今夜12時、誰かが眠る。

下之森茂

怖がりな私

夏期休講にサークルで催された合宿で、
肝試しがあってから私は怖がりになった。

夜道や電話の音、暗い部屋でさえ
恐怖を感じて何度も友人に相談した。

「小学生じゃないんだから。」と笑われたが、
そんな彼女は肝試しの時に怖がる演技で
男子らに色香を振り撒いていた。

この友人とは対照的に
私は小学生の頃から可愛気はなかった。

肝試しや怪談話に興味は無く、
怖がる友人を励ましつつも
腹の中では呆れていた。

女子たちの他愛ない会話よりも、
授業や勉強の方が幾分かマシだった。

そんな友人は、今では男子の顔目当てで
怖い振りをしているのだからそっちのが怖い。

くじ引きで私とペアになった男子は、
脅かし役のが似合いそうな霊力の高さに
私は一切興味が湧かなかった。

顔も名前もおぼろげな幾人かの男子と
連絡先を交換したが結局全て削除した。

グループで遊びに誘われることはあっても、
大学へは遊びで通っている訳ではないので
丁重にお断りした。

私は建築士になるために
試験勉強をしなければいけないし、
将来設計は大学生のお嫁さんではない。

こんなサークルに参加したことさえ、
今となっては間違えだったと後悔している。

肝試し以降、背中に妙な視線を感じたり
不自然な物音に対して敏感になった。

それで友人からおはらいを勧められたが、
お香と胡散臭うさんくささの混じるお坊様から
「きっと霊感が高まったのでしょう。」
と何の役にも立たないご助言をたまわった。

私の計画にない、無駄な出費だった。

結局お祓いで何かが解決する事も無く、
今も私は不安な日々を過ごす。

オバケや妖怪などがもし現れたら
どのように対処すべきか、
お守りや盛り塩で撃退というには
あまりに現実味もない。

桃太郎ならば実力を行使して鬼を退治し、
バンパイアハンターも杭や銃弾など用意した。

きびだんごやニンニクで事が済むのなら、
話し合いから戦争に発展するはずもない。

オバケの出ないマンションが作れないものか。

電気を付けたまま床に就いた時、
電話が鳴って私は飛び起きた。

この電話には出てはいけないと直感する。

頭皮にジワジワと汗がにじむ。

コッ…。コッ…。

ベランダの窓が叩かれた。

外はもう真っ暗で、
ここはマンションの4階だ。

こんな夜にカラスが訪れて
イタズラをするわけがない。

私は怖くなった。

レースカーテンの向こう側。
ベランダに誰か居る。

人影が見える。オバケか、妖怪か。

電話は鳴り止むことはなく、
窓が叩かれる。

コッ…。コッ…。コッ…。コッ…。

強く、何度も叩かれる。

怖い。怖い。怖い。怖い――。

この恐怖に打ち勝つ方法を
私は知っていた。

そうして私は踏み出した。

カーテンを退けて、窓ガラスを開けた。
そこに立っていた人影はオバケだった。
それは見覚えのある、
脅かし役の似合いそうな男子。

オバケに肩を掴みかかられ、私は決心した。

私は踏み出した。踏み外した。

オバケの手を振り払い、
男子の身体を突き飛ばした。

男子はベランダの縁から
身を投げ出して地面に落ちる。

私は恐怖した。

これまで築いてきた
将来の計画が崩れることが、
私は何よりも怖かった。

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