インフィニティ・オンライン~ネタ職「商人」を選んだもふもふワンコは金の力(銭投げ)で無双する~

黄舞@ある化学者転生3/25発売

第11話【スタート地点】

ボス狩りに成功し、レベル上限が上がったのでひたすらにモンスターを狩りレベルを上げる。
さすがに上がり方は今までよりも遅くなった。

しかし、ひとまず目標は40だから金儲けよりもレベル上げを優先して、同じモンスターばかりではなくどんどん新しいの狩るようにした。
そのおかげで俺は順調に30まで上がった。

さすがにここまで1日では無理で、何度か睡眠を挟んだ。
不幸にもと言っていいのか、幸いにもと言っていいのか世間は感染症拡大防止のために休講が続き、時間だけはたっぷりある。

俺はボトルに入れておいた飲み物を飲み干すと再びゲーム機をセットした。
飲んだのはもちろんそういう水道水だ。

一瞬だけ失った意識を取り戻し目を開けると、既に何度も見た風景が広がる。
インフィニティタウン。初心者から上級者まで多くのプレイヤーが集まる場所だ。

「さてと。今日はまずレベル上限を上げるためのクエストだったな」

俺は早速クエストを受領できるNPCに話しかけた。

『おお! 君は強そうだな? しかし、そろそろ限界を感じているんじゃないのか? 大丈夫。俺の与えた試練を越えることができれば、さらに高みを目指せるぞ』

髭面の男が定型文を言う。しかし、見た目はどっからどう見ても本当の人間そっくりで、声も流暢りゅうちょうだ。
俺は話を聞き終わると、クエストを受けた。

今回のダンジョンは森林で、ボスモンスターの名前はモルフォス。
蝶の姿をしたモンスターらしい。

ひとまず俺は目的のダンジョンへ進んだ。
入口にも色んなパーティが入る前の最終確認をしている。

「いいか? 回復職はみんなのHPを注意な。ここのボスの攻撃力は大したことないが、いやらしいからな」
「おーけー。あと気付け薬もな。耐性上げてないやついたら事前に教えて」

