トップウォーター

銀足車道

びっくりフロッグ

 白石アカネ、デビューシングル「青空からハロー」好評発売中。テレビコマーシャルから流れた。それはジャズではなくありふれたポップソングであった。この歌はもう電波に乗ったのだ。サーフィンをするように楽しく爽快に。それが人々の耳に乗り込んで、心の中でどう振舞うのか。売れてほしいという気持ちと、失敗して欲しいという気持ちが心の中で喧嘩する。それをたしなめるようにアカネさんの歌声がそっと響く。売れたら、俺には手の届かない存在になってしまう。売れなかったらアカネさんは落ち込むだろう。自分本位と思いやりが入り混じる。
 俺は「ブラックルアー」最新号のページをめくる。「俺のトップウォーター」では、野尻湖における釣行の様子が書かれていた。野尻湖にはスモールマウスバスという口の小さなブラックバスがいて、おじさんはそこでもトップウォーターの釣りを貫いたようであった。このおじさんにとってルアーはもはや生き餌であろう。二匹のスモールマウスバスが写真に写っていた。ブラックバスは恥ずかしそうにポーズを決めていた。お茶目である。
 雑誌にはおじさんの持つトップウォーターのルアーも紹介されていた。大きなプラスチックケースにひしめき合っても、各々は存在感を放っていた。中にはカエルのような形をしたルアーもあった。こいつは戦力になるかもしれない。ブラックバスとて魚を食べたいときもあれば、ミミズを食べたいときもある。そしてカエルを食べたいときもあるのである。選択肢を増やそう。今日の予定は決まった。
 釣具屋フラッシュには珍しく多くの人がいた。その理由はすぐにはっきりした。セールが行われていたのである。最大五十パーセントオフのルアーのセール。俺はそのコーナーに釘付けになった。
 山盛りのルアーを漁ってトップウォーターのルアーを幾つか選んだ。ポッパーの茶色いカラーとブラックバスカラー。そうブラックバスは共食いをするため、こんなカラーも用意されているのだ。愛も友情もない。生存本能に従って奴らは生きている。どちらが自然か。
 次にペンシルベイトを選んだ。小さめのウォーターメロンカラーと大きめのクリアカラー。合計四つ。スプーンもセールのコーナーにあったが今回は買わないことに決めた。俺はあの水面の芸術にまた触れ合いたいのだ。あの水しぶきが忘れられないから。
 セールコーナーにお目当てのフロッグはなかった。丸い目をしてびっくりしたような顔で定価のルアーコーナーにぶら下がっていた。軽く揺らしてみた。揺られたフロッグは、さらに驚いたような顔をしていた。可愛い奴だ。俺はそのフロッグを、びっくりフロッグと名付けカゴに入れた。

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