100年生きられなきゃ異世界やり直し~俺の異世界生活はラノベみたいにはならないけど、それなりにスローライフを楽しんでいます~

マーくん

第31話 ドラゴン肉は美味しかったですよ

さて翌日、今日こそは温泉を掘り当てたいところだが、さすがにラスク亭にも顔を出さないわけにはいかない。

俺はセバスさんに外に出る旨を伝え、タマ改めミーアを連れて屋敷を出た。

先ずはスタイロンさんの店を目指す。

ミーアが専属になったし、依頼も受けなきゃね。

もちろん、ミーアはあの店に居候していることになっているから、ミーアの姿になる時は、あの店から連れ出さないとおかしいじゃないか。


キャリーン!

「いらっしゃい!
おっヒロシか、久しぶりだな。

お前、王家から屋敷を下賜されたらしいじゃねえか。

それも先王が住んで居られたあのでっかい屋敷だって聞いたぜ。」

「ああ、ミーアに聞いたんですね。

ええ、いろいろありまして。
ようやく慣れてきたところですよ。」

「もう街中が知っているよ。
謎の男ヒロシって、街中の妬みをかってるぜ。

ここまでの道で気付かなかったのかい。

全く鈍感なのか、図太いのか分からねえやつだな。」


いけね、気配察知を切ってあったんだっけ。

気配察知を少しだけ戻す。

うわっ、凄い妬みや嫉み、殺意まで押し寄せてきたよ。

屋敷の中には全くそんな感情が無いから忘れてたけど、やっぱりこの世界は悪意に満ちてるな。

「ところでヒロシ。
この前イリヤ姫様がシルバーウルフに襲われた時に助けたのはお前だな。

あの後知り合いの騎士に聞いたんだが、神の加護だって言ってたぜ。
何が起こったのか全く分からないって。

でもな、時期を同じくしてシルバーウルフを持って来たし、屋敷も下賜されたとなりゃ、お前が何かしたと考えるのが普通だろ。

さあ、教えろよ。」

ドラゴンスレイヤーの経歴は伊達じゃない。

顔は笑ってるのに、もの凄い圧で俺を睨んでいる。

「ええっと……」

「まあいい。それよりここに来たってことはウチの依頼を受けるってことだな。

ちょうど良い。ついて来い。」

俺とミーアは有無を言わされないうちに、スタイロンさんに連れられて冒険者ギルドに連行された。


「やあミルク嬢、ホールドはいるかい。」

「スタイロンさん、お久しぶりです。ギルマスなら上にいますよ。

あら、ヒロシさんとミーアさんも一緒なんですね。」

俺達はミルクさんへの挨拶もそこそこに、スタイロンさんにギルド長室に連れて行かれた。

「よー、ホールド。

こないだの件だけど、今から行こうか。

このふたりも行きたいってさ。」

俺もミーアも全力で首を横に振る。

ドラゴンスレイヤーのふたりが嬉しそうにどこかに行く算段をしているんだから、良からぬところに違いない。

「そうだな。討伐隊を作ろうかと考えてたんだけど、このふたりがいれば大丈夫か。

よし、行こう。」

ギルマスは速攻で冒険者スタイルに武装する。

そこにミルクさんが入って来た。

「ギルマス、その格好はもしかして。」

「そうだ、スタイロンも来たし、このふたりもいるしな。

ちょっと行ってくるさ。」
 
「お気をつけて。ご武運を。」

そしてそのままギルドの馬車に乗せられ出発。

王都の城門を出てしばらく経った頃、スタイロンさんがようやくどこに行くのか教えてくれた。

「おい、ドラゴン退治に行くのにこいつらに説明して無かったのかよ。

本当にお前ってやつは変わらねーな。」

ドラゴン退治に行くことに驚いている俺達を尻目に、ギルマスのホールドさんが、スタイロンさんを怒鳴りつけている。

「まあ俺達もいるし、お前らの実力なら問題ないだろうけどな。」

わけわからんな、この人達。



そうこうしている内に、ドラゴンの目撃情報があった山中に着いたようだ。

果たしてそこには、高さ10メートルはあろうかドラゴンがいたのだった。

「ちょっとやべえな。報告よりも大き過ぎる。

しかもレッドドラゴンじゃねえか。

スタイロンどうするよ。」

ホールドさんが真面目な顔でスタイロンさんを見ている。

「やるしかねえよ。

なあヒロシ。ちょっとやってみるか?」

きたよきたよ。

バッチリ振られちゃったよ。

わかった。わかりましたよ。
行って来ればいいんでしょ。

「ちょっと行ってきますから、もし危なかったら助けて下さいね。」

俺はミーアに待機するように言って、完全気配遮断を使う。

そしてそのまま風魔法を使って宙に浮かび、一気にドラゴンの首の後ろに回った。

当然ドラゴンには気付かれていないし、スタイロンさん達も消えた俺を探しているようだ。

俺はシルバーウルフの時みたいにドラゴンにもファイヤニードルを使う。

さすがにドラゴン。火の針が鱗に弾かれる。

俺は首の後ろの鱗を一枚浮かせて、そこから極大のファイヤーニードルを打ち込む。

ギャー!

悲鳴に似た断末魔を残して、ドラゴンの巨体は崩れ落ちた。

俺は元いた場所に戻り、気配遮断を切る。

当然倒れたドラゴンと突然現れた俺に3人は腰を抜かすくらいの勢いで尻もちをついていた。



「うーむ、完全気配遮断と風魔法、そしてファイヤーニードルの3重掛けか。

威力もそうだが、3重掛けなんて初めて見たぞ。

しかもこのサイズのレッドドラゴンは災害級だ。

それを一発で仕留めるとは、お前無茶苦茶だな。全くよー。」

「おい、ホールド。
こっち来てみろよ。

このドラゴン、スッゲー綺麗だぜ。

ピカッと光って静かに倒れたなんて、友達の騎士に聞いた話と全くおんなじだよ。

前はシルバーウルフで、今回はドラゴンだがな。」

ドラゴンの死体を前にスタイロンさん絶賛大興奮中だ。

「ホールドさん、今回の件はおふたりがやったことにしておいて欲しいんです。

あまり目立ちたくないんですよね。」

ホールドさんは少し考えて口を開いた。

「たしかにC級がドラゴンをやったとなると少し厄介だな。

わかった。俺とスタイロンが殺ったことにしておこう。

報酬は後ほどわたすからな。」

先に手配してあったのだろうか、馭者をやっていた冒険者のひとりがドラゴンを運ぶための大勢の人員を連れてきてくれた。

「おおースッゲーぜ。さすがはドラゴンスレイヤーのふたりだな。

よしお前ら、これを運んでギルドに戻るぞ!

今日は討伐宴会だー!!」

「「「おおー」」」

厳ついおっさん冒険者の掛け声で、馬鹿でかい荷車にドラゴンを積んで、冒険者達が運んでいく。

「じゃあ、俺達も帰るか。」

ホールドさんはそう言うと、俺に向かって小声で言ったんだ。

「新しいドラゴンスレイヤーの誕生だな。」





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