永遠の抱擁が始まる

悪魔めさ

第一章 二人の抱擁が始まる【例えば世界が滅んでも1】

▼「永遠の抱擁が始まる完全版」が電子書籍で現在発売中!
https://amzn.to/48KEQxn
↑Amazonで「めさ」と検索するだけでヒットします。

✼••┈┈┈••✼••┈┈┈••✼

 スープを飲み干し、口元をそっと拭う。
 彼のグラスが空きかけていたので、あたしはワインを注いだ。
 
「お。ありがとう」
 
 短く言って彼があたしからビンを取り上げる。
 トクトクと小気味良い音があたしのグラスにも満たされた。
 
「ありがと。ねえ」
「うん?」
 
 彼の表情はまるで悪戯っ子だ。
 
「いつ考えたの? 今の話」
「退屈だった?」
「ううん。でもさ、五千年以上も前の話なんだよね?」
「そうなる」
「なんか馬車とかランプとかさ、文明が進み過ぎてない?」
「そうだなあ」
 
 彼はグラスを持ち上げ、口をつける。
 ふっと息を吐くと、彼は続けた。
 
「エジプト文明、黄河文明、インダス文明、あと、何だったっけ?」
「急になによ」
「世界の四大文明だよ。あと何だったっけなあ?」
「えっと、うーん……。マヤ文明?」
「それじゃない。もっと大きな文明」
「えっと、じゃあ、メソポタミア文明?」
「それだ!」
「それがどうしたの?」
 
 彼は得意げな笑顔を浮かべている。
 
「その四つの文明、だいたい四千年前からほぼ同時に発生してるんだ」
「ふうん」
「なんでだと思う?」
「わかんないよ、そんなの。たまたま?」
 
 そこでウエイターが次の料理を運んできてくれた。
 
「いよいよメインディッシュだね」
 
 彼が嬉しそうに三つ目の話を始める。
 



   例えば世界が滅んでも
 
 
 
 どこぞの街で死神が出ただとか、原因不明の病気が流行っているとか、愛の女神が建てたとされる巨塔が神に壊されてしまうだろうとか、もうすぐ天変地異が起こるとか、街には様々な噂が溢れている。
 中には大型の移動式シェルターを作って動物たちを乗せ、大洪水に備える奴もいる。
 
 俺はといえば、普段通りだ。
 夜は好きなように絵を描いて、昼はいつものように老齢の相棒に「今日も踏ん張ってな」と首筋を撫で、手入れをし、馬車を走らせる。
 
 乗せた客は二人組みだ。
 服装、乗せた場所、時刻から察するに踊り子だろう。
 目的地を聞けばやはり飲み屋だ。
 これから出勤らしい。
 
「ねえねえ、お兄さん」
 
 暇を持て余しているのか、声をかけてくる。
 話しかけてくるんじゃねえよと、心の中で密かに返す。
 
「なんでしょう?」
 
 用件を聞こうとしただけなのに、どういった感情からなのか一人が「きゃはは」と耳障りな声を立てた。
 
 最近の馬車乗りはサービスの一環として移動中に楽しい話をする奴が多いと聞く。
 俺もどうやらそういった「愉快な馬車乗り」だと思われたらしい。
 
「この馬、もうおじいちゃん?」
「……ええ。もうずっと頑張ってくれていますよ」
「きゃはは」
 
 何が可笑しいんだ、この小娘は。
 
「お馬さんもさ、加齢臭ってするの?」
「どうでしょうね。するんじゃないですか?」
「だからかー。この馬車、なんか変な匂いするもん」
「きゃはは。やめなよー。でも、確かにスピードはないよね」
 
 俺は馬が好きでこの商売をしている。
 休みの日にもちょくちょく会社の馬小屋を訪ねて世話を焼いたり、口笛交じりに相棒を写生をしながら過ごしたり。
 余計な言葉をいちいち発してうだうだ言う奴なんかより、何も喋れない馬のほうがずっと一緒にいて心地がいい。
 だがこの仕事、ここまで人間と接する機会が多いとは思わなかった。
 俺の考えが甘かったのだ。
 黙って馬車を走らせ、会話を必要としないものだと勘違いをしていた。
 
 小娘の片方が鼻歌を歌い始める。
 酒場でよく耳に入る品のない流行の歌だ。
 もう片方の娘もそれに合わせ、合いの手を入れてきた。
 こいつらもう酔っ払ってんのか?
 
