線香花火

銀足車道

疑念

 北条時政は、怒りに震えていた。頼朝に騙された。頼朝が見込んだ男と聞いて俺は雇った。他方から武士を雇うなどという異例の対応をした。なのに、なんだこの様は。うちの武士団のなかでも、あまり強くない多助を選んだ。それなのに、こてんばんにやられたではないか。こんな奴が河津三郎祐泰と対等に戦ったなど大嘘だ。今すぐ頼朝に会いに行き、何故騙したのか、その真意を確かめなければ。
 北条時政は馬にまたがると、源頼朝の住んでいる蛭ヶ小島へ向かった。青々と広がる田園地帯を抜けて辿り着くと、源頼朝は屋敷で読経をしているところであった。
「おうい、頼朝」
「これはこれは、北条殿。どうです?喜衛門は?」
「どうもこうもあるか。騙しよって」
「私が騙したと?そんなはずはありません」
「うちの家来に負けよったわ」
「はは。そうですか。戦場では?」
「まだ戦には、出とらん」
「戦場でご覧になって下さい。ああいう奴は戦場で力を発揮します。それは天性のものです」
「にわかには信じられんな。戦がない故、確かめられん」
「巻狩はどうです?」
 こうして、頼朝の提案により、後日、巻狩を行い喜衛門の実力を試すこととなった。

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