トップウォーター

銀足車道

時留洋子

 浜を少し歩いたところで、白い鳥居が見えたので寄ってみることにした。小学校に設けられているような鳥小屋程の大きさの、小さな神社の前にたった。俺は神様を信じてアカネさんを愛す。アカネさんと結ばれるように願おうと考えた。鳥居の脇にある石碑には、こう書かれていた。

 御祭神

 天八大瀧王大神
 天五色弁財天大神
 御守護水神
 八岐龍王大神
 
「水神、弁財天はわかるけど、龍王大神って。西洋ではドラゴンは怪物扱いだわ」
 という声が聴こえて、後ろを振り返ると、先程の女芸人と連れの女が話をしていた。
「東洋の龍と西洋のドラゴンは根本的に違うんじゃないの」
 連れの女は、そう反論した。
「そうかなあ。言語は共通じゃないのかしら。鶏の鳴き声ってどう表現する?」
 女芸人が笑みを浮かべながら連れの女に尋ねた。
「そりゃあ、コケコッコーでしょ」
 連れの女がそう答えると、女芸人は自慢げな顔をして次のように言った。
「クックドゥードゥルドゥーよ西洋じゃ」
「嘘でしょ?」
「本当、本当」
 女芸人は小さな神社を見つめながら話を続けた。
「じゃあ私のことはなんて訳すでしょう?」
「女芸人グループ、デザートのパッピパピプペポーじゃない?」
「もう。いい加減ね。鶏の鳴き声の響きを真似しただけじゃない。私、時留洋子はトキトメヨウコ。世界共通言語よ」
 ああそうだった。この女芸人の名前は時留洋子だった。
 俺は龍神とあって、儀礼作法にも違いがあるかと、一瞬悩んだが、二礼二拍手一礼をして、アカネさんと俺が幸せになれますようにと願った。
 急に雨が降り出した。雨はそのまま湖にダイブしていった。次々と盛んにダイブするもので、湖面はまるでマシンガンで撃たれたかのようだった。困ったな。傘を持ってきてない。俺は一碧湖の下見を中止した。

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