 歌は替え歌で、内容は「年老いた馬の引く馬車は臭くて遅い」という内容だった。
 
 馬車を停め、相手を視界に入れぬよう、俺は振り向きもせずに言う。
 
「代金要らねえよ。テメーらもう降りろ」
 
 こいつらはどうせ「悪気がないのに」などと主張をするのだろう。
 テメーらの悪ふざけに俺が乗って、趣味の悪い冗談に面白可笑しい反応を返してやるとでも思ったのか?
 馬鹿が。
 
 こいつらは自分が無礼者だと気がついていない。
 何が侮辱に該当し、それがどれだけ罪深いことなのかを知らない。
 その無知さが、考慮の無さが腹立たしい。
 女でなかったら殴り飛ばしているところだ。
 
 もはや説教する気さえ起きねえ。
 小娘どもはピヨピヨと「いきなり降ろすだなんて横暴だ」だとか「それが仕事なんでしょ」という類の正論を喚いている。
 
「仕事放棄だ。だから金を取らねえって言ったんだろうが」
「このこと、あんたンとこの会社にチクるからね!」
「すっごい失礼な態度だよね! 絶対チクるー!」
 
 その「すっごい失礼な態度」ってえのは、お前らが引き起こしたことなんじゃねえのか?
 
 腹の中ではそのように煮えくり返ったが、俺は自分の気持ちを言葉にするほど器用じゃねえし、苛立ってもいる。
 だからただ大声で「早く出ていけ」と怒鳴った。
 
「ロウェイ、ちょっと」
 
 会社に戻るとすぐさま社長に呼び出される。
 案の定、あの踊り子ども、本当に会社に苦情を言いに来たらしい。
 
「お前、仕事やる気、あるのか?」
 
 小娘の軽率な言動に腹を立てるなという説教にだったら甘んじるが、どうして仕事への熱意を疑われるのか。
 この社長は安直で頭が悪い。
 
 俺が客を減らしたことは事実だし、そのことへの処分なら受けよう。
 しかし、客を減らした理由を勘違いし、曲解したまま先走って俺に仕事をやる気がないのだと決めつけられては道理に合わない。
 反省のしようがないではないか。
 
 さっきの客がいかに自分らの無礼を伏せ、どう大袈裟に俺のことを悪く言っていたのか想像することも容易だった。
 解せないのは、何故に社長は付き合いがある俺よりも見知らぬ小娘の言葉を信じているのか、だ。
 
「悪いって思っています」
 
 若い娘に立腹してしまった度量は、我ながら狭いと思う。
 
「謝るだけだったら簡単なんだよ!」
 
 社長の檄はいつだって的確ではない。
 
「お前はな、客を客だと思ってないんだよ!」
 
 俺の接客態度が最悪なのは客を客だと思っていないからではない。
 愛する者を侮辱されたからだ。
 それなのに、どうして断定されているんだ、俺は。
 他の可能性が想像できないのか、社長は。
 
「威圧して、ふんぞり返って、お前、王様じゃねえンだぞ!?」
 
 俺がいつ威圧してふんぞり返った?
 そういうことは威圧してふんぞり返っている奴に言いやがれ。
 だいたいいつになったらこちらの言い分を訊ねてくるんだこの社長は。
 
「それにお前、馬小屋に毛布を持ち込んでるだろ!」
 
 話題の展開がまるで読めない。
 寒い夜、ワラだけだと馬が凍える想いをするだろうと思って、それで確かに棲み家からは毛布を持ち込んだ。
 その話がどうして今ここで出てくる?
 今話しているのは踊り子からの苦情についての話題じゃねえのか?
 まさか本当に俺が怒った理由を論議から外しやがったのか?
 
