薄桜記 1~彩~【いろ】 なろう、カクヨムでレビュー頂きました。そろそろ佳境!お見逃し無く。

綾乃 蕾夢

24.紅桜の記憶

 鳥居に現れた妖魔に全身が凍り付く。

 まさか、大岩の白い鬼。
 やっぱり移動した訳じゃなかったんだ。
 今までどこに居たのか。
 疑問は残るが、戦いは避けられそうにない。

 左手が、ドクドクと脈打つ。
 胸元に引き寄せた左手を右手が覆う。

 大丈夫。兄様が帰って来るまでは持ちこたえる。
 御神体、神刀〈紅桜〉。

 ギュッと瞳を閉じた瞬間、脳裏に鮮やかに蘇った。

 〈紅桜〉を握る手。
 〈紅桜〉と対峙たいじする妖魔。
 〈紅桜〉が突き刺す、長い白髪のうなじ。
 〈紅桜〉が手から滑り落ち、刃に写る若い巫女。
 散る〈紅桜〉

 弾かれたように開いた瞳が、手のひらを見る。
 これは……。〈紅桜〉の記憶?

 境内の澄んだ空気が、波紋を描くように瘴気に侵されていく。

 来た。

 ざざざざざざっっ……。

 風の音に触れた桜の樹からいく枚もの花びらが舞い、私の頬を撫でていく。

 こんな時だと言うのに、青白い満月に照らし出された桜吹雪の美しさに目を奪われる。

 桜吹雪のその奥。
 禍々まかまがしい白い鬼が回廊からこちらを見ていた。

魄皇鬼はくおうき……」

 そうだ、私は〈紅桜〉は知っている。

「久しいな、〈紅桜〉」
 いとしい者をでるかのような青年の声に、私は両の手を合わせた。

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