僕が主人公じゃない方です
10.聞くだけなのは主人公じゃない
「始まりは、父が酔って帰って来た時だった。」
もらった服を腰に巻いていると、彼女が落ち着いた声で語り始めた。
「すごくご機嫌で、どうしたんだろうって。特に気にも留めなかった。まさか許嫁の話が成立したなんて思いもしなかった。あの男は私を売ったの。」
急に重すぎない?よくあるやつだと思って軽く聞いてしまっていた。
「それを知ったのは翌朝で、私を迎えに来たという知らない男に連れていかれた。」
同人誌にありがちだ。俺が足を止めると、それに気づいた彼女も足を止める。こっそり逃げられないようだ。詰んだ。
「私と同じくらいの男性で、カイルっていうの。とてもいい人だったけれど、どうしても受け入れられなかった。ただただ臭かったの。」
うちの父もカイルだったな。カイルが臭いというのに何の違和感も感じない。彼女は海を眺めながら弱弱しくつらそうな顔で笑みを作る。
…間が長い。彼女は黙ったままだ。
「どこが?」
とりあえず適当に質問してみる。体臭なのだろうが、もしかしたら口臭かもしれない。父は酒臭かった。
「どこが?考えもしなかった…。強いて言えば存在かな。彼のすべてが臭かったの。」
俺の反応を待っていた割には雑な返事だな。
「…?」
何か反応をしようとしたが、あまり理解ができなかったので彼女の作る足跡を注意深く観察した。彼女の踏んだ場所を中心に色が薄くなる砂。足が離れると元の色に戻る。俺と同じで裸足で歩いている。
「口を開けば胡散臭い。何をしていても青臭い。何かにかけてどんくさい。」
え、急にうまいことを…?俺で遊んでる?
「私のことが好きなのにいざというときには頼らないし、一緒にいたいとかお願いすらしてこない。」
立ち止まって振り返り、こちらを見つめてくる。確かに整った顔立ちだ。きれいだと言いそうになるが、彼女の言葉を思い出して一言感想を述べる。
「えっと…水臭い人なんだ。」
言わされた感。何も言わずに満足げに鼻から息を吐き、再び歩き出す彼女。なんだこの恋愛ドラマの一シーンみたいな光景は。裸の男が死角から出てこないかと身構えてしまう。受け入れられなかったけど好きだったというオチは許さない。
「私はこんなに臭い男は嫌いだった。」
許す。あなたも面倒くさいからお似合いだと思います。
「私は彼を避けていたのだけど、そんな中一人のかけがえのない人と会うことになるの。」
王子様だろうか?
「メイドの千代。」
急な日本名。
「連れてこられてからずっと閉じ込められている私に、友達のように接してくれたの。」
カイルから犯罪のにおいも漂ってきた。
「私たちは意気投合し、今では何をするにも一緒なぐらい仲がいいの。寝る時も一緒だから多分トイレとかぐらいかな?一緒にいないのは。」
笑う彼女。現在進行形で千代と別行動中。まさか服とかに名前を付けているとかないよな…。
「そう、街に出たかけたとき。ちょうどその時。千代がトイレに行ったすぐのことだった。知らない男が話しかけてきたの。名前はウェンビル。私は彼のことが好きになる。」
運命の出会いというやつか。三角関係成立。
「私とウェンビルが話に花を咲かせていると、千代が帰ってきた。なんの偶然か、二人は知り合いだったの。奇遇だなと笑うウェンビルに千代は疲れた表情をしていた。」
カイル→こいつ→ウェンビル→千代?こいつの名前を聞いていなかったがあまり重要だと感じないな。
「その後、ウェンビルはしつこいぐらいに私に会いに来た。どういうわけか、ウェンビルが来る少し前にはうまい具合にカイルが席を外すことが多かったのを覚えている。」
カイルは千代とできてたんじゃないのか?
「いつしかカイルを除いた三人がいつものメンバーになっていた。あの時が一番楽しかったし、幸せだった。」
自宅にてハブられるカイル。そろそろクライマックスのようだ。海岸沿いを歩きすぎたようで、振り返ると街が後方、はるか遠くに見える。
「私はいつの間にか、カイルがかわいそうになっていたの。こんな感情さえ生まれなければ…。あんな奴、臭いだけの男だって最初から知っていたのに…。」
やはり千代とできていたのか?それによって三人の関係が壊れるのだろうか?千代が好きなウェンビルが居心地が悪くなり会いに来なくなるとか。
「カイルが私との会話の後自室に戻るのを見て、やはりウェンビルの話をしようとカイルの部屋に向かったの。そこには千代がいた。」
不倫現場の目撃か。あまり面白い話ではなかったな。
「よだれをたらし興奮する千代に私は恐る恐る声をかけた。何をしているの?って。」
急に生々しい描写。案外鋼メンタルのようだ。いや、こいつはウェンビルが好きだったな。こいつにとってショックではあるが、ダメージはないに等しいのか。
「千代は見たことがないほど取り乱していた。あれほど驚きに満ちた千代の顔は、何度かしか見たことがなかった。」
何度か見たことがあるのか…。それより俺は現場を目撃していながら何をしているか質問できるこいつの無神経さに驚きだ。
「千代が走り去った後、ドアをノックしようとした私は、好奇心に負てしまった。千代にならってドアの隙間から部屋を覗いたの。」
…ん?千代は部屋の中にいたわけではない?ドアの隙間から部屋をのぞいていたのか。…ドアの前で興奮していた?