「どうなんだロウェイ!? 馬小屋に毛布を持ち込んでるんだろう!? 答えろ」
「持ち込みました」
 
 馬小屋が持ち込み禁止だと知ってはいるが、それは火事や病気を避けるためのルールだ。
 日干しした毛布ぐらい問題ないはずだ。
 
 赤ら顔になった社長がドンとテーブルを叩く。
 
「お前、ルールは破るものだと思ってないか?」
 
 覚えているのはそこまでだった。
 どうやら俺はキレてしまったらしい。
 気がつくと社長が顔を押さえ、呻いている。
 
「ロウェイ、お前はクビだ!」
 
 クビのついでだ。
 社長をもう一発殴っておき、俺は馬小屋に向かった。
 
「すまねえな相棒。俺、不器用でよ。とうとうクビになっちまったよ。長い間、ずっと頑張ってくれてありがとな。今まで、本当にありがとな。お前が引退したら引き取ってやりたかったよ。でも、それもできそうにねえや。ごめんな。本当、勘弁な」
 
 馬の頭を撫で、抱き込む。
 
「最後まで面倒、見てやれなくってよ。ごめんな」
 
 相棒はブルルと首を摺り寄せてくれる。
 俺は泣いてそれを抱きしめた。
 毛布はきっと社長に捨てられてしまうだろう。
 それでも相棒の背にかけ、俺は空を見上げながら馬小屋を後にする。
 
 悪いことは重なるものだ。
 酒場でヤケ酒に明け暮れていたら、いつの間にやら酔っ払いに声をかけられていて、いつの間にやらくだらない会話に付き合わされ、いつの間にやら喧嘩をし、いつの間にやら数人を半殺しにして、気づけば何故か俺だけが店を追い出されていた。
 どうやら俺はどこにいたって悪者扱いをされるらしい。
 こんなことなら大人しく帰って絵でも描いていればよかった。
 
 口元を拭い、よろよろと家路を進み出す。
 
「あの、もし」
 
 店のドアが開いた気配がし、すぐに背後から女の声がしたが、どうせ説教の類だろう。
 無視して進む。
 
「あの、もし」
 
 もう一度聞こえたので振り返る。
 女はシスターだった。
 暴力はいけませんなどと、解りきっていることでも言いに来たのだろうか。
 
「なんの用だ?」
「あの、私、お酒が飲めないので、酔ってはいません。そこのお店の方にお願いされて、まだ小さなお子さんに絵本を読んでいて、寝ついてくれたので帰りの挨拶をさせていただいてたんです」
「それがどうした」
「さっきの喧嘩を見て……」
「それで?」
「あなたが心配になりました。痛そうだったから」
「痛そうなのはまだ店の中で伸びてる奴だ。俺じゃねえよ」
「いえ」
 
