僕が主人公じゃない方です

脇役筆頭

18.臆病なのは主人公じゃない

いつものように手錠をしてもらおうと両手を差し出す。しかし、いつまでたっても錠をしてこない。手錠は必要ないのだろうか?刑務官が動かない。

不思議に思いつつ刑務官を表情をうかがうと、少し怒っているような、頼んだアイスと似ているが別物のアイスを買われたときのような何とも言えない表情をしている。沈黙の中、俺の背後からレイが静かに文句を言っているのが聞こえてきた。

「あんた死刑囚なんだよ?これ以上罪は重くならないんだから、表立って逆らうまではしなくてもその逆は見ていて苛立ちを覚えるのだけど?」

俺は返事をせずにゆっくりと両手を下げる。レイはこの監獄に入ってから不機嫌なことが多い。楽しそうにしている時と言ったら、囚人同士のまぐわいを見ている時ぐらいだったりする。

そうか、俺に苛立っていたのか。ならば今のように口に出して文句を言って来ればいいのに…。

「ちょっとこっち来い。」

刑務官が乱暴に俺の腕を引っ張る。刑務官の負担にならないように彼の荒々しい歩みに合わせて小走りする。その光景に呆れたようなため息をつくレイは、姿を消してしまった。見ていられないということか?

連れてこられたのは前回のようなガラス張りの部屋ではなく、トイレであった。当然、レイは消えたくせにいつの間にやら俺たち二人の上空を漂っている。感情の振れ幅に疲れたりしないのだろうか。

手錠もせずに俺に向き合う刑務官は俺の肩をつかんで、その整った顔についている目で顔をのぞき込んできた。レイが小さい歓声を挙げる。聞こえるか聞こえないかぐらいのボリュームなのにうるさく聞こえるから不思議だ。

「俺を覚えているか?」

全く記憶にない。しかし、その文脈から俺はお前を覚えているぞと言いたげである。イケメンだし、知り合いなら覚えているとは思うが…。いや、違うじゃないか。今の俺の顔は俺じゃない。ソーンの顔である。

つまり、この体は俺の意識が入る前に別の人格が動かしていたということか?

そういえばこの体についてあまり考えなかったな。

「わからないです。」

あ、これもしかして『この刑務所で何度か顔を合わせているが覚えているか?』という問いだったのでは?しかしその目的がわからな…。頭上に浮かぶレイがうんうんと頷いているのが見えて非常に不快だ。刑務官も俺に気があるとでも言いたいのか?

「そうか…。」

刑務官は肩から手を放して、疲れたように首に左手を当てる。何か考えているようだ。過去にどこかで見た顔か?いや、同じようなイケメンと見間違えている可能性もあるな。

「一ついいか?」

そういいながら天井をみる刑務官。

「はい、何でしょう?」

「ねえ…この人やばくない…?」

俺が二つ返事で承諾すると同時にレイが天井付近から俺に声をかける。ちょうど刑務官が見ている方向からだ…?

ぞっとした。

刑務官は確かにレイのことを見ていた。どういうことだろうか?何かまずいことでもあるかと聞かれればそんなことはない。しかし、俺はレイが見えることを隠すため強張る体から力を抜き、レイに決して視線を向けなかった。

なぜ咄嗟に気づかれないようにしたかはともかく、情報はむやみに流さないほうがいいのは確かだ。俺は首をかしげて愛想笑いのような笑顔をつくる。刑務官は、レイに顔を向けたまま視線をギョロリと俺に向けてきて、少し笑いながら歩いてくる。

動けない。動かないほうがいい。動けば確実に一歩後退してしまい、俺が刑務官の言葉か行動で動揺しているのだと悟られてしまう。
逸らせない。逸らさないほうがいい。今視線を逸らせば確実にレイを見てしまう。
しゃべれない。しゃべらないほうがいい!今口を開けば何かしらボロがでる!

引きつる笑顔と感情をごまかそうと愛想笑いが大きくなり、笑ってしまう。まるで見つめられて照れてしまったようだ。じりじりと距離を詰めた刑務官は俺の目の前まで来ると俺の耳を舐めるような声で撫でてきた。

「あんた、生き返ってたりしないか?」

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