姉の友達vs妹の友達
違和感……あと特売
「兄貴~、ふゆっち出たから、もうシャワー使っていいよ~」
「あの、ごめんなさいっ。先に使わせていただいて……」
「大丈夫大丈夫。兄貴は体が頑丈なのだけが唯一の自慢だから」
「おい。少しは兄をいたわれ」
「ふふっ、やっぱり仲良いですね」
「「いや、そうでもない」」
「ほら、やっぱり仲良しです。あははっ」
さっきの違和感を打ち消すくらいに優しい笑顔の真冬ちゃんは、千秋の部屋へと入っていった。
彼女の長い髪と千秋のツインテールが揺れるのを見ながら、俺は何故かそれが気のせいであって欲しいと思ってしまった。
……まあ、あんなはっきり聞いちゃったんだけど。
*******
シャワーを浴び、部屋で一息ついたところで、こんこんと控えめにドアをノックされた。この叩き方は、千秋じゃないのは確実だけど、姉さんとも違うような……
「はい」
「あの……失礼します」
なんとドアの隙間から顔を出したのは、真冬ちゃんだった。
一体何の用だろうか。
「どうかした?ていうか、千秋は?」
「千秋ちゃんは、ベッドに横になったら、眠り始めちゃって……それで、今のうちにお兄さんに言いたいことが……」
「言いたいこと?」
自分から招いておいて寝るとは何事だと千秋に呆れながら、真冬ちゃんに向き直ると、彼女はまだしっとり濡れた黒髪を丁寧に撫でつけてから口を開いた。
「今日は本当にありがとうございました。お兄さんって、優しいんですね」
「い、いや、それほどでも」
「ふふっ……お兄さんが私の家族ならよかったのに」
「…………」
ふわふわした時間の中で、最後の言葉だけがずっしり響いた。
だが、言葉とは裏腹に瞳は穏やかな光が揺れていた。
「お兄さん、もしよろしければ……また、よろしくお願いしますね」
「えっ、あ、うん……」
そう言って、真冬ちゃんは千秋の部屋へと引き返していった。
……特に変な意味はないよな?何て事ないやりとりだよな?
それから、真冬ちゃんが帰るまで、俺は珍しく読書をした。
*******
「おっ、直登じゃねーか」
「……どうも」
次の日の帰り、今度は水瀬さんに会うとは……てか、派手な金髪だから、割と遠くからでもわかる。それはさておき、まあ今日は特に用事はないだろ。
「もし暇だったら、ちょっと付き合ってくれよ」
あったよ。しかも、前と違って控えめな頼み方だよ。
こんなの、ついつい聞いてみたくなるに決まってるだろ。相変わらず目つきが怖いけど。
「な、なんでしょうか……」
「そんな警戒すんなよ。てか、もうちょい喜べよ。こんな美女と一緒に帰るイベント、なかなか起きねえぞ」
「…………」
自分で言っちゃったよ。なんて清々しい……まあ、否定はしないけどさ。
「それで、今日も特売か何かあるんですか?」
「おっ、察しがいいねえ。まあ、この前のスーパーとは違うんだけどな」
予想的中。まあ、この前のは案外楽しかったから、別に構わないんだけど。
すると、水瀬さんはニヤァッと怪しげな笑みを浮かべた。
「今度の戦いは……前より過酷だぞ」
「……マジ、ですか」
思わずごくりと唾を飲み込んでしまった。
……ただのスーパーの特売だけど。半額の弁当の為に戦ったりしないけど。
*******
「な?すごかったろ」
「ええ。あの双子のおばさんはヤバかったです……」
「あの二人はこの辺りでは有名なんだよ。過去に二店舗ほど出禁になったらしいぞ」
「すげえ……って、出禁じゃないですか。入れなくなってるじゃないですか」
「だよな。あっはっは!」
少し大きめの袋を手に、俺と水瀬さんはスーパーから出た。いやあ、すごい戦いだったぜ。卵の安売りなんて、一人一個なのに、三週してる奴いたし……。
まあ、何はともあれ、それなりの達成感と共に店を出ることができた。
「いやあ、今日も助かったよ。ありがとな」
「はい、これ……お釣りです」
「おう。あと袋もアタシが持つよ。どうせすぐ別れるからな」
「俺が持ちますよ」
「いや、いーよ。こんくらい」
やはり断られるが、この前とは違い、何故か今日は引く気になれなかった。
「あー、何と言いますか……ここで水瀬さんに荷物を全部渡してしまうと、日頃女の子には優しくしろというウチの姉に、説教をされてしまうと言いますか……」
「美春にか……ああ、確かにアイツは言いそうだな……てか、今……!」
実際は嘘だが、心が揺らいでいる今がチャンスかもしれない。
「なので、このぐらい任せてくださいよ!」
「……じゃ、じゃあ、頼むわ」
そう言って彼女は向こうを向いた。なんか耳が赤い気がするんだが……。
「あれ?水瀬さん、どうしたんですか?」
「るっせ。こっち見んな。見たら擦り潰す。握り潰す」
「怖っ!いきなりどうしたんですか!?」
「い、いいから前歩け!ほら、そこの十字路左だから!」
いきなりよくわからない怒りをぶつけられたが、まあいいだろう。このままスッキリせずに帰るよりはマシだ。
「……女の子とか久しぶりに言われたよ」
そっぽを向いた水瀬さんがボソボソと何か呟いた気がしたけど、車の音にかき消されて聞こえなかった。
「あの、ごめんなさいっ。先に使わせていただいて……」
