辺境暮らしの付与術士

黄舞@ある化学者転生3/25発売

第30話

何が起きたか分からず一瞬固まる。慌てて持ち上げた手の平から、ぱらぱらと砕けた欠片の落ちる音だけが妙に大きく耳に響いた。
ふと手元に残ったままの欠片に意識を向けると、どうやら白く濁ったのは細かな亀裂が無数に入ったからのようだ。
もう少し詳しく見ようとすると、カインの魔力探知の魔力に反応したのか、サラサラと崩れた。

「えーと。すいません。どうやら不良品が混ざっていたようですね。失礼しました。新しいものを用意しますのでお待ちを」

そういうとパイセンは奥に下がると、しばらくして戻ってきた。

「すいません。お待たせしました。カイン様、先程はどの程度の魔力を消費されたでしょうか。もし、お疲れのようでしたら、日を改めてお越しいただいた方が正確な計測が出来ますが」
「えーと、多分10分の1くらいですかね。私はこのまま続けても構いませんよ」

カインは再度、新しく出されたパイセーの上に手を置くと、魔力を込めた。
先ほどよりも十分に多くの魔力を込めたが中々変化は見られない。
ピシッ。魔力枯渇ぎりぎりの所で、音と共にパイセーに亀裂が入った。

また不良か?と思っているとパイセンが「構わず続けてください」と声を出した。
言われた通り、魔力枯渇まで魔力を込めると、パイセーは先ほどよりも大きな欠片で割れた。

「なんと・・・。失礼致します」

そういうとパイセンは砕けた欠片を一つ一つ丁寧に確認し、大きく頷いていた。

「素晴らしい! カイン様の魔力量は現存するパイセーでは測れません! これは歴史上カリラ様に続く、お二人目でございます! その場に居合わせることが出来るとは!! 感激でございます!」

何だか分からないが、パイセンの男は興奮しているようだ。
カインは襲ってくる頭痛と吐き気に戦いながら、またやってしまったと、独りごちた。

その場にうずくまっているとマチが炎のシャボン玉を吐き出した。
炎球が顔に当たると、幾分か魔力が回復したのか頭痛と吐き気が和らぎ、視界も確保できるようになった。

ちょうど、延長線上にいたソフィも先ほど苦しそうな顔をしていたのに、今は驚いた顔をしている。
どうやら魔力回復の炎球は対象をすり抜け、複数に効果があるようだ。

「カリラと言うのは、災厄のカリラのことかな?」
「その通りでございます」

先ほど気になる名前が出たので、念の為聞いてみると、どうやら当たりだったようだ。

「それで! お父さんの魔力量はどのくらいなの?」

自分だけ蚊帳の外で暇なのか、それとも父のことが知りたいのか、急かすようにサラは声を上げた。

「ええ。魔力量は・・・測定不能、でございます。ただ言えるのは、その量は甚大かと」
「測定不能って測れないってこと?」

「そうでございます。パイセーと言うのは魔力に応じて色がつくものでございます。その色は様々ですが。ところがカイン様が魔力を込められたパイセーは無色透明のままでございます。このままでは魔力量はゼロと勘違いされたかもしれません。しかし、パイセーは砕けてしまった。これはパイセーの許容量を超える魔力が込められたことを意味します」
「白く色付いたのは?」

「白く色付くというのはないことではないですが、今回は細かな亀裂が入り、白く濁ったように見えただけですので、恐らくあれも色という意味では無色ではないかと」
「えーと。よく分からないけど、色が付かないけど、この板が割れるほどすごい魔力量だってこと?」

「その通りでございます。ちなみにカリラ様がパイセーを破壊された時は、光を全く通さないほど黒く色付いたと記録されております」

そういいながらパイセンはソフィに渡した紙と同じものをカインに渡した。その紙には測定不能とだけ書かれていた。



「マスター、よろしかったんですか? 冒険者カードの再発行なんて承認して。なりすましかもしれませんよ?」
「もしSランクの冒険者カードを再発行してくれって奴が来て、それをわざわざ俺に確認しに来るか?」

「いえ。あり得ませんね。冒険者カードの再発行自体は既定として受け付けていますが、Sランクの冒険者カードなど過去の事例があるとは思えません。その場でお引き取り願うと思います。もともと見知った相手なら別ですが」
「その通りだ。知らねぇ、しかも見た目冒険者にも見えねぇ奴がいきなり来て、冒険者カードの再発行をなんて正気の沙汰とは思えねぇだろ?」

「はい。それが何か?」
「だからよ。あいつがわざわざ騙してSランクの冒険者カードを再発行してもらえるなんて思うのはそもそもおかしいだろうが。それに気づいたか? あいつの目、ありゃ見えてねぇぞ」

「え? でも特に行動におかしな点はありませんでしたよ。足取りも滑らかでしたし、書類の読み書きも出来ていました」
「だからよ。あいつは見えねぇ目で、普通と遜色ない生活が出来るってことだ。方法は分からんがな。それだけでも何かすげぇ力を持ってんだろ。それに、ここに着いた瞬間、殴りかかってきた冒険者を軽くいなしたらしいじゃねぇか。酔ってたらしいがな。あいつBランクだろ?」

「そんなことまでご存じだったんですね」
「失礼します。ソフィ様とカイン様の魔力量測定結果をお持ちしました」
「ああ、そこに置いとけ。ん? なんだこりゃ。がはははは。見ろ。間違いなくあいつはとんでもねぇ奴だぞ」

そこには最上級パイセーの破壊により、測定不可能と書かれた紙が置いてあった。それは昔カリラに破壊されたものよりもはるかに多くの魔力に耐えられるようにと開発されたものであった。



大小さまざまな料理が机の上に所狭しと並べられていた。ひと段落付いたと、サラ達の行きつけの店で夕食を取ることにしたのだ。
この街に来るのが初めてのカインに食べてもらおうと、2人が自分のお気に入りやら、名産品やら、次々と注文していった結果だ。

「おいおい。すごい量だな。こんなに食べきれないぞ」
「大丈夫。私もソフィもいっぱい食べるから」

セレンディアは海が近い。足が速い海鮮を食べられるのは海に近い街の特権だ。
小さな粒上の穀物の上にふんだんに海鮮が乗せられ、器になっている金属製の浅い鍋ごと火にかけられたであろう料理を自分の皿に取り分け、食べてみる。
下にしかれたぱらぱらの穀物に海鮮の出汁がしみ込んでいるのか深い味わいがした。

「あ! それ美味しいでしょ? 私もこの街に来て初めて食べたんだ。上の海鮮も美味しいけど、やっぱり下の米が味が染みて美味しいよね」
「米というのか。初めて食べたな」
「こっちも美味しいから食べてみて」

サラはどんどんカインのサラに色々な料理を盛り付けていった。元々食が細い方ではないが、これだけの量を一度に見るとさすがに胸焼けがする。料理も油が多めで、味が濃い気がした。

「そういえば、カインさん。あの災厄のカリラをご存じなんですか? もちろん魔術師なら誰でも知っているような人ですけど、あの時、何か難しそうな顔をしていましたから」
「ああ。知っている。サラには話したことがあるが、詳しく話したことはなかったね。カリラばあさんは私の養祖母だよ。私が小さい時にカリラばあさんに引き取られて、あの人に育てられたんだ」


◇◇◇◇◇◇

前回も含めカインに絡んだ色の表現がありますが、カインは色の違いが探知できません。字の文での色の表記はあくまで第三者視点もしくはその場に居合わせた他の人の視点という理解で読んでいただけたらと思います。

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