辺境暮らしの付与術士

黄舞@ある化学者転生3/25発売

第101話

カインの話を聞いた途端コハンは渋い顔をした。
自分の尊敬するララを上回る人物の正体が、目の前の妹弟子の身内だと聞いて贔屓の目によるものだと落胆したのか、それとも別の理由か。

ソフィはその様子に勘づきながらも深追いしないことに決めた。
いくらララの弟子だと言っても本当かどうかも分からず、そもそも相手の事をよく知らない。

カインの能力は容易く広めていい事ではないのだ。
先ほどはついうっかりララよりも優れた魔術師として名を上げてしまったが、詳細を聞かれず逆にほっとしている。

「とにかく……呪いならそれを解くのが先決ね。今のままじゃあ話にならないもの」
「それはお主の言う通りなのじゃが、いかんせん方法がない。先ほど言った通りわしが丹精込めて薬を作っておるが、それが出来上がるのは冬を超えた頃じゃろう。幸いエルフ同士で殺し合いをするわけじゃないからの。時間がかかる薬じゃ。それだけはありがたいの」

「冬を越すなんて待ってられない事情がこっちにもあるのよね……そうだ! 私に心当たりがあるわ。試しにやるだけやってみましょ。えーっと、コハンさんなら攻撃されずに近寄れるのよね?」
「うん? 攻撃はされないが、わしは薬以外で呪いを解く方法など持っておらんぞ?」

ソフィは懐からカインに貰ったペンダントを出し首から外すと、机の前に置いた。
以前とは異なり、今は戦友のサラが持つ物と同じ付与魔法がかけられている。

「なんじゃこれは? ミスリルの塊? うん? これはもしや!?」
「出処は教えられないけれど、これをエルフ達にかければ呪いが解呪されるはずよ」

コハンはペンダントを両手で大事そうに持つと目の高さまで上げ、光に透かしたり片目をつぶって眺めたりしている。
やがて納得したように一度大きく頷き、ソフィの目をしっかり見据えた。

「お主、恐ろしいものを持っておるの。まさかこの世にこれ程の宝具が残っているとは」
「あなた、宝具を見ただけで分かるの?」

「うむ。エルフの錬金術士は作った薬に自分の魔力を乗せ威力を付加する。魔術が乗っているかどうかを視ることはその延長にある技術なのじゃ」
「それって師匠、ララさんも出来るの?」

「いや。姉様は錬金術士ではないし。そもそも錬金術士が全てできる訳でもない。わしが特別、という事じゃ」
「それってすごいことなんじゃない?」

ソフィは目の前の姉弟子をまじまじと見つめた。
どうやらこのエルフは、カインの一番の理解者になる可能性を秘めているのかもしれない、とソフィは思った。

「さすがにこれがどのような魔法がかけられているかは分からんが、非常に神々しい力を感じるのじゃ。お主が言うことも信じられぬ話じゃないの」
「じゃあ、試してみる気になったのね」

コハンは深く頷き、ペンダントを握りしめたまま外へ出る。
ソフィもその後を追った。

ちょうどソフィが連れてきた拘束されたままのエルフ達が入口付近に居たため、コハンは早速手近にいたエルフの一人にペンダントをかけた。

「むむ!」

コハンは思わず声を上げた。ペンダントをかけた瞬間、エルフの身体からくろきい煙のようなものが抜け出ていくのが見えたからだ。
先ほどまで虚ろだったペンダントをかけられたエルフの目には正気の色が戻ったのが分かった。

「なるほど……予想以上の効果じゃの」

コハンはそのまま目の前のエルフ達全てにペンダントをかけていく。
次々と呪いが解かれ正気に戻っていくエルフ達。みな不思議そうに辺りをキョロキョロとしていた。

「気が戻ったか。お主達。お主達は呪いに侵されておったのじゃ。ここに居るソフィ殿が持つペンダントの力でその呪いを解くことが出来たのじゃ」

コハンが状況を手短に説明する。エルフ達はそれまでの行動を覚えているのか、口々にソフィへの謝罪と感謝の言葉を投げかけた。
ソフィは自分の意思に反してやったのならしょうが無いと手を振る。

「さて、これから他のみなにも処置をやりたいところじゃが、ソフィ殿が居てはまた攻撃の危険がある。申し訳ないがわしの家の中で待っていてくれないかのう?」
「悪いけど、まだあなたを信用したわけじゃないわ。そのままペンダントを盗んでしまう可能性も考えられる。なるべく離れてみているけど、目に映る位置にはいさせてもらうわ」

「それもそうじゃのう。全く姉様は頼りになる娘を弟子にしたものじゃ。姉弟子として鼻が高いぞ」
「ありがと。さぁ、日が暮れる前にさっさと済ませましょう。敵意を向けられたままの集落に寝泊まりするなんてまっぴらごめんだし」

コハンは手当たり次第にエルフ達の呪いを解いていく。
解かれる度に不思議そうな目を向けるエルフ達に、初めは状況を説明していたが、時間がかかるため途中から後でまとめて説明するとだけ伝えた。

ソフィがエルフの集落に着いたのは正午を過ぎた辺りだったが、全員の呪いを時終わる頃には、既に日は傾き、夜の帳が降りていた。
それほど広くないとは言え反日中歩き続けた二人の内、ソフィは慣れているものの、コハンは足が棒のようになり膝がガクガクと笑っていた。

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