僕が主人公じゃない方です

脇役筆頭

6.死なないけど主人公じゃない

俺は痛みにもだえるが、一拍置いて痛みが徐々に薄れていくことに気付く。

息を荒くしながら、手首の断面と落ちた左手、縛られていた縄に目をやる。手首からは血が流れているが、落ちた左手から血がは流れていない。縛られていた縄は変わる様子なく頑丈に結ばれていた。

手首を眺めていると、俺が落ちてバランスが崩れたのか垂直に刺さっていた机が俺と反対側に倒れた。倒れた側に何かあったようで、変にバウンドし何かが潰れる音がする。

俺は手首に左手がくっつくのでは?と考えておでこで押さえながらグリグリと押しつけてみる。

お?

歪にくっついてしまった。左手が動く。くっつくと思っていなかったから裏返しになっているが、痒みもなくなったしまあいいだろう。

他の部位も探そうと探し回ると、わりと近くに体が落ちていた。すごくグロテスクだが、自分の体だと思うと少し我慢できる気がする。パズルの時間か。

思った以上にバラバラになっていなかったようで、腰から下と右腕以外は揃ってしまった。右腕の痛みはまだ続いているが、左腕と体だけでさっきよりも動けそうだ。

足はどこへ?手がかりとなるような血飛沫を探そうにも、天井まで赤黒い血がべっとり。これ全部自分の血なのか。

しばらく探すと倒れた机の下から痣だらけの下半身が出てきた。無理やりくっつけたら立つことができた。

あとは右腕。たしか、窓の外に飛ばされていたよな。

俺が外へ出ようとドアノブにを捻ろうとした時、左手首が突然骨が折れるようなゴキリという音を上げて元の形に戻った。あまりの痛みに左手首を押さえてその場に崩れ落ちると、追撃のように腰が何かを潰したような音を立てて痣が消えた。

徐々に痛みが薄れていく。先ほどまで喧嘩していたのが嘘であったかのようにいちゃつき始めるバカップル並みに傷跡がない。

残りの痛みがない傷に意識が行く。恐る恐る立ち上がろうとしてすぐに次は頭、胸と身体の間に痛みが走り何かが潰れるような、混ぜるようなグシャグシャッという音がして先ほどより大きな、かつ感じたことのない痛みが走る。

俺は息ができなくなり、叫び声以上に身体全身に力が入る。大量の冷や汗が出て、しばらくしてハァハァと仰向けになったまま動けなくなった。

右腕要らなくね?

右腕くっつけたら同じ痛みきそう。なんのチート能力の副産物か知らないが、もう2度と怪我をしないと考えながら右腕があるであろう方向とは別の方向へ歩き出す。

ウッキーの家だ。

ここでの生活半年か?とてもお世話になった。頑張って作っていた鏡も今ではいい思い出だ。薄い金属箔を作りガラスと平らにした木の板で挟んで作った。

そこに写っていたのは右目を瞑ったウッキーの顔。そうか、こいつの体と共に生きていかないといけないのか。気になって右目を開いてみると、潰れた右目もいつのまにか治っていた。

鏡を俺の腰ぐらいの高さしかない家の屋根で叩き割ると、火の魔法で燃やそうとする。あ、右手がない。

俺は左手に魔力を集めて『ウッキーの家』と幼稚に書かれた看板を燃やし、その場を後にする。

さらばウッキー。これからは…!!

あまりの痛みに俺は再びウッキーの家に走り出す。なんだ、ウッキーの呪い?いや違う、傷んだのは心ではなく右腕だ。

ウッキーの家ではなく、右腕から離れたら痛むらしい。近づいたら和らいだ。

俺はそれを頼りに右腕を探すと、茂みの中に落ちていた。実は一度踏んでしまったが、俺の腕だし問題ないだろう。左手でゆっくりと右ひじにつける。

案の定、暫くして痛みが来たが、覚えのある痛みだった。イカ人間に攻撃された時と同じ痛みだ。涙目になりよだれが垂れる。涎を袖で拭う。あ、俺裸じゃん。

俺は一旦ご主人の家に行き、初めに着ていた服を頂戴する。綺麗に洗われて畳んであった。やっぱりご主人優しかったな。

俺はウッキーの家の中に穴を掘り、燃えたウッキーの家の看板と、ご主人の大切にしていた本をいくつか埋めた。

安らかに眠れ。

さて、これから問題になるのは、目的地だ。

サイコパス女を探そう。名前を聞きたい。近辺情報を知りたいし、まずは猿山か、ビルか。目的地はビルで、軽く猿山によることにするかな。他にしたいことないし。

星空を見上げながら、しんみりとする。そういえば父とち…母は元気かな。俺がいなくなって寂しくないかな。

『酒は?』『酒もってこい!』『よく持ってきた!』『水じゃねえか!』

『うふふ』『ママって呼んで』『黙れ、飯はない』

今でも鮮明に思い浮かぶ、忘れもしない父と母の言葉。これ以外に何を話していたか覚えていない程だった。俺はその日野宿だったが、そのことを考えたらぐっすり眠れた。

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