Liar×Liar

やの



 「斉木くん、おはよう」

 教室に入ると、クラスメイトの黒瀬が、控えめな笑顔で言った。

 黒瀬は明るい栗色で、前髪を目の真上で切っている。髪は肩の上のライン。
 いつもワンパターンに綺麗に整えられていた。


 俺はチラリと黒瀬の方を見やったが、そのまま自分の席へと向かう。


 黒瀬の隣の早川が、俺を見て言った。

「斉木、挨拶くらいしろよ」

 ちなみに早川は、黒髪短髪高身長無口キャラという、古き良き時代の文武両道を極めた"軍隊系の日本男児"さながらのルックスである。
女が放っておかないタイプの人間である。

 だが、こいつは何故かいつも黒瀬の隣にいる。彼氏ってことなのだろうが、正直過保護だと思う。


 あと、他人である俺が言えたことではないけれど、距離が近すぎてよく疲れないなって思う。


 俺は、早川の方は見ずに、無視して、自分の席についた。

「まあまあ、私は大丈夫だから。落ち着いて」

と、黒瀬が苦笑して、早川をなだめているのが聞こえる。


 "チッ、バカップルめ"

 そう思いながら、俺は、教室の時計を眺めた。




 俺は、"ユートピア"と呼ばれている学園に所属する、候補生の身だ。

 毎年300人近い人が志願し、試験をパスした200人が入学する。能力が及ばない、と判断されると即退学。

 毎月10人から50人近くの人がこの学園から去る。

 だから、たとえ仮に入学できたとしても、卒業できるのは20人から60人と言われている。


 また、その中でも成績優秀でトップにしか入れない"特殊部隊"に所属することは、更なる難解を極める。

 まず、普段の成績は、上位10番内に入ることが求められる。成績は筆記、実技の両方が課せられるため、どちらかだけができたとしても、受験資格を得ることはできない。

 そして、その上で入隊試験を突破することが必要である。試験内容は、口外禁止。

 また、受験資格は入学して10ヶ月後の一度のみ。噂では、試験の不合格者は"全員死んだ"と言われている。まぁ、実際のところは、知る由もないが。



 現在は、午前7時28分。試験が始まるまで、残り12分ある。


 この教室の机は計7席分。1人だけ、まだ来ていない。


 黒瀬と早川はクラスが同じだったため知っているが、他の奴らは知らない。けど、どうでもいい。


 どうせ、ここにいる奴らとつるむことはないだ「なぁなぁ、君、斉木くんってゆうねんな。初めまして」


 "チッ"、思わず舌打ちがこぼれる。

 俺に話しかけてきた男はパッと見た感じ175あたり…。俺より背が高いが、早川よりは低そうだ。ムカつく。


 そもそも、俺はあからさまに"人工色な髪色"の男も女も信じない。つまり、こいつは論外である。てか、なぜこいつの頭はピンクなんだ。

 脳内溶けてやがんのか…?

 それに人畜無害さながらニコニコしやがって。楽しくないことでもウケれる低能かよ。


「俺はあか「興味ないから」


 長くなりそうな言葉をぶったぎる。黒瀬が心配そうに、こちら側の様子を伺っている。


「あーあ、フラれてしもうたわー」

 目の前の男は、気を害した様子を微塵にも感じさせることなく、ニコニコしたままである。手首をブラブラさせてケラケラ笑う。

 本当にこいつの思考は意味が分からない。まあ、何考えていようがどうでもいいが。



 ガラッ

 教室の前の扉が開く。試験まで残り7分。俺は音のした方を見やる。


 すると、抜群のプロポーションの女が、着崩した制服で入ってきた。こいつの頭の色はオレンジである。意味が分からん。


「お、こらまた別嬪さんや。今年は、ほんとべっぴんさん揃いで、大当たりやなぁ」

 このチャラ男、ルックスしか興味ないのか。見た目も言動もバカ丸出しだ。

「おねいさんは何てゆうん?俺は赤羽界斗やでー。カイトってゆーてな」

 "ニコっ"と語尾にプラスして、女の前に移動したピンク頭が言う。



 オレンジ女は、真顔から目と口角を変形させて声を発した。

「ん、カイトね。よろしく。私は遊華よ。私も"ゆうか"って呼び捨てで良いわ」

 声は、見た目から予想されるものよりも、高く女の子らしかった。




 試験開始時刻まで、残り二分…。


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