僕が主人公じゃない方です

脇役筆頭

12.女装するのは主人公じゃない

「ソーン!なんで無視するの?」

俺は骨から服を脱がせてせっせと着る。どう見ても女物だ。

「見えているのはわかってるし、聞こえているのも知ってるんだからね!」

俺は何も言わずに街のほうへ歩く。目の前をウロチョロする幽霊に焦点を合わせないように注意しながら足元を見る。水浸しのロングスカートがまとわりつきとても歩きにくい。濡れた服は驚くほど重かった。

幽霊が何を言おうと相手にせずひたすら歩き続けるが、向こうも負けじと付きまとってくる。それとは別に疲れてきて、とうとう音を上げてその場に座り込む。疲れ切り、あと少し歩けばというところにある街に目を凝らす。見つめていたら街までの距離が縮んだりしないだろうか。

ぼんやりと馬鹿げたことを考えていると、それを邪魔するかのように幽霊が頬を膨らませて前に立ってきた。かわいいが、何をされようと俺は動じない。おかしなことをスルーできる能力には特別自信があるのだ。伊達に父親二人の間から生まれてきていない。

バサ。

俺は思わず視線をそらしてしまう。

「やっぱり見えてるじゃん!」

「…わかった、僕の負け。だから早くスカートを…目のやり場に困る。」

まさかそんな手段があったとは…。彼女は誇らしくスカートから手を放す。俺は彼女のことが見えていることを肯定するのだった。

「なんで無視なんてするの?」

無視していたわけではない。俺についてきても面白いことはない。君のためだ。無視したらついてこないだろ?

「ああ、そうだな。」

俺は建前を口に出そうとして心の中で考えた建前に相槌を打ってしまった。どうやら心の奥では、それほどまでにどうでもいいことだと認識しているようだ。痛恨のミス。

会話をする気のない返答にがっかりしたようで、宙に浮きながら体育座りをする幽霊。日が昇っているのに余裕で実体化をしている。生前はどんな怪物だったのやら。

「はぁ…。でも、本当に見えているとは。私の言葉を聞いてもらえる存在がいるってだけで救いではあるのかな。」

む。あと少しで俺が本当に見えていないと信じ込ませることができたのか…。なるほど…。

俺は突然立ち上がり慌てた様子であたりを見回す。

「…?どうしたの?」

俺は無視して何かを探すかのように付近を歩き回る。

「おい、どこ行ったんだ?」

俺が霊を探し回る姿を見て、本当にあきれたといった感じで、「もういい。」という一言とともに姿を消してしまった。

さすがにやりすぎたか?霊について、何が本当でいつ死んだのかなど、全く聞いてやっていない。もし、懺悔したいから幽霊になっていたのだとしたら、話を聞けば…。

考えすぎるのはよくない。柄でもない。

思考を放棄し街を目指す。この体の運動不足といったら…。息を荒くしながら、足にまとわりつくスカートをたくし上げる。何事もなく町の近くまで来ると、町の住民らしき人を見つけることができた。今度は人だといいんだが…。

…。

案外、面倒くさがっている俺自身のほうが面倒くさい性格をしているのだろうな。親父やカイルも臭い男ではあったのだろうが、このような他人が面倒くさいと思うことはしなかっただろう。

霊に悪いことをしたな。

俺は少し笑顔を作るよう心掛けながら話しかけようと手を振る。こちらに気づいた住人は俺に気づくと、こちらに走ってきた。愛想のいい挨拶をしようとしたところで、初対面の人にしては荒っぽい挨拶をかまされる。

腕をからめとられ、そのまま地面に抑え込まれる。俺は戦う意思と抵抗の意思がないことを表明するため背中でからめとられていないほうの手で住民を軽くたたく。

すぐに他の住民も来てあっという間に縛り上げられた俺は、初めて会った住人が「女装をした変態」と口にするまで堂々としていたことを、恥ずかしく思うのだった。

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