「扉の先には厚い接吻をするカイルとウェンビルがいた。」
夜空には雲一つなく、満月が笑うように煌めいている。真っ黒な海はきらきらと反射し、星たちが踊っているようだった。
もらった服を腰に巻いていると、彼女が落ち着いた声で語り始めた。
「すごくご機嫌で、どうしたんだろうって。特に気にも留めなかった。まさか許嫁の話が成立したなんて思いもしなかった。あの男は私を売ったの。」
急に重すぎない?よくあるやつだと思って軽く聞いてしまっていた。
「それを知ったのは翌朝で、私を迎えに来たという知らない男に連れていかれた。」
同人誌にありがちだ。俺が足を止めると、それに気づいた彼女も足を止める。こっそり逃げられないようだ。詰んだ。
「私と同じくらいの男性で、カイルっていうの。とてもいい人だったけれど、どうしても受け入れられなかった。ただただ臭かったの。」
うちの父もカイルだったな。カイルが臭いというのに何の違和感も感じない。彼女は海を眺めながら弱弱しくつらそうな顔で笑みを作る。
…間が長い。彼女は黙ったままだ。
「どこが?」
とりあえず適当に質問してみる。体臭なのだろうが、もしかしたら口臭かもしれない。父は酒臭かった。
「どこが?考えもしなかった…。強いて言えば存在かな。彼のすべてが臭かったの。」
俺の反応を待っていた割には雑な返事だな。
「…?」
何か反応をしようとしたが、あまり理解ができなかったので彼女の作る足跡を注意深く観察した。彼女の踏んだ場所を中心に色が薄くなる砂。足が離れると元の色に戻る。俺と同じで裸足で歩いている。
「口を開けば胡散臭い。何をしていても青臭い。何かにかけてどんくさい。」
え、急にうまいことを…?俺で遊んでる?
「私のことが好きなのにいざというときには頼らないし、一緒にいたいとかお願いすらしてこない。」
立ち止まって振り返り、こちらを見つめてくる。確かに整った顔立ちだ。きれいだと言いそうになるが、彼女の言葉を思い出して一言感想を述べる。
「えっと…水臭い人なんだ。」
言わされた感。何も言わずに満足げに鼻から息を吐き、再び歩き出す彼女。なんだこの恋愛ドラマの一シーンみたいな光景は。裸の男が死角から出てこないかと身構えてしまう。受け入れられなかったけど好きだったというオチは許さない。
「私はこんなに臭い男は嫌いだった。」
許す。あなたも面倒くさいからお似合いだと思います。
「私は彼を避けていたのだけど、そんな中一人のかけがえのない人と会うことになるの。」
王子様だろうか?
「メイドの千代。」
急な日本名。
「連れてこられてからずっと閉じ込められている私に、友達のように接してくれたの。」
カイルから犯罪のにおいも漂ってきた。
「私たちは意気投合し、今では何をするにも一緒なぐらい仲がいいの。寝る時も一緒だから多分トイレとかぐらいかな?一緒にいないのは。」
笑う彼女。現在進行形で千代と別行動中。まさか服とかに名前を付けているとかないよな…。
「そう、街に出たかけたとき。ちょうどその時。千代がトイレに行ったすぐのことだった。知らない男が話しかけてきたの。名前はウェンビル。私は彼のことが好きになる。」
運命の出会いというやつか。三角関係成立。
「私とウェンビルが話に花を咲かせていると、千代が帰ってきた。なんの偶然か、二人は知り合いだったの。奇遇だなと笑うウェンビルに千代は疲れた表情をしていた。」
カイル→こいつ→ウェンビル→千代?こいつの名前を聞いていなかったがあまり重要だと感じないな。
「その後、ウェンビルはしつこいぐらいに私に会いに来た。どういうわけか、ウェンビルが来る少し前にはうまい具合にカイルが席を外すことが多かったのを覚えている。」
カイルは千代とできてたんじゃないのか?
「いつしかカイルを除いた三人がいつものメンバーになっていた。あの時が一番楽しかったし、幸せだった。」
自宅にてハブられるカイル。そろそろクライマックスのようだ。海岸沿いを歩きすぎたようで、振り返ると街が後方、はるか遠くに見える。
「私はいつの間にか、カイルがかわいそうになっていたの。こんな感情さえ生まれなければ…。あんな奴、臭いだけの男だって最初から知っていたのに…。」
やはり千代とできていたのか?それによって三人の関係が壊れるのだろうか?千代が好きなウェンビルが居心地が悪くなり会いに来なくなるとか。
「カイルが私との会話の後自室に戻るのを見て、やはりウェンビルの話をしようとカイルの部屋に向かったの。そこには千代がいた。」
不倫現場の目撃か。あまり面白い話ではなかったな。
「よだれをたらし興奮する千代に私は恐る恐る声をかけた。何をしているの?って。」
急に生々しい描写。案外鋼メンタルのようだ。いや、こいつはウェンビルが好きだったな。こいつにとってショックではあるが、ダメージはないに等しいのか。
「千代は見たことがないほど取り乱していた。あれほど驚きに満ちた千代の顔は、何度かしか見たことがなかった。」
何度か見たことがあるのか…。それより俺は現場を目撃していながら何をしているか質問できるこいつの無神経さに驚きだ。
「千代が走り去った後、ドアをノックしようとした私は、好奇心に負てしまった。千代にならってドアの隙間から部屋を覗いたの。」
…ん?千代は部屋の中にいたわけではない?ドアの隙間から部屋をのぞいていたのか。…ドアの前で興奮していた?
「扉の先には厚い接吻をするカイルとウェンビルがいた。」
夜空には雲一つなく、満月が笑うように煌めいている。真っ黒な海はきらきらと反射し、星たちが踊っているようだった。
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