線香花火

銀足車道

いざ

 教室の席に着くと元村がにやにやしながらやってきた。
「まあ、がんばれや」
 俺の肩をポンポンッと叩いた。
「サンキュ。」
 俺は微笑んでそう言った。余裕を見せようとしたのだ。
 昼休み、緊張で弁当は半分残した。そして、鈴さんに目をやった。女友達と話している。そして鈴さんが弁当を食べ終わったのを確認して、俺は席を立った。胸がまたあの奇跡のように16ビートで高鳴った。一歩、一歩歩いていく。頭の中には武士の姿があった。
「あ、あの。鈴さん、ちょっといい?」
と言った瞬間、被せ気味に。
「あ?なんだおめえ」
という声が聞こえた。後ろを振り返ると、イケメンで有名な隣りのクラスの永島伸の姿があった。俺は、瞬間的に悟った。彼氏だ。
「いやあ、何でもない何でもない。じゃあね」
と言って、その場から駆け足で去った。途中、誰かの机にぶつかり、鈴さんが笑ったのが聞こえた。
「どんまい」
と言う元村の手を払って机に突っ伏した。寝たフリをすることで、涙が流れるのをこらえようとした。目をつぶった。つぅーっと涙が流れた。元村は俺に優し気に言った。
「なんだよ無視かよ。いいよ。寝ろ寝ろ」
 涙は一粒だけだった。休み時間は、あと二十分ある。目の中の涙は、乾くだろうと思って、少し安心した。


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