近くにいるパーティの声が自然と耳に入ってきた。
ロキの影響で攻略サイトを見ることをやめたから、どんなモンスターかは分からないが、特殊攻撃メインなんだろうか。

「おい。あの犬。あいつソロか?」
「犬ー? お。珍しいな。獣人アバターじゃん。まさか。ここのボスをソロ狩りは自殺行為だろ」

「まぁな。ソロだとボスのHP減るんだっけ?」
「逆、逆。パーティメンバーが増えるほどHPも増えるんだよ」

どっちも一緒の意味だろ!
俺は心の中で突っ込む。ここで要らぬことをいっていざこざに巻き込まれてもしょうがないしな。

それにしてもいいことを聞いた。
ソロ、つまり一人でボス狩りに挑むとHPが少なくて済むのか。

俺は心の中で礼を言いながらパーティの横を通り過ぎ、そのままダンジョンへと入っていった。

「森林エリアか。やっぱりここも視界が悪いな」

木々が立ち並び、どこへ進めばいいのかもあいまいな感じだ。
どれだけの大きさか分からないが、ここの中でボスを見つけるのは大変そうだ。

「それにしても相変わらず雑魚がうっとうしいな。お。そうだ。試してみるか」

俺はレベルが上がったおかげで覚えたスキルを今まで一度も使うことなく放置していた。
なんだって、全部「銭投げ」で一発だからな。

「どれどれ……ちゃんと説明も読んでなかったな」

俺は覚えた時にざっと目を通した新しいスキルの詳細を開いた。

【金に目が眩む】
金を光らせ、範囲10mに存在する敵を失明状態にする。使用したジル/(相手のレベル×1000)の確率で付与。使ったジルは消える。

【金に物を言わせる】
自分を中心とした円内の任意の点に物音を発するコインを設置する。円の半径(m)×音の影響範囲(cm)×持続時間(s)=消費ジル。

【金の匂い】
自分を中心とした円内の任意の点に臭いを発するコインを設置する。円の半径(m)×臭いの影響範囲(cm)×持続時間(s)=消費ジル。

えーっと……もう完全にネタだろ。これ。
今まで覚えたスキル尽く金にまつわる名前だけだからな。

ひとまず俺は「金に物を言わせる」を使用して見る。
コインの設置場所は20mほど前方、範囲は……20mくらいにしてみるか。

時間は最も短くて1秒みたいだから、それにしておく。
これで必要なジルは4万ジル。

「おぅ!? うわ。なんかこれ。ちょっと酔うな」

スキルを使った瞬間、脳の中に別の視点が発生した。
自分の目に映る風景の他に、20m先にコインが置かれる風景が一瞬見えた。

『儲かりまっか? ぼちぼちでんな!』

おそらくコインが発した声だと思うが、それが辺り一面に響き渡った。
その音に反応して、様々なモンスターがコインの方へと向かっていく。

「おー。意外とこれ使えるか? 要は音に反応するモンスターのターゲットを奪えるのか!」

おそらく攻撃を与えたら別だろうが、モンスターの注意を引き付けられるようだ。
ふざけた名前の割に有用なスキルに俺はいい気になる。

「うん? なんか反応しないモンスターもいるな。ああ。耳がないのか」

俺は今度は「金の匂い」を使ってみる。
効果は「金に物を言わせる」とほぼ一緒。違うのは音じゃなく、匂いってことだ。

スキルを使った瞬間、さっきと同じように一瞬視界が複数になる。
そして漂うえも言われぬ香り。ちょっとこの匂い好きかも。

さっき反応しなかったモンスターがその匂いに釣られてコインに向かう。
さっき音に反応したモンスターのほとんどもそっちに移動していた。

「なるほどなー。これを上手く使えば、面倒な戦闘は結構避けられるかもなー」

スキルのおかげで邪魔な雑魚モンスターを誘導した俺は、快適に進みながらボスモンスターを探す。
そして、程なくして見つけた。

「でっけぇな。ボスモンスターだからか? 蝶って言うか、蛾?」

鮮やかな青色の羽に赤い大きな斑点がまるで目玉のように左右に一つずつ。
その羽を羽ばたかせる度、小さな宝石のようにキラキラと鱗粉りんぷんが舞う。

「さーて。こいつのHPはどれ位かな?」

「銭投げ」を使おうとした瞬間、こちらに飛んできた鱗粉を吸ってしまった。

なんだ……? なんかすごく眠いぞ。ゲームのやりすぎで疲れてるのかな?

俺は重くなったまぶたが落ちるのをゆっくりと感じていた。
今この目を閉じたら、すごく気持ちよさそうだ。

「やばい!? 『金に目が眩む』!!」

俺は虚ろになった頭を必死で動かし、一か八かスキルを放った。
目の前で突如現れたコインが眩しいほどの光量で輝いた。
あまりの明るさに、眠くてしょうがなかった俺は目を覚ました。

危ない、危ない。状態異常攻撃か。
一人で食らったら全滅必死だな。気を付けないと。

俺は失明したからなのか、元々なのか、ふらふらと宙を舞うモルフォスに向かって、「銭投げ」を使う。
ひとまず金額は前回と一緒。

コインのアラレを受けたモルフォスは、地面を揺らし、そしてポリゴンになって霧散した。
今回も過剰だったようだが、まぁいいだろう。

「それにしても状態異常か……これからはそういうモンスターとも戦わないといけないだろうしな。どうするかな……」

俺はフィールドへ戻るカウントダウンの間、対策を考える。
しかし特にいいアイデアが浮かんでこない。

「レベル40になって、ヒミコにカスタマイズをお願いする時が来たら聞いてみるか。それまではひとまず気を付けるしかないな」

フィールドに戻り俺はクエストの報告をする。
これでレベル上限が40まで上がった。後はひたすら狩るだけだな。

俺は適正レベルのモンスターよりも少しレベルの高い狩場でモンスターを狩り続けた。
最近知ったことだが、モンスターのレベルが低すぎると経験値が入らないように、高いと補正がかかり貰える量が増える。

この辺りになると、モンスターのドロップアイテムも価格はそれなりだが、取引量がそれなりに多く簡単に相場操作するのが難しい。
俺は儲けにこだわらず、レベル上げ重視でモンスターを狩っていく。

とにかく40に早くならなくては。
そうしている間に上位のプレイヤーは更に先に進んでいるだろう。

停滞している暇はない。
俺はまだスタート地点にすら立っていない。

とにかくがむしゃらに、インしている時はほとんど狩っていると言っても良いくらい狩り続ける。
そのかいあって、俺はレベル上限解放から、たった2日で目標の40までレベルを上げた。

「よっしゃあ! ようやくこれでβからのプレイヤーと同じスタート地点に立てたぞ! こっからが本番だ!!」

俺は喜んでその場で飛び跳ねてから、今まで貯まりに貯まったアイテムを全て売り払った。
結局多少の増減を繰り返したものの、収支はプラスに収まった。

「そうだ。早速あいつらに知らせないとな。ずっと狩りっぱなしで、全然連絡してなかったけど大丈夫かな?」

ちょっと不安になりながらロキとヒミコにメッセージを送る。
ゲームでできた知り合いなんて初めてだから、数日間の放置というのがどの程度の意味なんか分からない。

俺の心配をよそに、すぐに二人から返信が来た。
相変わらずヒミコのテンションは高い。

『まぁ!? もう達成しましたの!? 驚きですわ!! 素敵ですわ! 早速新しい装備についてお話したいですから、会いに行きますわ!! 今どこにいますの?』

ロキも彼らしいメッセージの内容だ。

『やったね! 初めて会った時はすぐにアバターを変えると思ってたけど。君の目標、天下に向かってこれからも頑張ってよ。応援してるからさ』

二人に祝福され、嬉しい気持ちのなる。
これからやることはさらに増え、目標達成までは長い道のりだろうが、俺は改めて頑張ろうと心に決めた。

ポンッ。メッセージが届く音がして、再び俺は画面を見る。
ロキが続けざまにメッセージを送ってきたようだ。

『こっち側へようこそ』

俺はそのメッセージに一度だけ強く頷いた。

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