辺境暮らしの付与術士

黄舞@ある化学者転生3/25発売

第69話

「ここがそのドワーフの国の人間の村ってわけ?」

ララは馬車から飛び降りると、そのまま地面の上でくるりと一回転をする。
他のクランのメンバーもぞろぞろと馬車から降りてきた。

「そうだけど、なんか嫌な雰囲気ね。村中の皆が遠巻きに私達を見てるわ。何かあったのかしら?」
「お前さん達も冒険者か? こんな辺鄙な村にぞろぞろとなんの用じゃ?」

白髪の老人が、話しかけてきた。
目には恐怖とも反発とも見える感情が宿っていた。

「この先のドワーフの街に仲間が待っていてな。今日はこの村で宿を借りる予定だ。いくら辺鄙とはいえ、宿くらいあるんだろ?」
「ドワーフの街に仲間ですと? ドワーフの知り合いがおるのか?」

「いや。そいつはれっきとした人間だ。ちょっと野暮用でな。所で、じいさん。俺らもって言ったな? 俺らの他に冒険者が来てるのか?」
「いや、昨日旅立って行ったよ。なんでもグリフォンクイーンを狩るとか言ってな。金払いもいいし、折角の稼ぎ時だと思っていたがね。お前さん達は面倒事を持ち込まないでおくれよ?」

「グリフォンクイーンだと? そんなのがこの山にいやがるのか。なるほどな。そりゃ冒険者達が群がるわけだぜ。それで、じいさん。宿はどっちだ?」
「あっちに赤い屋根の建物があるじゃろう。それがこの村唯一の宿屋じゃ」

「おじいさん。ついでに教えて欲しいんだけど、この村の酒場はどこかしらね? もう、喉が渇いちゃって」
「なんじゃ、随分と体の大きなお嬢さんじゃのう。酒場向こうに見える建物じゃが、今日はやっておらんぞ。昨日、冒険者達が流血騒ぎを起こしおってな」

「あら。お嬢さんなんて、おじいさんお口がお上手ね。それにしても流血騒ぎなんて穏やかじゃないわね。何があったの?」
「それがじゃな・・・」

老人は昨日ジュダールが冒険者達相手に行った蛮行を、多少田舎特有の尾ひれを付けて語った。
ミュー達は、特に珍しくもなさそうにその話を聞くと一言だけ、老人にお礼を言い、宿へと向かった。

「それにしても、酒場がやってないなんて参っちゃうわねー。折角珍しいお酒でも飲めるかなって期待してたのに」
「ミューぴょんはいっつもお酒のことばっかりだねー。世の中にはもっと美味しいものがいっぱいあるのに」

「たくっ。お前らは飲むか食うかのことしか脳にねぇのか」

三人が相変わらず軽口を叩いている間、クランのメンバー達は、老人の口から出たグリフォンクイーンという言葉が頭から離れなかった。
エリクサーの擬似薬の原料の一つである、グリフォンクイーンの頭。

それを手に入れることが出来れば、一攫千金も夢ではないだろう。
もし、カインのクランレイドの対象が想像通り、大したことの無い相手ならば、ついでに討伐することを進言しよう考えた。

もしかしたら、クランレイドの対象自体がグリフォンクイーン本体かもしれない。
いずれにせよ、既にこの村を出たという、冒険者達が見つける前に自分達が見つけないと。

魔物も優先討伐権は最初に遭遇した冒険者にある。
それは、過去に争い事が絶えなかった冒険者間での暗黙の了解だった。

流石にそれを破ってまで、グリフォンクイーンを討伐しよう等とは思わなかった。
そうするだけの魅力が例えその魔物にあったとしてもだ。

逸る気持ちを抑え、クランのメンバー達はそれぞれ宿で用意された、大して広くもない部屋に散っていった。
明くる日、朝早くにルーク達は村を出た。

昨日は、皆、ぐっすりと熟睡出来たようで、眠そうな顔をしているものはいなかった。
ドワーフの街の入口まで着くと、門番だろうか、重厚な武器を携えた短身の男が、出迎えた。

カインの仲間であることを伝えると、門番はルーク達を街の中へと案内し、街の中央にある、大きめの屋敷へと連れていった。
中に入ると、既に来ていることに気付いていたのか、カインが笑顔でルーク達を出迎えた。

「やぁ。皆、来てくれて本当に助かったよ。それにしても早かったね?」
「あんな手紙もらっちまったからな。危うく大事な馬を潰しちまうところだったぜ」

「はっはっは。ルークは相変わらずだね。それと、今回はかなり人選を絞ってくれたようだね。ちょうど良かった。こっちも材料がなくて、そんなに数が用意できなかったんだ」
「用意しただと? まさか、こいつらにも例のものを配るつもりか? ということはミスリルは無事に手に入ったのか?」

「いや。まだなんだ。ミスリルを安全に手に入れるためにはレイドを先に終わらせないとね。それと、これは借り物だから、レイドが終わったら返さないといけないんだ」
「だが、こいつらにまだお前のことは話してない。こいつらが外に漏らすとは思ってないが、本当に必要か? お前も参戦するんだろう?」

ルークが言っているのはカインの付与魔法のことだ。
いくらクランのメンバーとはいえ、カインの付与魔法のことはまだ誰にも教えていない秘密だった。

それを渡すとなると、カインの付与魔法についても教えなくてはならなくなる。
参戦するのならば、わざわざ付与魔法のかかった道具を渡さなくても、通常の補助魔法でいいのではないのか? とルークは聞いているのだ。

「もちろん俺も参加するさ。だが、恐らくそれではかなり厳しい戦いになると思う。まだレイドの相手を伝えてなかったな。グリフォンの群れ。しかも恐ろしく強く数が多い。それが今回、俺達の相手だ」

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