 シスターは少しうつむいて、やがて真っ直ぐに俺を見た。
 
「あなたが痛そうだったんです。ずっと我慢させられて、辛かったのではありませんか?」
 
 被害者扱いをされたことが初めてで、驚く。
 つい口を半開きにし、まじまじとシスターを眺めた。
 
「差し出がましくって、ごめんなさい」
 
 女はペコリと頭を下げる。
 
「私、いつもすぐそこの教会で暮しています。何もない小さな教会なんですけど、手当てぐらいはできますから」
 
 俺の両拳は皮膚が擦り切れ、腫れていた。
 冷水に浸され、包帯を巻かれる。
 口元のわずかな傷も消毒された。
 
「あの、なんつうかよ……、すまねえな」
 
 ボソリとつぶやくように、ようやくそれだけを振り絞るように言った。
 馬以外の奴に礼を言うことに慣れていないから苦労した。
 
「いえ、とんでもないです。傷つけられたのはあたなのほうだと思ったから」
 
 シスターは申し訳なさそうな顔をしている。
 
「なんで俺がそうだと思うんだ?」
「自分の心を傷つけられて泣く人もいれば、怒る人もいます」
 
 何を言い出すのか読めない奴もいるのだと、またもや驚かされる。
 
「泣くことができる人は楽なのかも知れません。傷ついたら周りから手を差し伸べられてもらえます。でも、あなたのように怒ってしまう人は怖がられてしまうでしょうから、理解されにくいのかも知れませんね」
「あんたは俺が怖くねえのか?」
「あなたは人の気持ちが解るから怒るんだと思うんです。そして、嘆くはずの場面で怒りが先立ってしまうだけなのだと」
「どうしてそう思った?」
「先ほどの揉め事の後、あなたは争いに勝ったことで喜んではいませんでした。悲しそうな顔になっていました」
「そうだったか? 俺は」
 
 そうだったかも知れない。
 少なくともこの女の言うことにはある種、説得力を感じた。
 
「手当て、そのよ、ありがとな」
 
 至極丁寧な治療が終わり、俺は教会の外でシスターと向かい合わせに立っている。
 
「いえ。遅い時間なのに引き止めてしまってごめんなさい」
「いや、そんなこたァねえよ。ちゃんとシラフになったら礼しに来るよ」
「お礼だなんて気になさらないでください。でも、またいらしてくださいね」
「え、ああ、おう」
 
 手当てをされたのは、拳や殴られた傷だけではなかった。
 今まで蓄積されていた胸の憑き物が落ちた。
 そんな清々しい気分だ。
 酔って危なっかしかった足元も今ではシャンとし、歩けている。
 
 夜空を見上げると、月がいつもより少しだけ綺麗に見えた。
 
 翌日。
 仕事を失ったものだから、俺は昼間から「昨日の礼だ」と称して教会を訪れている。
 本当の目的は、もっとシスターと話をしたい、ただそれだけで会話が嫌いな俺としては珍しい。
 
「あら」
「おう、来たぜ」
 
 シスターの周りには、小さな子供たちがいた。
 
「誰ー?」
「この兄ちゃん、誰ー?」
「この方はね、私のお友達なの。ちょっと待っててね」
 
 シスターが使った「お友達」という言葉が、心地良かった。
 
「おう、昨日、どうもな」
「お気になさらないでって言ったのに」
 
 くすくすと笑う仕草さえ、俺の何かを救っている気がした。
 
「俺よ、何か買ってこようと思ったんだけどよ、人に何か物なんてやったことなくてよ。花にしようかとも思ったんだけど花瓶がどこに売ってるのか知らねえからさ、手ぶらで来ちまった」
「いいんですよ。ゆっくりしていってくださいな。今、お茶を煎れますね」
「いや、気にしねえでくれ。そんなことされたら、また明日礼を言いに来なきゃならねえ」
「あら。だったら尚更です。紅茶、お好きですか?」
「おう、好きだ。いやそうじゃねえ。俺は何かタダ働きしに来たんだ。昨日の礼によ」
「いいから子供たちのお相手、お願いします」
「待ってくれ。俺ァ子供が苦手なんだよ」
 
 訴え空しく、シスターは台所があろうと思われる教会奥に行ってしまった。
 
「お兄ちゃん、なんていうの?」
「おいおい、なつくなよ。名前か? ロウェイだ」
「ロウェイー、いくつー?」
「縄跳び、できる?」
「絵本読んでー!」
「うるせえな! いっぺんに喋るなよ! 絵本なんて持ってくんな! 俺ァ字ィ読めねえぞ!」
 
