線香花火

銀足車道

部活

 写真部の部室で、一つの写真を巡って、ああでもないこうでもないと部員たちが言い合っている。俺は一人、会話には加わらず、カメラのレンズを磨きながら、今日起こったあの奇跡を、甘美なるあの渡辺鈴とのひと時を思い起こしては反芻している。
「柏木君、柏木後太朗君。こないだ撮った写真現像出来たよ」
 部員の一人、大和実が一枚の写真を見せてきた。写真には、三人組のアイドルグループが写っている。三人組のアイドルグループとは、伊豆のご当地アイドル「ニューサマー3」。俺達は、高級なカメラを持っているということをいいことに、アイドルのおっかけと化していた。
「またくだらないもの撮りやがって」
 部長の飯田に大和は注意されたが「いいえ。立派な被写体です」そう反抗すると、写真を俺の制服のポケットに入れてくれた。
「サンキュ」
 ポケットから写真を取り出し眺めた。これは、こないだの稲取のよさこい祭りでのオープニングアクトの時の写真だ。そう確認した。よさこい祭りは、稲取で毎年行われる祭りで、全国から踊り手たちが集まりソーラン節などの踊りを、集団で披露する。その舞台にニューサマー3が出たとき、俺は熱狂した。普段にはない鮮やかな照明と、迫力のある音響が、そうさせたのである。
 俺の推しメンは、玲那で、ロングヘアーのおとなしめな女の子で、そのくせ、ホットパンツから伸びる足は白く長く、豊満なバストを持っていてセクシーであり、そのギャップに心を奪われたのだ。未来、時香、残りの二人のメンバーも美人でそれぞれ熱狂的なファンを持っている。
 未来は、歌唱力に定評があり、大和は「アイドルには歌唱力も欠かせないんだよね」と言って、玲那の歌が下手なのを軽く軽蔑しつつ、未来を推している。
 あれ?おかしいな。心があまり盛り上がらない。いつもなら、フンフンと鼻息を荒くして写真に見入るのに。何故だろう。わかっていた。渡辺鈴だ。鈴さんは、俺の中でアイドルを超えてしまったのだ。
「お前ら、文化祭で使う写真もそろそろ撮っとけよ。ぼーっとしてると間に合わなくなるぞ」
と、部長の飯田が言った。写真部は、文化祭で写真展を開催する。
 被写体は自由で、自然でも人でも動物でもいい。頭に浮かんだのはやはり鈴さんだった。


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