて行くと、遠くにマスターの姿を発見。釣りを始めていた。マスターに駆け寄る女性の姿があった。手にはブラックバスを持っている。
「マスター、いい歳してお盛んで。新しい女ですか」
「馬鹿言うな。俺はとっくに引退してるよ。お前に紹介しようと思ってな。ゆかりちゃんだ」
「はじめまして。天野ゆかりと申します」
「どうも。修人です。寺尾修人です」
おしとやかな雰囲気の女性。ショートカットの黒い髪が、太陽に当たって艶を出している。優しそうな人だ。初対面だというのに、これまでに会ったことがあるかのように、俺はリラックスしていた。
「そのブラックバス、何で釣ったの?」
「あっ。ワームです」
ゆかりちゃんはミミズのようなワームの先端に針を付けていた。確か、アカネさんは腹部に針を刺していたな。
「何センチ?」
「えっと、二十三センチです」
「まあまあだね。俺の最高は三十五センチ。今日は四十センチ超えを狙うかな」
「あたし、今日始めたばかりなんですよ。マスターに教えてもらって」
「初めてで釣るのは凄いよ。俺なんてルアーが前に飛ばなかったもん」
ゆかりちゃんがクスクスと笑った。マスターがそれを横目で見て言った。
「ゆかりちゃん、気をつけろよ。そいつは白石アカネを抱いた男だぜ」
「白石ってあの歌手の?凄い。付き合っていたんですか?」
「マスター、勘弁してくださいよ。ゆかりちゃん、付き合ってはない。一夜のアバンチュールってやつさ」
「へえ。プレイボーイなんですね」
「プレイボーイじゃないよこいつは。酔った勢いでやっちまったのさ。ゆかりちゃんにそんなことしたら許さねえからな」
マスターがそう言うと、ゆかりちゃんは、顔を赤らめて俯いた。可愛い人だ。アカネさんが太陽だとすれば、ゆかりちゃんは月のよう。周囲を優しく照らすのだ。
俺は得意のポッパーを投げた。いつものように生命を吹き込む。ポッパーは水面を切った。ブラックバスに存分アピールした。アピールし続けた。何投したことだろうか。釣れる気配がない。
「動かし方は良いんだけどな。魚が飽きちゃったんじゃねえか?おっ」
マスターの動かすペンシルベイトにブラックバスが食いついた。
「あっ、あたしも」
ゆかりちゃんのロッドも大きくしなる。真夏の太陽の下で、二人がブラックバスを釣っている。時折、吹く風が体温を調節してフラットにする。俺の心は置いてけぼりで、むなしさは隠しきれない。笑顔も引きつる。それでも言葉をギューッと絞り出す。
「やったねマスター、ゆかりちゃん」
マスターのブラックバスは三十七センチのなかなかの大物で、ゆかりちゃんは三十二センチ、アベレージサイズといったところか。
「マスター、いい歳してお盛んで。新しい女ですか」
「馬鹿言うな。俺はとっくに引退してるよ。お前に紹介しようと思ってな。ゆかりちゃんだ」
「はじめまして。天野ゆかりと申します」
「どうも。修人です。寺尾修人です」
おしとやかな雰囲気の女性。ショートカットの黒い髪が、太陽に当たって艶を出している。優しそうな人だ。初対面だというのに、これまでに会ったことがあるかのように、俺はリラックスしていた。
「そのブラックバス、何で釣ったの?」
「あっ。ワームです」
ゆかりちゃんはミミズのようなワームの先端に針を付けていた。確か、アカネさんは腹部に針を刺していたな。
「何センチ?」
「えっと、二十三センチです」
「まあまあだね。俺の最高は三十五センチ。今日は四十センチ超えを狙うかな」
「あたし、今日始めたばかりなんですよ。マスターに教えてもらって」
「初めてで釣るのは凄いよ。俺なんてルアーが前に飛ばなかったもん」
ゆかりちゃんがクスクスと笑った。マスターがそれを横目で見て言った。
「ゆかりちゃん、気をつけろよ。そいつは白石アカネを抱いた男だぜ」
「白石ってあの歌手の?凄い。付き合っていたんですか?」
「マスター、勘弁してくださいよ。ゆかりちゃん、付き合ってはない。一夜のアバンチュールってやつさ」
「へえ。プレイボーイなんですね」
「プレイボーイじゃないよこいつは。酔った勢いでやっちまったのさ。ゆかりちゃんにそんなことしたら許さねえからな」
マスターがそう言うと、ゆかりちゃんは、顔を赤らめて俯いた。可愛い人だ。アカネさんが太陽だとすれば、ゆかりちゃんは月のよう。周囲を優しく照らすのだ。
俺は得意のポッパーを投げた。いつものように生命を吹き込む。ポッパーは水面を切った。ブラックバスに存分アピールした。アピールし続けた。何投したことだろうか。釣れる気配がない。
「動かし方は良いんだけどな。魚が飽きちゃったんじゃねえか?おっ」
マスターの動かすペンシルベイトにブラックバスが食いついた。
「あっ、あたしも」
ゆかりちゃんのロッドも大きくしなる。真夏の太陽の下で、二人がブラックバスを釣っている。時折、吹く風が体温を調節してフラットにする。俺の心は置いてけぼりで、むなしさは隠しきれない。笑顔も引きつる。それでも言葉をギューッと絞り出す。
「やったねマスター、ゆかりちゃん」
マスターのブラックバスは三十七センチのなかなかの大物で、ゆかりちゃんは三十二センチ、アベレージサイズといったところか。
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