 声を張り上げると、子供らはきゃっきゃと手を叩く。
 昨日の小娘どもと同じようなはしゃぎようだが、不思議と腹が立たなかった。
 
「なあシスター、むかつく客とあのガキども、どう違うんだろうな」
 
 紅茶を馳走になりながら疑問をぶつけてみる。
 短気な俺がどうして子供に腹が立たないのかが気になってしまったのだ。
 
 シスターが穏やかに微笑む。
 
「それはロウェイさんが心の中で、子供たちにしゃがんであげているからですよ。昨日のお客さんにはロウェイさん、対等に接してしまったんでしょうね。だから相手がまだ子供なのに真剣に怒ってしまったんでしょう」
「そうか。昨日の小娘どもにも子供だと思ってしゃがんでやればよかったのか。でも、そんなの失礼じゃねえか? なんか手加減されてるみてえでよ」
「手加減、いいじゃないですか。本気で来られたほうは背伸びに疲れちゃいます」
「そういうもんかねえ」
「そういうもんですよ」
「俺にゃあまだよく解らねえや。馬鹿だからよ」
 
 人間相手なのにこんなに喋れるのか俺は。
 我ながら饒舌な自分が意外だ。
 
 この日はガキどもと一緒に夕飯まで喰わせてもらい、帰宅する。
「なんだかんだで明日も『昨日の礼』が必要になっちまったじゃねえか」と帰り道で独り言をつぶやいた。
 
 で、結局俺は「昨日の礼」を毎日言うために教会に通うようになっていた。
 雨漏りをする天井を直せば果物を貰い、ガキどもの相手をすれば紅茶を出され、夕飯時だと質素ながらも食事を馳走される。
 おかげで礼が言い足りない。
 
「なんだか、あんたには貰いっぱなしだ」
「私もです。ロウェイさんからは色んなもの、いっぱい頂いていますよ」
「なに言ってやがんだ。何もやってねえじゃねえか、俺ァ」
「元気、貰っています」
「そうかなあ。あんたは俺がいなくても元気だと思うんだけどなあ」
「そんなことないですよ。私、ロウェイさんが来てくれるようになって笑う回数が増えました」
「本当か!?」
 
 人が喜ぶことで自分まで嬉しくなるだなんて経験を、また一つ思い知ってしまった。
 
「なあシスター」
 
 前々から気になっていたことがあって、訊ねる。
 
「あんた、いい人いないのかい?」
「恋人、という意味ですか?」
「おう。あんた器量もいいし、優しいじゃねえか。男が放っておくわけねえだろ」
 
 するとシスターは、ころころと指を口に当てて笑う。
 
「私は神様に仕えていますから、そういうのはないんです」
「あ、そうか。そうだったな。あんた俺に聖書なんて読まねえし、すっかり忘れてた」
「お望みとあれば読みますよ?」
「いや、勘弁してくれ。眠くなっちまう」
 
 そして二人で笑い合う。
 
 神様がライバルか。
 などと洒落たことを考え、俺は内心で慌ててその想いをかき消した。
 俺みたいな無粋な奴に言い寄られても困るだけだろう。
 
「さてと、そろそろ帰ェるわ。今日も邪魔しちまったな」
「とんでもないです。いつでも邪魔しに来てください」
「邪魔って言い切られるのも嫌だな」
「あはは。そうですね。ごめんなさい」
「いや、いいって」
 
 そこでふと、口元に添えられたシスターの手に違和感を覚える。
 手の甲に赤紫のアザがちらと見えた。
 
「どうしたんだい、その手」
「ああ、これですか。気づかない間にどこかでぶつけたのかしら」
「いけねえなあ、気をつけねえと。あんたに何かあったらガキどもが泣くぜ。じゃ、帰るわ。お大事にな」
「はい。ありがとうございます。みんな、ロウェイさん、お帰りになるわよ」
 
 子供たちの集合は、もはや毎日の儀式だ。
 
「ロウェイー! また明日ねー!」
「ばいばーい!」
「おう、また明日な、ガキども」
 
 一人一人の頭をくしゃくしゃと乱暴に撫で、家に向かう。
 
 帰り道中、なんとなくシスターのアザが気になったが、さすがに俺の思い過ごしだろう。
 
 見上げると、月が少しぼやけて見える。

コメント

コメントを書く

「文学」の人気作品

書籍化作品