天才にして天災の僕は時に旅人 第一部

流川おるたな

選択肢なし

「モディさんの棲んでる海底都市に連れて行ってもらえませんか?」
 僕の言ったお願いに表情の曇ったモディさんが応える。
「もうこの海底谷の海底都市には他の人魚は居ないんだ」
「え!?」
「50年くらい前まで男の人魚が多く居たんだけど、ある日突然病気が流行り出してバタバタと死んでいった。生き残った数人の人魚は海底都市を出てしまい、それぞれどこかへ消えたんだよ」
 モディさんの言った事は僕にとってもちろん想定外だった。
「もしかしてこの海底谷に残ってるのはモディさんだけですか?」
「そうだよ。ここにはもう俺しか残っていない」
 げっ!?選択肢が無くなった。
「ちょっとすみませんそこで待ってて貰えますか?」
 僕はモディさんに聴こえないように芹奈と緊急会議を開く。
「モディさんを信じて大丈夫だと思うか?」
「ん〜、話の感じからして嘘を言ってるとは思わないけど...」
「そうか、僕も嘘はついて無いと思うのだけれど、悪いがこの人魚って微妙だと思うんだ」
「わたしも同意見だけど、女王様達から見れば案外違う印象かも知れないわよ」
「...それもそうだな。俺達の価値観とは違うという方に賭けてみるか」
「きっとたぶん恐らく大丈夫よ」
 芹奈の最後の言葉でやや不安が残ったが、モディさんに交渉することにした。
「モディさん、棲みなれたこの海底を離れるのは辛いでしょうけど、沖縄の女性人魚達の居る海底都市に永久に棲むことは可能でしょうか?」
「うん、良いよ」
「あの、ここを離れて永久にですよ?」
「うん、良いよ」
 これでもかと言うほど顔がゆるゆるなモディさんであった。
 こうして3人で岸まで向かい、モディさんをバブルで包んでテレポートボックスまで大嶽丸の風を使って運んだ。
 今回はマンションを経由せず、例の装置をセットして女性人魚の海底都市に転移する。
 テレポートボックスが着いた先は僕らが最初に訪れた宮殿の廊下だった。
 モディさんはテレポートボックスに興味津々だったが、さっさと外に出てもらいバブルを解除する。
 するとモディさんの下半身はミューさん達と同じように人間の足に変わった。
 海底都市内部に入るとモディさんは色んな意味で興奮していた。
 それを見た女性の人魚達がヒソヒソ話しを始める。
 ひょっとしたら男の人魚のフェロモンが溢れ出てているのかも知れない。
 騒動が大きくなる前に急いで女王の間へ向かうと、女王様とミューさんが話しをしているところだった。
 僕に気付いたミューさんが驚いた顔で言う。
「キキさん!?本当に自力で海底都市に来たんですね!?それにその人は...」
 あ、そうか。
 ミューさんは女王様と俺達の会話の内容を知らないんだった。

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