薄桜記 1~彩~【いろ】 なろう、カクヨムでレビュー頂きました。そろそろ佳境!お見逃し無く。

綾乃 蕾夢

16.機会


 許さない。

 悲しみは、絶望から沸々と湧き上がる怒りへ変わる。

 辺り落ちる、しおれた数本の花。
 おミヨの小さな身体を草の上に横たえて、手の平で瞳を閉じさせた。

 連れて帰るからね、ちょっと待っていて。

 落ちた手を胸の上に重ねようとして、硬く握った手に触れた。
 何か握り締めている?

 ゆっくりと開く小さな手の中にはクシャクシャになった和紙。
「鬼封じの札。
 何でおミヨが」
 取り出すと、はらりと落ちる漆黒の羽。

 アイツだっ!

 憎しみの中で一瞬、脇腹の痛みを強く感じる。
 まだ九つのおミヨの身長では、大岩の札には手が届かないはず。
 妖魔も自分では触れられないと悟って、おミヨを抱えて飛んだのか?

 かたきはとった形になったが、だからと言って気が晴れる物ではない。
 あの妖魔は他の子供も狙っていた。

 鬼封じの札を手で伸ばす。
 見慣れた兄様の文字。

 これだ。
 この札を持っていたから、妖魔はおミヨの亡骸を傷つけられなかった。
 兄様。

 まるで計ったかのような偶然。
 いや、機会を伺っていたんだ。
 元々兄様は明後日には京都みやこに立つ予定だった。

 札をふところにしまい、歩みを進めた。

 砕けた大岩の中を覗き込む。
 やはり何もいない。
 ひんやりとした空気は、日影から出る物だけでなく、染み付いた禍々まがまがしさを感じさせた。

 確かにここには何かが居た。
 そう感じさせるには充分な程。

 どこかへ行ったのか?
 ここへは戻らないのか?

 自問したところで答えは出ない。
 夜には兄様が帰ってくる。
 せめてそれまでは、何事もなく過ぎてくれ。

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