「大丈夫大丈夫。兄貴は体が頑丈なのだけが唯一の自慢だから」
「おい。少しは兄をいたわれ」
「ふふっ、やっぱり仲良いですね」
「「いや、そうでもない」」
「ほら、やっぱり仲良しです。あははっ」
さっきの違和感を打ち消すくらいに優しい笑顔の真冬ちゃんは、千秋の部屋へと入っていった。
彼女の長い髪と千秋のツインテールが揺れるのを見ながら、俺は何故かそれが気のせいであって欲しいと思ってしまった。
……まあ、あんなはっきり聞いちゃったんだけど。
*******
シャワーを浴び、部屋で一息ついたところで、こんこんと控えめにドアをノックされた。この叩き方は、千秋じゃないのは確実だけど、姉さんとも違うような……
「はい」
「あの……失礼します」
なんとドアの隙間から顔を出したのは、真冬ちゃんだった。
一体何の用だろうか。
「どうかした?ていうか、千秋は?」
「千秋ちゃんは、ベッドに横になったら、眠り始めちゃって……それで、今のうちにお兄さんに言いたいことが……」
「言いたいこと?」
自分から招いておいて寝るとは何事だと千秋に呆れながら、真冬ちゃんに向き直ると、彼女はまだしっとり濡れた黒髪を丁寧に撫でつけてから口を開いた。
「今日は本当にありがとうございました。お兄さんって、優しいんですね」
「い、いや、それほどでも」
「ふふっ……お兄さんが私の家族ならよかったのに」
「…………」
ふわふわした時間の中で、最後の言葉だけがずっしり響いた。
だが、言葉とは裏腹に瞳は穏やかな光が揺れていた。
「お兄さん、もしよろしければ……また、よろしくお願いしますね」
「えっ、あ、うん……」
そう言って、真冬ちゃんは千秋の部屋へと引き返していった。
……特に変な意味はないよな?何て事ないやりとりだよな?
それから、真冬ちゃんが帰るまで、俺は珍しく読書をした。
*******
「おっ、直登じゃねーか」
「……どうも」
次の日の帰り、今度は水瀬さんに会うとは……てか、派手な金髪だから、割と遠くからでもわかる。それはさておき、まあ今日は特に用事はないだろ。
「もし暇だったら、ちょっと付き合ってくれよ」
あったよ。しかも、前と違って控えめな頼み方だよ。
こんなの、ついつい聞いてみたくなるに決まってるだろ。相変わらず目つきが怖いけど。
「な、なんでしょうか……」
「そんな警戒すんなよ。てか、もうちょい喜べよ。こんな美女と一緒に帰るイベント、なかなか起きねえぞ」
「…………」
自分で言っちゃったよ。なんて清々しい……まあ、否定はしないけどさ。
「それで、今日も特売か何かあるんですか?」
「おっ、察しがいいねえ。まあ、この前のスーパーとは違うんだけどな」
予想的中。まあ、この前のは案外楽しかったから、別に構わないんだけど。
すると、水瀬さんはニヤァッと怪しげな笑みを浮かべた。
「今度の戦いは……前より過酷だぞ」
「……マジ、ですか」
思わずごくりと唾を飲み込んでしまった。
……ただのスーパーの特売だけど。半額の弁当の為に戦ったりしないけど。
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「な?すごかったろ」
「ええ。あの双子のおばさんはヤバかったです……」
「あの二人はこの辺りでは有名なんだよ。過去に二店舗ほど出禁になったらしいぞ」
「すげえ……って、出禁じゃないですか。入れなくなってるじゃないですか」
「だよな。あっはっは!」
少し大きめの袋を手に、俺と水瀬さんはスーパーから出た。いやあ、すごい戦いだったぜ。卵の安売りなんて、一人一個なのに、三週してる奴いたし……。
まあ、何はともあれ、それなりの達成感と共に店を出ることができた。
「いやあ、今日も助かったよ。ありがとな」
「はい、これ……お釣りです」
「おう。あと袋もアタシが持つよ。どうせすぐ別れるからな」
「俺が持ちますよ」
「いや、いーよ。こんくらい」
やはり断られるが、この前とは違い、何故か今日は引く気になれなかった。
「あー、何と言いますか……ここで水瀬さんに荷物を全部渡してしまうと、日頃女の子には優しくしろというウチの姉に、説教をされてしまうと言いますか……」
「美春にか……ああ、確かにアイツは言いそうだな……てか、今……!」
実際は嘘だが、心が揺らいでいる今がチャンスかもしれない。
「なので、このぐらい任せてくださいよ!」
「……じゃ、じゃあ、頼むわ」
そう言って彼女は向こうを向いた。なんか耳が赤い気がするんだが……。
「あれ?水瀬さん、どうしたんですか?」
「るっせ。こっち見んな。見たら擦り潰す。握り潰す」
「怖っ!いきなりどうしたんですか!?」
「い、いいから前歩け!ほら、そこの十字路左だから!」
いきなりよくわからない怒りをぶつけられたが、まあいいだろう。このままスッキリせずに帰るよりはマシだ。
「……女の子とか久しぶりに言われたよ」
そっぽを向いた水瀬さんがボソボソと何か呟いた気がしたけど、車の音にかき消されて聞こえなかった。
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